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>>Towa:Today
教材用の模範調律とはいえ調律済みのC3は星外へ輸出できる商品になるから、ギルドから調律報酬が貰える。さほど大きくないC3、それもCランクを1つだけなのでほんのお小遣い程度だろうけど。
リーザロッテ先生に依頼されたデモンストレーションのために欠席した自分の講義でノートの代筆を頼んでいる友達に何かを奢るぐらいの額になれば御の字ってとこかな?でもエミリーはお高いスイーツが好きだからなぁ。スクールの依頼で授業を休んで働いているのに、自腹を切ることになるのはとても理不尽だと思ったけど……まぁ、友達づきあいも必要だろう。
そんなことを思いながらスクールの隣に建物がある資材部の窓口にC3を提出し、調律の手数料としていくばくかのGCトークンを受け取った。予想よりは少しだけ高かったけど、エミリーが好きなスイーツには少し足りない。どうしたものか。
今日の講義は休むと伝えてあるのでスクールでの予定はこれで終わりだけど、家に帰るには少し時間が早い。この後はどうしようか?折角だから教室に戻って講義に途中参加する?それとも少し早いけど食堂へ行って一息つく?あるいは、資材部でC3調律のアルバイトでも引き受けようか。そんな事を考えていると、私を呼ぶ声がした。
「あ、トワ!ちょうど良かった、探してたんだよ!」
声の方に目をやると、予想通りの相手がいた。三つ編みにした長いライトブラウンの髪。朱水晶のように美しいクリムゾンの瞳。髪を束ねるリボンも瞳と同じ朱色でとてもよく似合っている。背は少し低いけれど、メリハリの効いたグラマーな肢体で、くるくると変わる豊かな表情は見るものを飽きさせず、そして魅了する。
どこに出しても恥ずかしくないその美少女は、私の幼なじみにして親友、そして……義理の姉でもある、アイリス。私の大好きなアイリス・ブースタリアだ。
「アイリス。何かあった?」
「うん、ちょっとね……」
私とアイリスは同じ家に住んでいる。私は両親を亡くし、7年ほど前からアイリスの家に養女として引き取られているので、家族として同じ屋根の下で暮らしている。だから今朝も普通に顔を合わせて話もしているし、毎朝のルーチンワークであるやらかしを叱られもした。それなのに、わざわざ探しに来るということは、何か急ぎの用事があるってことだろう。
感情が顔に出やすいアイリスが深刻そうな顔をしていないということは、トラブルの類いではない。むしろこれは何か新しいいたずらか、楽しい事を企んでいるときの表情だ。
「さっきジョッシュのヤツが北西の岩山で四つ脚の群れを見かけたんだって。で、一緒に狩りに行かないかってお誘いが来たんだけど、どうせならトワもどうかと思って。今日は模範調律終わったあとは暇って言ってたよね?」
四つ脚とはこの惑星の固有種である原生生物の一種だ。大型で危険な生物が多いこの星の原生生物の中では比較的危険度が小さく、またその肉は食用として重宝されている。この星には存在しないけど、人類が惑星開拓の際に持ち込むことが多い家畜である「豚」によく似ているって聞いたことがある。
ギルド保安部が積極的に駆除するような危険な存在じゃないし、肉は食用になるので狩れば資材部がGCと交換してくれる。何なら、持ち帰ってそのまま食卓に並べても良い。四つ脚は居留地の子供でも年長者であれば比較的容易に狩ることができるから、見つけたら早い者勝ちの狩りイベントが開催される、そんな存在なんだ。
「わかった。すぐ出発?」
先ほど支給されたGCは私が必要とする額より少し少なかったから、講義ノートのためにも参加しないという選択肢は無い。
「ジョッシュは直ぐにでも出たいらしいよ。一応、トワのブラスターも持ってきてる……けど」
「けど?」
「その格好で行くの?」
アイリスに言われ、私は自分の服装を確認した。男性もので膝上まで丈がある長い無地の白Tシャツ。お義父さんのお下がりの黒い鉱夫用ワークジャケット。ゴツめのワークブーツ。以上。
「特に問題ない」
「いや、大ありでしょ?」
そういうアイリスの服装を確認する。普段はお洒落な服装が多いアイリスだけど、今日は丈の短い白いタンクトップのシャツの上からラフに羽織ったブラウンのジャケット。デニム地のホットパンツ。ブーツは私と色違いだけど、おそろいのやつ。どちらかというとスポーティな服装だ。
「アイリスの服装とあまり変わらない。……あ」
「トワが今思ってることは間違ってるって断言できるけど。なにが違うと思ったか、一応言ってみて?」
「……私、下着はいてない。アイリスはたぶん、はいてる。そこが違う」
「はぁ……」
ものすごく呆れた様子でため息をつかれた。正直、私は服装やらオシャレやらには全く興味が無い。自室でいるときには別に服を着なくてもいいと思っているし、なんなら寒くさえなければ外を出歩く際も服が無くても困らない。
ただアイリスはそうではないようで、とにかく私に服を着せようとする。誰かに見られたらどうするんだって毎朝のように言われるけれど、私の答えはいつも同じ。「別に見られても減るものでもない」。
自分で言うのもなんだけど、アイリスと違って貧相な私の裸を見たがる人がいるとも思えないし。と、話が逸れた。
「あのね、トワ?さすがに居留地の外を出歩くのにそのブカブカな服はまずいでしょ?岩場なんだから引っかけるかもしれないし、歩きにくいと思わない?」
言われてみればアイリスの服装は彼女の体にフィットしている。私の服は男性用やお義父さんのお下がりなのでサイズが大きく、体に合っていない。でも、それなら……。
「別に。動きにくければ脱げばいい」
「はぁぁぁぁ……」
さらに呆れた様子でため息をつかれた。私、何か間違った答えを返したのかな?
「トワに女の子として……いや、ヒトとしての常識を求めるのは無理だって判ってるけど」
「なんかすごく酷いこと言われた気がする」
「とりあえず、ジョッシュも一緒に行くんだから。服を脱ぐ可能性があるなら、せめて下着だけは履きなさい。いや、そもそもちゃんと毎日下着は履きなさい」
「解せぬ」
そして先ほど入手したばかりの調律報酬は、パンツになった。どうしてこうなった。
待ち合わせは居留地の西側ゲート前との事なので、アイリスとゲート前へ急いだ。ゲートの前には停車した光子駆動の中型バギーと一組の男女。黒髪の優男は顔見知りであるジョッシュ。私の一つ年上で、アイリスの元クラスメイトだ。昔からことあるごとにアイリスに勝負を挑んではコテンパンに負けている姿をよく見ていたけど、まぁそれなりに努力家だと思う。彼は私達の姿を見つけると手を挙げて挨拶してきた。
もう一人、短い赤毛の女性の方は……よく知らない人だけど、たしかヘルミナと言っただろうか?話した事は無いけど、ジョッシュと一緒にいるところを何度か見かけた事がある……ような気がする。年齢は良くわからないけど、背丈は私とそう変わらないので、小柄な方だと思う。
ジョッシュは昨年スクールを卒業し、保安部で働いている。今日は非番なのか私服だけど、最近見かけるときは保安部要員の制服を着ている事が多い。ヘルミナは……雰囲気的にジョッシュの恋人、だと思う。前に見かけたのが資材部のあたりだから、資材部で働いているのかもしれない。
ちなみにアイリスは在学中から開拓団長である父親――私のお義父さんでもある――の手伝いをしており、スクール卒業時にギルドの管理官になる試験を受けたらしい。
本人はあまり詳しいことを教えてくれなかったけど、受験したというだけで周りの大人達が驚愕し、驚喜していたから、かなりすごい事なんだろう。そして最後に、まだスクールの学生である私。
この4人で四つ脚を狩ることになるようだ。




