#12
>>Towa:Today
2人で旅立つ事を決めた後、お義父さんにその事を報告した。CM41F3Cを出て行く理由としてアイリスが考えてくれた「自由意志での調査任務」をお義父さんに提示し、許可を得た。
心配性なお義父さんが特に反論する事もなく頷いたことに驚いたけど、この時何故お義父さんがあっさり同意したのか、私はその理由に気付く事はできなかった 事情を知った後になって振り返ってみれば、このときのお義父さんには反論や拒否する余地は無かったと判ったんだけどね。
調査活動で向かう最初の目的地はここから8パーセク……26光年ほど離れたところにあるクレリスという名の、知の集積が行われている惑星だ。もちろん辺境の資源惑星から直行便が出ている訳じゃないから、乗り継ぎをしながらの旅になるらしい。まずはこの星から直接向かうことが出来る唯一の星、割と大きなギルド支部があるペレジスという星へ向かい、そこから先は航宙船の発着状況によって臨機応変に変更する事になるだろう、ってアイリスが言っていた。
……私の旅なのに、旅立ちの許可申請や移動の手配は全部アイリスに頼ってしまった。アイリスは本当頼りになる。実務処理能力をはじめとした頭脳面は言うまでもないし、ブラスターの腕前や戦闘でも。あれ、じゃあ私は何の担当なんだろう。シンガーとしての能力は旅の役には立たないし……癒やし担当かな?
私がアイリスに心労を掛け、私がアイリスを癒やす。見事な自作自演だ。さすがに自重しないといけないし、頼り切りになるのも良くない。私もアイリスのために、できることをしないと。
それはさておき。ペレジスへ向かうにはこの星で採掘したC3をギルド支部に届ける定期輸送船に便乗させてもらうしかないけど、これはこの星を出て行く人が皆使うルートらしい。タイミングの良いことに半年間隔で運行されている定期輸送船が次に軌道ステーションを訪れるのは2週間後の予定だ。そう待たずに私達は出発することが出来る。
私には出発までの間にやっておきたい事があった。3ヶ月前の戦いで使った、ブラスターのカートリッジを用いた簡易グレネードを発展させる研究開発だ。
事件の直後に思い立って、細々と研究を続けていたあれを仕上げておこうと思った。前回はカートリッジを直接銃撃するという緊急手段だったが、もしあの爆発を任意に引き起こすことが出来れば。そしてC3で効果を付与することができれば。再び鋼の獣と戦う事があるかどうかはわからないけど、宇宙を旅する以上は他の危機に遭遇する可能性だって考えられる。
万が一のために自衛の、そしてそれ以上にアイリスを守るための手段を確保することは必要だ。急いで開発を進めないと。
フォトン・イグナイトと名付けたこの武器はこれまでの試行錯誤の結果、カートリッジに取り付ける「C3内蔵の小型発火装置」を使って属性付与の爆発を任意のタイミングで起こせるところまで開発が進んでいた。そして戦いのあとからちまちまと作業をしていたので何種類かのイグナイトが実用レベルになるところまで研究は進んでいた。
朱は爆発による広域攻撃。普通のグレネードと同じようなものだけど、小型で一見すると爆発物には見えないので持ち運びが便利だ。C3の調律次第で威力と範囲を調整できるので状況に応じて臨機応変に使い分けできるのが魅力的。
実験の時に家の裏庭に大穴を開けてお義父さんとアイリスにひどく怒られたのは懐かしい記憶だ……いや、大穴は今でもまだ埋め戻されていないから、割と現在進行中の記憶だけど。
蒼は冷凍グレネードになると思っていたけど、実際使ってみると効果範囲内の時間経過を鈍化させる停滞フィールドの効果が発揮されて驚いた。こちらはC3の調律による範囲変化はあまり無くて、遅延効果の強さと効果時間が変化するようだった。
意外性がありすぎて、最初は何が起きたのか理解できなかったけど、機能を知るほどにこれは使えると思った。
碧……これは効果が良くわからなかった。作動していることは確認できたけど、効果範囲内に目立った変化が見られない。蒼の反対で加速効果があれば支援用グレネードになるんじゃないかと期待していたんだけど。
ここ最近、碧の研究に熱中していたけど、今のところ確固たる手がかりはつかめていない。
混合も試してみたけど、こちらは各色の効果が互いに相殺し合うのか、今のところうまく発動していない。まあ無理矢理効果を引き出す乱暴な手法だから仕方ないけど、まだまだ研究の余地がありそうだ。
ただ全色調律した白だけは効果があった。カートリッジを直接炸裂させた時と同じような閃光はそのままに、光圧による衝撃を音に変換したような閃光手榴弾とでもいえる効果が。
これが誤爆してひどい目に遭ったことはあまり思い出したくない。現象的にも、お説教的にも……ほんと、ひどい目にあった。ともあれ、非殺傷の停滞フィールドと使いどころは似ているけど、状況に応じて使い分けることが出来れば戦術の幅が広がるかもしれない。
鋼の獣の防御フィールドに直接干渉できるような効果が得られれば言うこと無しなんだけど、流石にそう都合のいいものが開発できる訳もないし、そもそも稼働している鋼の獣がいないと分析や検証もできない。なので今回は対鋼の獣用としては停滞グレネードを当てることにする。
以上のことをとりまとめてアイリスに報告したら、ものすごく怖い顔をされた。
「トワ、それ絶対に他人に製法教えちゃだめよ?現物を渡したり、見せるのも」
「特許とるの?」
「ちがう!そんな小型で、爆発物と認識できないもの、テロや犯罪に使い放題でしょうが!」
言われてみればそうだ。武器が持ち込めない場所であっても、日用品の動力源に見せかけてフォトンカートリッジを持ち込むことは認められるだろうし、発火装置の方は単体では単なるC3内蔵のスイッチでしかないから手荷物検査をされても余裕でパスすると思う。そしてその二つを組み合わせると、強力な爆発物になり得る。
研究成果を出すことに集中しすぎてそんな簡単なことを見逃していた。これじゃ、アイリスの癒やし担当どころか、心労担当になっちゃうよ。
「それは、考えてなかった」
「はぁ……とりあえず、これは普段使い厳禁ね。他に手が無い時、周りに他の人がいない時以外は使わないように」
「……わかった」
「あとね」
「うん」
「ありがとう。私を守るためにがんばってくれたんでしょう?」
「……うん」
そして開発を急いだ理由もしっかりと見抜かれていた。やっぱり、私はお姉ちゃんにはかなわないようだ。
出発予定日が近づいた。このところアイリスは一人で出かけることが多くなった。何をしているのか聞いたら、アイリスはにっこりと微笑んで、ただ「思い出作り」って答えた……なんだろう、それ。




