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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部8章『土竜の歌』ティンバリス-誤災の惑星
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#23

だけど、その前にマリエッタには伝えておくべき事がある。


「だからね、マリエッタ。自分の命を簡単に投げだそうとしないで。秘書官は管理官を支える仕事なんだから、管理官より先に死ぬとか、職務放棄だよ?」

「えっと……はい。努力、します。でも……あの、アイリスさん?セレスティエルって、寿命長いんですよね?その……マリエッタは普通の人間だから、きっと先に死んじゃうと思うんですけどぉ……」

「それは不可抗力でしょ?それに、一緒に旅をしてたら寿命を延ばす方法見つかるかもしれないし。スゥ局長みたいに」

「……マリエッタがあのタヌキババアみたいになるのはちょっと困ります」


 そう言いながらアリサがブリッジから降りてきた。随分と早いね、しかるべき処置。

 そう思いながら私がアリサを見つめると、彼女は軽く頭を振った。


「とりあえず学費の分だけ処理を行いました。『しかるべき処置』は私がするよりも……マリエッタ自身の手で片を付ける方が良いかと思いまして」

「ああ、なるほど。それはいい考えだね」

「はひぃ!?」


 たぶん今のマリエッタには無理かもしれないけど、もっと自己肯定感が高まれば……私達が手を下すまでも無く、マリエッタは自分で自分の「貸し」を取り返すことが出来るだろう。

 むろん、私達もその取り立てには協力するつもりだけどね。


「ところで先ほどの秘書官が管理官より先に死んではいけないというお話ですが。それ、ギルドの服務規程でも正式に定められている話ですからね?」


 そう言ってアリサが説明してくれた専属秘書官についての話は私にとっても初耳だった。

 なんでも管理官の業務は高度かつ秘匿性の高いものだから、秘書官が入れ替わるのは大問題なのだそうで、それ故に秘書官は「管理官より年若い者」を任命するのが基本ルールなのだとか。

 年若いというのは、要するに管理官よりも先に死ぬリスクの低い人間として一番わかり易い属性だからね。


 つまり今回マリエッタが私の専属秘書官に任命されたのも、その年齢に関する基本ルールが関係しているらしく、肉体年齢が16歳である私の秘書官になれる人間はそもそもマリエッタぐらいしかいなかったのだろうとアリサは推測した。

 でも、その「たまたま」が私を補佐する最高のパートナーになりうるというのは、何という僥倖だろう。


「うん、やっぱりマリエッタは私の秘書官として最適。というかマリエッタ以外あり得ないね。これからも末永くよろしくね?」

「はいっ、不束者ですがよろしくお願いしますっ!」

「アイリス、それ結婚してるみたい」

「うひゃぁ、私、あのギルドネットでも噂のブースタリア管理官様と結婚なんですかっ!?」

「いや、違うからね?そういう意味じゃないからね?」

「でも、私もマリエッタの事、好き」

「うひゃぁ、今度はトワさんにも告白されましたっ!マリエッタ、人生初のモテ期ですぅ!」

「マリエッタ!それはいけません!トワ様の愛は私のみに注がれれるべきです!」


 なんだかんだでいつも通りのじゃれ合いになったけど、マリエッタに笑顔が戻ったのなら、それもいいだろう。


 ……いや、まだもう一つ話しておくことがあったっけ。


「ところでマリエッタ」

「はいっ!」

「これは命令じゃなくて提案なんだけど。ギルドの役職者って姓と職位を組み合わせて呼称するのがルールだよね?でもマリエッタの場合は『マリエッタ秘書官』っていう名と職位の組み合わせになってる」

「……はい」

「だからね。あなたが成人するまでの1年間だけでもいいから……私の養子にならない?そうすれば『ブースタリア秘書官』って名乗れるよ」


 そう言葉にするのには少しだけ勇気が要った。

 私にはすでに2人も義理の妹――片方は私よりも随分と年上だけど――がいるけど、養子は初めてだ。

 いや、養子以前に夫も恋人もいないけど。でも、マリエッタの事を考えると……この子には姓が必要だと強く思ったんだ。

 そして、未成年であるマリエッタに姓を与える方法は一つだけ。だから私はそう申し出たのだけど……。


「アイリス、ずるい。マリエッタ、『エンライト』の方が格好いい。だから私の養子になるといい」

「トワ様?それを言うなら『シノノメ』の方が由緒正しい姓ですよ?マリエッタは養子として、トワ様は妻としてシノノメ姓を名乗られるのが正解に決まっています!」


 ああ、私の一世一代の決心を、妹達はどうしてこうも引っかき回してくれるのだろうか……。

 でも、私達3人の申し出を聞いたマリエッタは……きょとんとした表情を浮かべていたが、やがて申し出の意味を理解したのか、大きな瞳に大粒の涙を浮かべ……号泣した。


「わたし、いいんですかっ!みなさんといっしょで、いいんですかー!」


 マリエッタが自分の事を「わたし」と呼んだのを初めて聞いた気がする。

 もしかするとマリエッタが自分の事を名前で呼ぶのは、幼さ故ではなく……自分のアイデンティティを守るための防衛行動だったのかもしれない。


 そして……新しいアイデンティティを与えたいという申し出が彼女にどういう影響を与えたかは……想像に難くない。


「いいんだよ、マリエッタ。名前の件はゆっくり考えて自分で決めたらいい。マリエッタの人生はマリエッタのものだからね」


 マリエッタの小さな体を抱きしめながら、私はそう彼女に告げた。


 その後、私にしがみついて号泣するマリエッタに何故か嫉妬したトワがマリエッタごと私を抱きしめてきて、それを見たアリサも嫉妬したのかさらに全員まとめて抱きしめに来たせいで私達はソファに倒れ込み……もう、訳がわからなくなった。

 しばらくして泣き止んだマリエッタが静かに寝息を立て始めた頃、何故かアリサも同じように寝息を立てていた。


 そっか、アリサはドラゴンから受けたダメージが抜けきってなかったんだ。それなのにマリエッタの「奨学金」の処理を迅速に済ませてくれたアリサに私は感謝の念を捧げながら、そっと2人の抱擁をほどいてブリッジへと向かった。

 こういう場合に真っ先に寝ているはずのトワは、今回珍しく起きていたのか私の後を付いてきた。丁度いい、トワにも話があったんだ。


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