#3
>>Iris
ジョッシュの運転するバギーに乗った私達は、四つ脚の群れがいたと言うエリアを目指していた。
位置関係としては、居留地を中心とすると東方にあたる岩場にC3採掘場があり、採掘場と居留地の中間地点が比較的開けた土地であったため、軌道ステーションへの物資搬出に使うHLV発着場になっている。
そして反対側である西方面はまばらな木々が生えるだけの荒れ地と、岩が広がる丘陵地帯になっているけど……今回はその岩場が狩り場になる。
めぼしい資源もない荒れ地に用事のある人間は少なく、時折出没する原生生物を目当てに狩りに出る物好きぐらいしか訪れる事はない。
まぁ、その物好きのうちの一組が、今の私達というわけなんだけど。
今回のメンバーのうち、ジョッシュと私、そしてトワは狩りがメインだけど、最後の一人であるヘルミナの目的はおそらく別のことだろう。
というのも彼女はギルドの中でもかなり知られたガンマニアであり、ガンスミスでもあり……ついでに奇人としても有名だからだ。
彼女は資材部でブラスターの整備・調整を担当していると聞くけど、おそらくそれは趣味の延長。
つまり趣味を仕事にしているタイプの人間だというのが周囲の人物評で、仕事の日も、休日も、日がな一日ブラスターを弄っている。
それを変人と言わずになんと呼ぶのか。
まぁ、昔大変な事があったらしいので、気持ちはわからなくもないけどね。
それにヘルミナほどではないにしても、スクール在学中は男子生徒の多くはブラスターに夢中だったから、何か心躍るものがあるのだろう。
――ブラスター。
辺境では一般的な個人用携行兵器。
銃本体、もしくはカートリッジに充填された光子エネルギーをC3で増幅・変調し破壊エネルギーとして放出する銃で、民間で用いられる護身用のモデルから軍用の殺傷力が高いモデルまで様々なグレードのものが流通している。
ギルドではスクールの専門課程に進む10歳の時点で、民間グレードの標準的なハンドガン型ブラスター……の子供仕様である、「Xthキャリバー」という銃が支給される。
10歳で支給されるから「テンス」だけど、字面がXthなので、生徒達はみな「エクス」キャリバーと呼んでるけどね。
ともあれ、Xthに代表されるブラスターは内蔵されたC3によって性能や特性が変化するから、自分の扱いやすいように調整・改造を施すことが一般的になっている。
そういう点も含めてブラスターに慣れるための「教材」がXthキャリバーな訳だ。
もっともXthは子供用だから普通はスクールを卒業する時点で新しいブラスターに持ち替えることが一般的だ。
だが、ジョッシュと私は未だにXthを使っている。
ジョッシュは専用のブラスターの取り寄せが間に合っていないという理由で。
私は……小柄で手が小さいから、普通のモデルよりXthの方が使いやすいという理由で。
もっともカスタムはしてあるから、私のXthでも軍用モデル並の出力は出るけどね。
ちなみにトワが使うブラスターはXthではない。
本来であればまだスクールに在籍しているトワはXth以外を持てない決まりだけど、トワの場合は……亡父であるアルフレッドおじさんの形見である軍用モデル「ガーディアン」をそのまま使っている。
私も何度か撃たせて貰ったことがあるけど、大人用の軍用モデルだけあって、重いし、取り回しは難しいし。トワは良くアレを片手で撃てるものだと驚いた記憶がある。
私もトワもそれぞれ自分で調律したC3をブラスターに組み込んでいる。
私のブラスターは朱のC3を内蔵した、チャージと呼ばれる一射あたりの威力を増幅させる仕様。
トワのブラスターは……表向きはラピッドと呼ばれる、碧のC3を内蔵した連射仕様ということになっている。
実際はまるで別物だという事を知っているのは、本人と私、あとは父さんだけだけどね。
そして、問題はヘルミナだ。
彼女が今回持参したものは、パーツ交換によってブラスターとしての原型をとどめないレベルにまで改造されたもの。
両手持ちの大型モデルに見えるそれは、もはやブラスターではない別物で、軍用兵器である上位モデルのアサルトに近い仕様になっている。
あれって、年に何度か居留地を襲撃してくるオーガと呼ばれる大型の原生生物と正面から戦えるレベルの火力じゃないだろうか。
四つ脚相手だと、全弾当てたら挽肉になるんじゃないかとも思うけど……いや、食べるは良いかもしれないけど、回収するのも持ち歩くのも大変だよ、それ。
それにいかにギルドの人間であっても、重要拠点を守る保安部のスタッフ以外は軍事モデルの所有は禁止されている。
当然ヘルミナもその事は知っているはずだけど……えっ、知ってるよね?ヘルミナ?
……ともあれ、きっとギリギリ民間モデルの範疇に収まっているのだろうと信じたい。
以前彼女のブラスターを見かけたときはまだブラスターとしての原型を保っていたので、最近大幅な改良を加えたはず。
なので、今回は狩りを名目とした試射こそがヘルミナの目的だと推測したわけだけど……。
「アイリス」
バギーを運転するジョッシュと、助手席に座ったヘルミナを見ながらそんな事を考えていると、隣に座ったトワに声を掛けられた。
全くと言っていいほど手入れしていないのに長く綺麗な柔らかい銀髪。
そしてまるで水晶のように虹色に輝く瞳を持つ、私より少し背の高い華奢な女の子。
すらっとした肢体は私にはとても綺麗に見えるけど、多分男性受けはしない。
主に胸回りが。
そんな彼女は、私の幼なじみにして親友。
そして誰よりも大事な義妹だ。
そんなトワは黙っていれば美少女なのだけど、しゃべるとおかしな事をよく口走る。
そのくせ表情をあまり表に出さないので、何を考えているのか良くわからないと周りから評されることが多い。
そんな私の妹だが、実際はとても豊かな感情表現をする。
確かにトワは感情を顔に出さない。というよりトワが言うには出せないらしい。
そのせいかどうかは判らないけど、トワの感情は瞳に出る。
虹色の瞳は元々光の加減によって様々な色に変化して見え、トワの瞳の色は定まった色を持たない。
あえて言うなら虹色、という表現が妥当なのだろうけど……そんな彼女が強い感情を抱くと、トワの瞳は彼女の感情を反映した色に染まる。
もちろん、多くの人はそれに気付いていない。
なにせ微妙な変化だからね。
気付いているのはたぶん、私と父さんぐらいじゃないだろうか。
ちなみに今、トワの瞳は暗緑色になっている。
これは、やる気が失せている時に見せる色だ。
どれどれ、お姉ちゃんが妹の心理分析をしてあげよう。
今の状況を考えると……このバギーは実用性重視の無骨な作りだからシートのクッションもサスペンションも必要最小限のものしか装備されていない。
それが悪路を行くわけだから、当然のことながら半端な揺れじゃない。
それに加えてトワは薄着、いやそれ以前にボトムスを履いてないし、クッションになる程肉付きが良い訳でもない。
現にフレームむき出しの車体に体のあちこちをぶつけている。
ということは、座り心地の悪いシートにお尻のあたりが痛くなっているのだろう。
で、結果として気分が萎えている、と。
よし、この線で確認してみよう。
「……お尻、痛くなった?」
「うん」
簡潔に答えつつ、頷くトワ。
どうやら正解だったようだ。
まぁ、トワの考えていることはこんなに冷静に推理しなくても、大抵は手に取る様に判るけどね。
ただ、このままだと到着する前にやる気をなくして帰ると言い出しかねない。
仕方がないので、効果は少なくてもケアはしておこうか。
「ほら、支えててあげるから、私のジャケットをシートに敷いて、この上に座って」
「うん」
単調な返事を繰り返すトワの声には相変わらず感情の起伏が見えないけど、暗緑色だった瞳が鮮やかな黄色に変わってゆく。
これは喜んだり、気分が上向いたりしたときの色だ。
座り心地が劇的に改善した訳じゃないだろうから、たぶん私がトワを気に掛けた事が嬉しいんだろう。
そう考えると、私の顔にも自然に微笑みが浮かぶ。
コロコロと色を変えるトワの瞳は、本当に見ていて飽きない。




