魔王を倒した男②
「あのクリスタルアイスドラゴンが……」
「一瞬で……」
「しかも3体……」
などと場がどよめき、当然のように質問攻めに遭う。
何者だ、今の技はなんだ、エトセトラ……。
連中にとって、よほど俺の存在は常軌を逸していたようだ。
その反応に驚きはしない。
他の世界でも同様の反応をされたことは何度もあった。
俺からすると「またか」で済む程度のこと。
「別になんだっていいだろ。とりあえず助けたからな」
そう言ってその場を去ろうとする。
その時、俺は気づいた。
救助クエストってどうやったら完了になるのだ、と。
通常のクエストなら、冒険者協会に報告するだけでいい。
しかしながら今は通常とは違う救助クエストだ。
もしも帰宅途中にこいつらが野垂れ死んだらどうなる?
失敗扱いになってしまうのか?
「救助クエストは私達が無事に戻れたら完了だよ」
俺の疑問をアリサが解決してくれた。
「チッ、面倒くさいな」
俺は転移能力で連中を街に飛ばそうか考えた。
しかし、連中の肉体が転移に耐えられるか分からないのでやめた。
「街まで介護が必要か?」
見た限り大した傷を負っていないから大丈夫そうだ。
それでも、必要だと言うのなら守ってあげようと考えた。
「なめないでちょうだい。これでも私達は〈白銀の紺碧〉よ。助けてもらった後で言うのもなんだけど、自分達だけで問題ないわ」
アリサが刺々しいオーラを俺にぶつける。
俺は「そうか」と笑って流した。
「なら自力で帰ってくれ。俺の為に死なないでくれよ」
念には念を入れて、周辺の敵を掃除してから帰ろう。
あの程度のザコドラゴンに苦戦する連中の強さなど信用できない。
それに、〈白銀の紺碧〉って名前はなんなんだ……。
白銀なのか紺碧なのかハッキリして欲しい。
「それじゃ、俺は一足先に失礼するよ」
なんにしろこれで終了だ。
俺は脚部に力を入れ、その場から離脱しようとする。
しかしその時、アリサが「待って」と声を掛けてきた。
「貴方、名前は?」
「そう言えば名乗ってなかったな。ジークだ」
アリサは「そう」と頷くと、真っ直ぐに俺を見る。
「ジーク、私達のギルドに入らない?」
「へっ?」
驚く俺。
「たしかに私達は貴方に比べて実力不足だけど……」
いや、実力不足とかいうレベルではない。
蟻とマンモスどころか、それ以上の差がある。
「私達のマスターは凄い人だから。知ってるでしょ? フリック」
「いや、知らないが」
「今は冗談を言う時じゃないでしょ」
呆れた様子のアリサ。
俺は本当にフリックのことを知らなかった。
協会で隻眼剣士が名前を言っていたので、名前だけは知っていたが。
「一人で魔王を倒したSSS級冒険者のフリックよ」
「ほう……!」
俺の興味メーターが急上昇。
SSS級などというお飾りはどうでもいいが、魔王を倒したのは興味深い。
経験上、魔王と呼ばれる存在はその世界で最強だからだ。
魔王を倒したというのであれば、フリックも相当な実力者に違いない。
「私達はマスターに追いつこうと頑張ってるけど、貴方にすら及ばないようじゃ、マスターなんてまだまだ遠いわ。でも、貴方なら、マスターに届くかもしれない」
自然に俺よりもフリックを強者として語るアリサ。
最強に興味のなくなった俺だが、この発言どうにも癪に障った。
「貴方が入ってくれたら私達だけでなく、マスターにとっても良い刺激になると思うの。それに貴方だって今より強くなれると思う。だからどうかな?」
俺は即答する。
「いいよ、入ろう」
快諾だ。
今までギルドというものには縁がなかった。
フリックの強さにも興味があるし、たまにはギルドもいいだろう。
――と、この時は思っていた。
◇
ギルドに加入して数日が経過した。
俺は既に脱退したくてたまらなくなっていた。
弱い。あまりにも弱すぎる。
〈白銀の紺碧〉の連中が弱すぎて絶望したのだ。
メンバーはS級とA級の冒険者で構成されているが、例外なく弱い。
頼りになるのはフリックだけだが、そのフリックは未だに姿を現さなかった。
このギルドには〈ギルドホーム〉という専用の溜まり場が用意されている。
超有名実力派ギルドとのことで、ギルドホームもたいそうご立派なものだ。
しかしそこにある玉座は、俺の加入以来、ずっと空いていた。
フリックはあと数日で戻る予定とのこと。
それまで待つつもりでいたが、もう我慢できなくなった。
「悪いが抜けさせてもらうよ」
ギルドホームの広場で行われたギルド集会にて、俺は脱退を宣言。
その場にいる全29人に動揺が走り、アリサが理由を尋ねてきた。
だから素直に「弱すぎて話にならない」という旨のセリフを述べる。
「たしかに私達は貴方よりも弱いけど、マスターは……」
お決まりのセリフだ。
俺は「申し訳ないけど」とアリサの言葉を遮る。
「皆がこの程度ならマスターも大差ないと思うよ」
おそらく〈白銀の紺碧〉が弱いというのは間違いだ。
自画自賛になるが、正確には俺が強すぎるのだろう。
ここにいる連中は、長くても数十年しか鍛えていない。
一方、俺は1兆年もの長い時間を研鑽に費やしてきた。
その“重み”は、そう易々とは覆せない。
「その発言は聞き捨てならないわ。マスターは別格だから」
「時間の無駄さ。俺は失礼するよ。数日間だが世話になった」
ギルドホームから出て行こうとする。
「逃げるの? マスターと戦ったら負けるから」
アリサが挑発してくる。
俺の物言いかが気にくわなくて怒っているようだ。
「安い挑発だ。戦ってほしいなら、俺が勝った時の見返りを用意しな」
1兆年も生きていると、挑発を受けることもある。
昔は売り言葉に買い言葉で乗っていたが、今では大人しいものだ。
相手の本気度を測る為に見返りを要求する。
「見返り!?」
「なんだ、できないのか? マスターなら俺に勝てるんだろ? それとも口だけだったのか? 自信があるなら、見返りの一つでも用意してみろ。逆に俺が負けるようなことがあったら、この首をくれてやってもいい。それが覚悟ってものだ」
「ぐっ……!」
アリサが押し黙る。
俺は「おしまいだな」と笑い、再び歩こうとする。
「分かったわ」
その時、アリサが言った。
「ならマスターが貴方に負けたら、私は貴方の言いなりになってあげる」
他のメンバーがざわつく。
それでもアリサは考えを改めなかった。
「なに? 言いなりだと?」
「そうよ。なんだって言うことを聞いてあげる。奴隷契約をしてもいいわ。この国の人間なら誰もが知っているギルド〈白銀の紺碧〉で副マスターを務める〈ゴッドアロー〉のアリサを言いなりにする……これに勝る見返りはないでしょ?」
アリサが真っ直ぐに俺を見る。
その顔は真剣そのもので、目にも強い力がこもっていた。
〈ゴッドアロー〉とは彼女の二つ名だ。
18歳にしてS級まで登り詰めた彼女の弓術を評して付けられた。
「本気のようだな」
「ええ、本気よ」
「見返りの内容には価値を感じないが、いいだろう。その覚悟に敬意を表して、フリックとの対戦を受けてやるよ」
ソロで魔王を倒した男との対戦が決まった。
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