1話 赤い部屋
ここはダンジョン50階層 大広間。
そこで2人の男が佇んでいた。
いくつかの灯籠と壁に生えている光る苔によって十分な光源が得られた石畳の大広間は、辺り一面が血の海だった。
その惨劇を引き起こした少女は既に体と頭部が切り離されて横たわっており生きてはいないようだ。
「まさか、君がここまでやるとはね。
鬼にでも目覚めたのかな?
うーん、この場合は吸血鬼か」
僕に向かって語りかけるその声は笑っていた。
何故、笑っていられる?
僕は振り返って男を見た。
「初めてで興奮しているのかい?
仕方ないさ。でもそのお陰で1つ強くなれたみたいだしプラスだろ?」
赤色が覆ったこの異常な空間の中で、男は気にする様子もなくいつも通りに話しかけてきた。
━━━思えば僕はこの男のこの爽やかな語り口が嫌いだった。
━━━思えば僕はこの男の誰にでも優しいところを見せるのが嫌いだった。
━━━思えば僕はこの男のなんでも分かってますと言った態度が嫌いだった。
━━━思えば僕はこの男が多額の資産を持っているのが嫌いだった。
そうか、僕は遥かに優れていたこの男のことが嫌いだったのか。
自覚し芽生えた劣等感が僕を突き動かす。
━━━僕はこの男が嫌いだ!!!
「ニィさんッ! 殺してやるッ!!」
血を浴び精神汚染が進んだ僕の劣等感は男を殺す事に決めた。
それに従い僕は感情的に叫んだと同時に体内の魔素を背面へと移動させ爆発させる。
<魔力放出>により推進力を得た僕は男へと斬りかかった。
人ならざる速度で斬りかかるこの一撃、避けれまい。
避けれず死。避けても死。防いでも死。
どうあがいても死しか訪れない必殺の剣による僕の一撃。
僕は勝利を確信した。
「いいね。そうこなくっちゃ。負けたらニィさんじゃなくてニィニィと呼べよ?」
最強の男は楽しそうに笑って剣を抜いた。
ーーーー
話は遡ること20日前。
僕こと橘正義は高校を卒業と同時に孤児院から出た。
それが孤児院のルールだったのもあるしこれまで育てて貰った院長の負担にもなりたくなかったので、寂しくもあったが決意を胸に出る事が出来た。
これから僕が何をしようかというと、冒険者になろうとしていた。
僕は西暦2050年の今ではメジャーとなった冒険者という職に就こうとしていた。
全世界で30年前に起こったダンジョン化という現象によりあちこちにダンジョンが生まれ混乱が起きた。
その混乱により様々な事件が発生し社会情勢は悪化していく一方だった。
ダンジョンは忌むべき存在であり誰もが近づこうとしなかった。
しかし命知らずの者たちがダンジョンへと潜っていきダンジョンから産出される資源やアイテムが有能だと分かると、日本政府は刀剣類、銃火器の所持の解禁をしていきダンジョンに潜ることを推奨していった。
これはダンジョンから溢れ出たモンスターによる甚大な被害によって経済が破綻していた為、国民を武装化させダンジョンに潜らせたいという思惑があったらしい。
こういう知識は中学生でも知っている事だ。
ダンジョン化以前の世界を僕はまだ産まれていなかったので、歴史の授業でしか知らないのだけど。
そうして冒険者は誕生したんだ。
冒険者とはダンジョンに潜ってモンスターを倒して資源を集めて換金して生活する職業だ。
資格が無くても体さえあればお金が稼げる。そんな職業だ。
まずは僕の境遇を説明しなければならないだろう。
孤児院はダンジョン災害や冒険者の親の死亡などで孤児の数が増えていったためあちこちに出来ていた。
僕は赤子の時に其の内の一つの孤児院の前に捨てられていた。
捨てられているのを院長が見つけ育ててくれた。
それからずっと親には会っていない。
いつか院長が僕に言ってくれたことがある。
僕の両親は立派な冒険者だった、と。
当時の院長は何でそれを知ったのか分からないけど僕はそれを信じてしまい僕は冒険者に憧れを持っていた。
いや両親と同じ冒険者になることで僕が冒険者として有名になれば見つけてくれると思って冒険者になりたかったんだと思う。
今では当時の院長の心情としては冒険者の両親はダンジョンで死んでしまったということを暗に伝えたかったのかもしれないと考えているけど、聞けず終いで孤児院を出る事になった。
出る前に借りておいた安アパートに行き段ボール二個しかない引っ越しの荷物を運んだあと、いよいよ冒険者ギルドに行く事にした。
安アパートは治安が悪いと噂されている場所で、女性は日が暮れたら1人では歩いてはいけないと注意される地域だったのでとても安かった。
孤児院でも学校でもよく注意しているのを聞いていたので恐ろしかったが、まだ日が高いので問題無いようだった。
交通費が勿体ないので歩いて冒険者ギルドを目指す事にした。
距離にして6キロメートル程を歩くと冒険者ギルドが見えてきた。
ここで冒険者ギルドの成り立ちを説明しておこうと思う。
ダンジョンから溢れて出てきたモンスターに対抗する為各地で自警団が出来た。
その自警団が他の自警団と連携を取り合う為に組織化が進み冒険者の互助組織として発展していったという訳だ。
僕の目の前に見える冒険者ギルドは大きな建物だ。
冒険者ギルドは冒険者の為の施設であり依頼や資源、アイテムの換金、仲間の斡旋、ダンジョン情報の提供、食事や装備の販売など様々な支援を行なっている。
道を歩いているとブロロロロッとトラックがうるさいエンジン音を鳴らしながら通り過ぎていった。
まだ午前中だけどモンスターの素材でも載せて冒険者ギルドに向かっているんだろうか。
冒険者ギルドには駐車場があり、ダンジョンから産出した資源を入れる事が出来る魔法鞄を持っていない人向けに大きな駐車場スペースが完備されている。
何台ものトラックが駐車場にいて冒険者ギルドの職員が誘導をしていた。
きょろきょろと周りを見ながら歩いていると冒険者ギルドの玄関に到着した。
両開きの押し扉を押し開けると中には大勢の冒険者がいた。
玄関を開けると正面の開けた空間の奥にはカウンターがあり、左右には掲示板、開けた空間の右の通路を行くと美味しそうな匂いがしてくるので食堂だろうか。
冒険者は掲示板に貼られた紙を眺めたりカウンターで職員と会話していた。
冒険者と勝手に決めつけているけど冒険者ギルドにいるんだから冒険者だろう。
僕はカウンターの上の標識を見て「新規冒険者登録」のカウンターに向かった。




