3話 クラン
クランに興味がないかと話しかけてきた彼はそのまま話を続ける。
「もしかしてクランにもう入る予定があったりするの?」
「いえまだ無いですけど...」
と僕はクランに入る予定なんか微塵も無いことを伝えた。そもそもここにきてまだ1日目だ。そんなアテもコネもなかった。
「丁度良かった!もう私は困っていてね。なんとかクランメンバーを集められないかと駆け回っていたんだよ」
「えぇとあなたは?」
疑問を投げかけた僕に聞き取りやすい声で話を続けていく。
「おおっと失礼。私はクランスプレンディッドアイソレーションのクランリーダーの新高山というものだ。以後よろしく。
クランって知っているかな。クラン。冒険者がE級に上がれるとクランを設立できるようになるんだけど、なんとクランにはクランルームを使用する権利が与えられてね。24時間自由にクランルームを使うことが出来るんだ。
でもね、皆が皆クランルームを使うには当然部屋数が足りなくなるわけで、ある程度の人数がクランにいないと予約待ちで一生使えないってことになる。
君はこれから冒険者を始めていくと思うんだけど、装備はどうするつもりかな。
貸しロッカーがあるけどお金がかかるしクランルームの使用料をみんなで割れば貸しロッカー代よりも安くなる。
実際そういう風に割り勘してクランルームを使っているクランも多いよ。
でも、それじゃあ始めたばかりだとお金も厳しいだろうし私のクランに限ってはクランリーダーの私が全額払おうと思っているんだ。
どうかな、君にとっても魅力的な提案だと思うけど私のクランに入ってみないか。
そうそう、もし一人で続けてクランを設立しようと考えているのなら辞めておいた方がいい。
ソロだと等級を上げるのも大変だし一人用の大きさのクランルームは人気で私の聞いた限りじゃ今から予約しても取れるのは半年後だそうだよ。
そう考えると今私に誘われてタダでクランルームを使い始めるのは得だと思うな」
僕は冒険者を始めるにあたって野良のパーティ参加も怖いし様子見でひとまずソロでやってみて等級を上げようかと考えていた。
聞いて見ると確かにクランに参加した方がいいのか?
僕が少し悩んでいると彼は気づいたように謝った。
「ごめんね。確かに急に話しかけてそんな決断は出来ないね。
じゃあまずはクランルームがどういうものか見た方がいいと思うからついておいでよ」
「もうクランルームを持っているんですか?」
「もちろん!私のクランは今5人いてね。10人になればもっと大きいクランルームを使える権利が貰えるようになるからあと5人集めたいと思っているんだ」
「なるほど...一旦見るだけということでもいいなら。案内してください」
「おぉ!ありがとう。助かるよ。君は救世主だ!」
「ええっと僕は橘と言います」
「よろしく!橘くん!」
と新高山さんは嬉しそうに握手をしてきた。それに応えるとそのまま握られた状態で歩き始めた。
え!このまま行くの!?
ーーーー
冗談だよと笑っていた新高山さんはすぐ手を離し先を進んでいった。
しばらくついて行くと白壁が目立つクラスルーム棟まで案内され、2階に上がり廊下の一番奥の扉まで歩いて行った。
「ここだよ。私のクランルームは。じゃあ開けるね」
と新高山さんは扉の横の箱のようなものに何やら指で突ついている。どうやら暗証番号を入力しているようだ。
待つ間暇なので辺りを見渡すといずれの扉にも内容はどれも異なっているがカラフルな紙が貼られていた。
『初心者・経験者大歓迎!
アットホームなクランです♪
気軽にノックしてね♪』
とよく見るとポップ調な文字でお花や何かの生き物を象っている物が文字の周りに描かれているチラシが貼られていた。
「あぁこれはクランメンバーが作ってくれたんだよ。多分今日もいると思うから紹介するね」
と新高山さんは扉を開けつつ中に僕を誘導してくれた。
中に入ると12畳ほどの空間に皮張りの3人掛けソファと丸テーブルと木製椅子3脚が置かれており壁側にはスチール製の棚が見え窓のサッシの近くに植木鉢が置かれていた。
皮張りのソファにはこちらに裸足を向けて誰かがうつ伏せで足をバタバタしている。
椅子には男が文庫本を読みながら座っている。
ルーム内には2人いたようだ。
「やあみんな、おっと今日は2人かな。
なんと体験希望者を連れてきたよ」
新高山さんが声を掛けると2人はこちらに気づいたのか近づいてきた。
「わぁ!初めまして私マヤって言います。よろしくね。嬉しいなー。ようやく来たんですね」
「ようやくって言うな」
と新高山さんがツッコミを入れる。
マヤと名乗ったのは明るい女性で僕よりも小柄で、ショートヘアーが良く似合い白のタンクトップにショートパンツを履いた可愛らしい女の子だった。
あとで聞いてみると年齢は20歳だそうだ。凄く可愛い。
「こんにちは。梵天丸と言います。よろしく。僕も嬉しいよ。来てくれて」
梵天丸と名乗った彼は短髪で形容すると子豚のような体型だった。梵天丸?
僕も自己紹介を返しながらそんな聞き馴れない珍しい名前を不思議に思っていると新高山さんが説明してくれた。
「冒険者の名前って自由に登録出来るんだ。
戸籍やネットワーク台帳なんてのはモンスター化の騒動以降維持が出来なくなったからね。
冒険者名が戸籍に載っている名前と同じじゃないといけないなんてのは決められていないんだよ。
そもそも戸籍に登録されていない人たちだって沢山いるからね。
存在しない戸籍を探してああだこうだするよりも受理しちゃう方が合理的なのさ。
受付のあのババアのやる気を見ればすぐ分かるさ。
どんなヘンテコで面白い名前でも受理されるからやってみるといいよ。
キリス、、、はマズイか。例えばジークフリードでも受理されるよ。
ちなみに私は新高山昇が名前だよ。
周りからはニイさんかニイちゃんと呼ばれているよ」
ちょっと驚きつつも僕は本名で登録しちゃったけど良かったのかなと後悔した。
ーーーー
しばらく話しているとみんなでダンジョンに行ってみないかと誘われた。
パーティを組むためには必ずしも同じクランじゃないといけない訳でもなく、違うクランや無所属でもパーティを組むことができる。
パーティは6人編成を基本とし冒険者は職業を振り分けてダンジョンに臨むのが良いとされている。
6人編成がベストとはいえ時々12人や18人など大規模なレイド戦がある場合もあるので一概に6人編成じゃなければならないと言うわけでもないそうだ。
職業は基本職、その技能を磨くことで就くことが出来る上級職が存在しており、ちなみにいうとニイさんE級の騎士、マヤさんがG級の僧侶、ぼんちゃん(梵天丸のことをみんながそう呼んでいる)と僕がG級の戦士だ。
マヤさんとぼんちゃんがG級なのは僕と同じように始めたばかりでありニイさんに誘われてクランに入ったそうだ。
職業は自分で名乗ったり技能を磨いたり適性検査を受けたり推薦されたり特定条件下でアイテムを使ったりと様々な方法で就くことが出来る。ちなみに言うまでも無く僕は自称戦士だ。
でも自称でも本人がそう思い込むことで効果はあるらしい。適性検査やアイテムを使うといった方法があるのは思い込む補助に使い易いからだとニイさんが言っていた。
僕がまだ装備を持っていないと告げるとそれならばと売店にまずは行くことになった。
初心者のおすすめは棍棒だとニイさんから助言を貰い、棍棒と小盾とプロテクターを買うことにした。
手持ちのお金は辛いが先行投資だ。




