毒の王、囚われた姫④
王女リリィは無傷の状態で囚われていた。
後ろ手に縛られ、猿ぐつわをした状態で檻に入れられている。
檻には鍵が掛かっていたけれど、指で弾けば錠前が壊れて開いた。
「リリィ様ですよね? お怪我はありませんか!?」
アリサがリリィに駆け寄る。
腰まで伸ばしたピンクの髪が特徴的な幼女は涙目で頷く。
純白のワンピースと綺麗なピンクの髪は、どちらも少し傷んでいた。
「わ、わたし、たすかった、ですか?」
「そうですとも! 私は国王陛下のご命令で助けに参りました!」
アリサがニコッと微笑む。
リリィの視線が俺に移ったので、俺も笑顔で頷いた。
「わ、わわわっ、うわぁぁぁぁぁぁん!」
するとリリィが泣き始めた。
堰を切ったようにわんわんと泣いて、抱きついてくる。俺に。
そう、両手を伸ばすアリサの脇をすり抜け、俺に抱きついてきたのだ。
「ほげっ!?」と間抜けな声で驚くアリサ。
正直、俺も抱きつかれるとは思わなかったので驚いた。
「こわかったです、こわかったです!」
「ま、まぁ、そうだろうな。よく頑張ったぞ」
「うえぇぇぇぇぇん!」
泣きじゃくるリリィ。
このままでは埒があかないので、抱えて帰ることにした。
半ば強引に彼女を背負う。
「なんで私じゃなくてジークに……。もしかして私、嫌われてる?」
めちゃくちゃショックそうなアリサ。
「偶然だろ。気にしたら負けだぞ」
「そ、そっか、そうだよね!」
「よし、帰ろう」
「ほいさー!」
俺達は王都に向けて悠然と歩くのだった。
◇
城に着くと、謁見の間でリリィを降ろした。
「なんと! 本当にリリィを救出したのか! たったの2人で! それもリリィには傷一つ負わせないで! なんという! なんということじゃ!」
とんでもなく大喜びの国王が玉座から立ち上がる。
齢80の老人とは思えないダイナミックな動きだった。
俺達の左右に立っている騎士や官吏の連中も驚嘆している。
「それで、革命軍はどうなった!?」
「死者は2名。リーダーのホルスと森に伏せていた小物だ。あとは殺さずに気絶で留めておいた。俺は人殺しじゃないんでね。殺生は最低限がモットーだ」
「ホ、ホルスを倒したというのか!?」
場がどよめく。
色々な方向から「信じられん」という言葉が聞こえてきた。
その反応には納得できる。
たしかにアイツはザコの中でも強い方のザコだった。
「褒美についてじゃが、内容は追って連絡する。正直、お主らに相応しい褒美が何か見当が付かなくてな。だからしばらく検討する猶予をくれないか」
「かまわんさ」
「私も問題ありません!」
「ありがとう、ジーク殿、アリサ殿。それでは、客間で休んでいてくれ。今宵はリリィの救出を祝したパーティーを開く。お主らは主賓じゃ!」
この爺さんも懲りねぇなぁ、と心の中で苦笑い。
パーティーの場で毒を盛られたとは思えないぜ。
「それでは俺達はこれで」
「うむ」
役目を果たしたので謁見の間を後にしようとする。
その時、リリィが「まって!」と大きな声で言った。
俺とアリサは振り返り、揃って驚愕した。
なんとリリィは、玉座に座る国王の膝に座っていたのだ。
「お父様!」
「なんじゃ? リリィ」
「わたし、ジーク様と結婚する!」
…………。
数秒間の沈黙があり、それから――。
「「「「えええええええええええええええ!?」」」」
全員がぶったまげた。もちろん俺も。
顎が外れそうなくらいに顎が開いている。
「リ、リリィ、何を言っておるのじゃ!?」
「ジーク様がわたしをたすけてくださったの! ジーク様はわたしのナイト! お父様、わたし、ジーク様のお嫁さんになりたいです!」
「いやいやいやいやいやいや!」
すかさず反応したのは、まさかのアリサだ。
「私も助けましたよ!? リリィ様!」
「アリサもよく頑張りました。ご苦労様です」
リリィの言葉遣いがまるで別物になる。
子供ぽさが消えて、どこかのお偉いさんみたいだ。
「ちょ、ちょっと、えええええ……」
アリサが言葉を失う。
他の連中も、何かを言おうにも言えない状況だ。
「リリィ、そうは言ってもなぁ……。お主はまだ6歳」
「歳なんて関係ありませんわ、お父様。だって私は王女ですもの。今は亡き母上も、お父様と婚約したのは7歳の頃だと仰っていました。私がジーク様と婚約しても、なんら問題はございませんよね?」
「ぐぬぬ……」
リリィの正論に負ける国王。
そして、国王の目は助けを乞うように俺へ向いた。
仕方がないので、俺が対応する。
「リリィ、悪いけど俺は結婚する気がないんだ」
「どうしてですか? わたしと結婚するということは、すなわち次期国王になるということですよ。次期国王の座はジーク様にこそ相応しいと思いますわ」
「王座になんて興味ないさ」
「では、私では魅力不足ということでして?」
「魅力はあると思うよ。でも、俺は誰とも結婚する予定がないんだ。詳しいことは話さないけど、結婚すると相手を不幸にしてしまうから」
不老不死の唯一無二の欠点が寿命だ。
俺が老いずとも、周りは老いていく。
これはかなり辛い。
俺を不老不死にした調合のミスは、まさに奇跡だ。
これまで何億回と挑戦したが、再現することはできなかった。
よって、俺は他人を不老不死にすることができない。
故に、俺は誰とも結婚する気がなかった。
「そんなわけだからすまんな」
「じゃあ、ボディーガード!」
「はっ?」
「ジーク様……それとアリサ」
「それと!?」と驚くアリサ。
リリィは気にしない様子で続けた。
「わたしのボディーガードになってください!」
「失礼ですが王女様! 王女様には我々ロイヤルガードがおります!」
騎士の1人が胸に右手を当てながら言う。
「そのロイヤルガードがだらしないからわたしは拉致されたのです」
「そ、それは……」
ロイヤルガードの男、あっさり論破される。
「その件については後で話す予定だったのじゃが……」
国王が俺達を見る。
「ジーク殿、アリサ殿、リリィのボディーガードになってもらえないか?」
「国王陛下まで!? 正気ですか!?」
「たった2人でホルスを倒してリリィを救える程の実力者になら、娘の護衛を任せても問題なかろう。それに、ロイヤルガードの腕を信頼していないわけではないが、国に仕える人間の信頼性が危うくなっておる」
「というと?」と俺。
「先の革命軍の事件は、城内に手引きする者がいなければ実行できないものじゃ。それもかなり上の地位の人間である可能性が高い。つまり、この場に革命軍と通じている者がいるわけじゃ」
「「「――!」」」
官吏や騎士に動揺が走る。
「リリィを城においておくのは、必ずしも安全とは言えない。であれば、外の世界を知る良い機会にもなるし、城から出て生活させたいものじゃ。ジーク殿とアリサ殿がボディーガードを依頼したいのは、そういった理由からじゃ」
「なるほど」
アリサが「どうする?」と尋ねてくる。
最終的な判断は俺に委ねるつもりのようだ。
「引き受けるかどうかを答える前に1ついいか?」
「なんじゃ?」
「この中に臭い奴がいるってことだが、それだったら俺が調べようか? その気になれば1分で犯人を突き止められるよ」
「えっ、本当に!?」と驚くアリサ。
「俺は対象の心を読む術を習得しているからね」
「凄すぎでしょ……!」
「で、どうする? 王様よ」
「いや、その必要はない」
「どうしてだ?」
「人の世は欲でまみれている。この場で犯人を見つけて潰したとしても、少しすれば別の人間が悪事を企てるだけじゃ。完全に悪の芽が潰えるということはない。であれば、現状を維持する方が望ましい。国の運営自体はそれなりに上手くいっておるからな」
「なるほど。国益を考えてのことか。王様らしいな」
国王の答えによって、俺の考えが決まった。
「良いだろう。リリィのボディーガードを引き受けよう」
「本当か!?」
「本当ですか!?」
国王とリリィが同時に反応する。
「ただし、ただ守るじゃない。俺達と行動を共にするからには、リリィにも強くなってもらう。しばらくの間はアリサに剣や弓の扱いを教わること。それが条件だ。それでもいいっていうなら、ボディーガードを引き受けよう」
「ええ、アリサに教わるのですか?」
露骨に顔を歪めるリリィ。
「ちょっとー! これでも私、〈ゴッドアロー〉なんですけど!?」
「まぁ、仕方ありませんわね……。それが条件だと言うのなら呑みましょう」
「いやいやいやいや! 聞こえてますか!? 私、〈ゴッドアロー〉なんですけど!? そんな罰ゲームでいやいや引き受けられるような安い女じゃないんですよ!? 分かってますか?」
「よし、決まりだな。リリィ、君を歓迎しよう」
「おーい! 聞こえてますかー!?」
「よろしくお願いしますわ、ジーク様…………と、アリサ」
「おう、よろしくな」
「無視すなー!」
リリィが仲間に加わるのだった。
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