絶対に倒せない魔物①
リリィを仲間にしたことで、小さな問題が発生した。
「守ってくださいね、ジーク様!」
「あ、ああ、任せろ……」
それは夜のこと。
リリィは、当然のようにアリサの家に泊まっている。
それはいいのだが、問題は俺とリリィが一緒に寝ていることだ。
リリィの言い分だと、1人で寝るのは危険だから、とのこと。
俺が近くにいるので万が一の恐れすらないのだが、言い分は理解できる。
だから、俺とリリィは同じ部屋の同じベッドで寝ることになった。
アリサだけが隣の自室で寝ている状態。
これの何が問題なのか?
答えは単純だ。
アリサとイチャイチャすることができない。
今後は毎日イチャイチャしよう、と思っていた矢先にコレだ。
そして、リリィがいるので、裸エプロンも封印せざるを得ない。
家の中では全裸で行動するように、という命令は効力を失った。
幼女が同居している中では、流石に変態な一面を爆発させられない。
俺は腕にしがみつくリリィを見る。
スヤスヤと眠っているように見えるが、実はまだ寝ていない。
まだ拉致のショックが抜けきれておらず、不安なのだろう。
(仕方ない)
俺はそっとリリィの頭を撫でる。
その時、リリィの体内へ微量の魔力を注いだ。
これによって、リリィは深い眠りに入った。
「これで朝まで起きる心配はないな」
俺はリリィを抱っこして、アリサの部屋に向かう。
「アリサ、開けるぞ」
足でアリサのドアをノックする。
中から眠そうな声で「はーい」と聞こえてきた。
「ちょっ!? 全裸で王女様を抱くとか正気!?」
「仕方ないだろ、寝る時は全裸なんだよ、俺は」
「百歩譲ってそれはいいとして、どうしたの?」
「昨夜と同じさ。楽しませてもらいにきたぜ」
「これまた正気!?」
「おうよ」
「もう……なんというか」
「変態だろ?」
「そうだよ!」
ということで、アリサと楽しむことにした。
リリィをベッドの端に寝かせて、反対側の端でアリサとイチャつく。
「リリィ、起きちゃわないかな?」
「大丈夫、俺の能力で眠らせているから」
今宵も素敵な時間を過ごすのだった。
◇
翌朝からリリィの稽古が始まった。
稽古は、アリサの家の中庭で行う。
「こうですか?」
「違う! もっと脇を締めて! はい、後100回!」
「アリサ、もう少し優しくしてください」
「いいや、私はビシバシやるよ! 甘えるんじゃない!」
「王女ですよ、わたし」
「稽古場に立てば王女だろうと関係ない!」
「ひぃぃぃ」
リリィは何度も剣を振らされていた。
彼女が持っているのは短刀だが、彼女にはちょうどいいサイズ。
本来は矢の的として使うのであろう藁の塊を滅多斬りにしていた。
「食材の調達は終わったし、俺は適当に過ごしてくるよ」
「了解! 買ってきた食材はちゃんと冷蔵庫に入れたよね!?」
アリサが俺に背を向けたまま答える。
「もちろん。初めて冷蔵庫の中を見たが、アリサの几帳面な性格が分かったよ。雑に突っ込んだら怒られそうだし、ちゃんと分けておいたよ」
「よろしい!」
この世界には、シャワーのみならず冷蔵庫も存在する。
建築技術こそ中世ヨーロッパ風だが、細かな技術は近代レベルだ。
もっとも、動力源は例外なく魔力であり、ガスや電気は使われていない。
地球人……というか、日本人の視点から見た場合の感想である。
俺の生まれ故郷の視点から見た場合、何もかもが未知の技術だ。
「久々にクエストでも受けてみるか」
アリサの家を出て、冒険者協会に向かう。
お金に困ってはいないものの、これといってやることが浮かばない。
だから、暇を潰しがてら小銭稼ぎをしようと考えた。
お金はいくらあっても邪魔にならない。
「こんな時、他の人はどうやって過ごすのだろうな」
考えてみるが分からない。
これまでの人生、隙あらば研鑽を積んでいた。
なので、暇になる、という概念が存在しなかったのだ。
「むっ? なんだ?」
そんなこんなで冒険者協会に到着したのだが、何やら騒々しい。
受付カウンターに隣接された掲示板に人だかりが出来ていた。
「どうかしたのか?」
適当な冒険者に話しかける。
「あ、あんたは!」
俺を見て仰天する冒険者。
その声に反応して、他の連中が一斉に振り返った。
「ジークだ!」
「ジークって、フリックに勝ったっていう、あの?」
「そのジークだ!」
「聞いた話だと〈白銀の紺碧〉の救助クエストもこなしたそうだぞ」
「マジかよ!?」
「SSS級冒険者ですら手も足も出ないとか、どんな強さだよ」
口々に俺のことを話している。
そういえば、フリックとかいうザコを倒したのだった。
言われるまでそのことを忘れていた。
「俺のことはどうだっていい。それより、何のネタで盛り上がっていたんだ?」
目の前に冒険者に話しかける。
「ああ、そうだ! ジーク、あんたなら倒せるんじゃないか」
「だから何がだよ」
「絶対に倒せないモンスター」
俺の眉がピクピクッと反応した。
「絶対に倒せないモンスターだと?」
「正確にはスライムなんだがな、どんな攻撃も通用しないんだ」
「ほう」
興味が湧く。
「それに、特殊な能力を備えているんだ」
「というと?」
「人の言葉を話し、擬態化し、魔法も使える」
「それは本当にスライムなのか?」
「そのはずだが……。なにせ未知の存在だからな」
「なるほどな。そいつはクエストなのか?」
「特別クエストってやつだな。救出クエストと同じで、ランク制限なく受注できるぜ。報酬は内容によりけりだが、今回は実害がそれほど出ていないということで、しょっぺぇもんよ」
「なるほど。ま、金はどうでもいいし、やってみるとするか」
絶対に倒せない――。
その言葉、これまでの人生で何万回と聞いてきた。
そして、俺はそういった存在を何万回と倒してきた。
今回もその内の1回にしかならないだろうけど、それでも胸が躍る。
「フリックですら軽く倒す強さ対絶対に倒せない魔物の対決……。これはとんでもないことになりそうだ」
「「「「うおおおおおおおおお!」」」」
協会の中が熱狂に包まれる。
俺は「見世物じゃねぇ」と苦笑いを浮かべ、受付カウンターに向かった。
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