始まりの終わりはやっぱり始まり
すっごく今さらの話をしても良いだろうか。
なんと、この世界……モンスターが居ないようです。
マジかよ何でだよ異世界ったらモンスターキルしてやべえよ俺殺しちゃったよガクブルしてそのうち人殺しにも慣れちまってモンスター大虐殺して俺TUEEEEする所なんじゃないの?
なんの為に魔法覚えたんだ、ちくしょうめ。
いや怪しいとは思ってたよ?ナルヴァでモンスター見た事無いし聞いた事無いし、おとぎ話では読んだ事あるけどそれ以外の資料や文献で記述されてるの見た事無いし。
でもさ、魔法があるならモンスターも居ると思うじゃん?
モンスター居るなら冒険者も居ると思うじゃん?
冒険者が居るなら冒険者ギルドあると思うじゃん!
街ですみません冒険者ギルドは何処ですか?って聞いたらはぁ?って顔されて残念な子を見るような目でボク、ママとはぐれちゃったの?とか聞かれてア゛ア゛ア゛ア゛ア゛
とにかくくそ赤っ恥かいたわ!
精霊居るのに……
魔法使えるのに……
ああ普通に危険な鳥獣は居て、たまに人里に出て来る時は駆除するらしい。それは基本的に騎士団や小さい行政区では自警団などの仕事なんだって。街のお困り解決何でも屋は居るけど、冒険者ギルドみたいな組織は無いんだと。
つまらねぇ……つまらねぇよ。
小遣い稼ぎに冒険者登録して一気にランク駆け上がって期待の新人!とか呼ばれて二つ名なんて付けられて。
ああ、今俺の夢が一つ脆くも崩れ去る音が聞こえたわ。
じゃあなんの為に魔法技術があるんだって?
うん、戦争の為なんだって。怖ーよ人間。
それにしても、学院卒業したら冒険者で身を立てようと思ってたのに当てが外れちゃったな。どうしようか。なんか定職に就くのもせっかくの異世界ライフが勿体ない気がしなくもない。
まさか養父上の騎士団にぶち込まれるとか無いよな?そんなの恐怖でしか無いぞ。でもなんの為に教育を施したと思ってるんだとか言われたら断れ無さそう。
憂鬱になってきた。
溜め息を吐きながら串焼肉を頬張る。さっき冒険者ギルドの場所を尋ねて生暖かい目で見られた通りから一本裏に入った、知る人ぞ知る名物屋台でヤケ食い中だ。そんなツウな店を見つける事が出来たのも道に迷いまくったお陰だ。
小さな広場を囲むように数軒の屋台が並び、共有スペースなのか椅子とテーブルが置かれた広場では買い物客が思い思いに休息を取っている。
学生らしきグループが談笑してたり、親子連れで休憩してたり、こっちをじっと見てる眼鏡っ子が居たり、老夫婦がのんびりお茶をしてたり、こっちを見てる眼鏡っ子が……眼鏡っ子?
なんだろう、本に隠れてこっちをガン見してる眼鏡女子が居るんだけど、あれは隠れているつもりなんだろうか?どうやら国立魔法学院の制服らしいものを着ているので先輩になるのかな?
やたらちみっこいんだが。あれシュアンとどっこいどっこいじゃね?
こっちが見てるのに気付いたのか慌てて本に隠れ、しばらくするとまたそーっと顔を出してこちらを窺っている。
なんだろう、残念な子。
関わりたくないのでさっさと寮に帰ろう。
おもむろに席を立って学院へと向かう。げんなりした事に残念眼鏡は付いてくる事にしたらしい。まぁ学院生なら帰る方向は同じか。面倒くさいなもう。
ちょっと悪戯心を出して、角を曲がった直後に脚を強化して建物の屋根に飛び乗る。
コソコソしながら角を曲がった残念眼鏡は俺の姿が消えた事に気付いてアタフタしている。なんかちょっと楽しくなってきた。
音を立てずに背後に降り立つと声を掛ける。
「なんか用?」
「ヒェエッ!」
声を掛けた瞬間変な声出して飛び上がる残念眼鏡。カエルみたいな跳ね方だな。
腰が抜けたのか着地に失敗した眼鏡ガエルは尻もちを付いたままあわあわしてて、ちょっと申し訳なくなって来た。
「あー、驚かせて悪かったよ。でも後ろからコソコソ着いてこられたら誰だって嫌だろ?」
とりあえず立ち上がるのに手を貸してやる。手を掴んだ瞬間眼鏡の顔が真っ赤になったが気にしない。どう見ても異性に耐性がなさそうな子だ。
「ご、ゴメンなさい。貴方があまりにも友達に聞いてた人にそっくりだったから気になっちゃって」
スカートに着いた汚れを払いながら言い訳をする眼鏡。
友達から聞いた?俺は国都に知り合いなんか居ないからな。誰かと勘違いしてるんだろう。
「あいにく俺はこっちに来たばかりで知り合いなんか居ないよ。誰かと間違えてるんじゃないか?」
「そそそ、そうだよね?ごめんなさい後をつけるような真似して」
慌てながらシュンとする器用な真似を披露しつつ、眼鏡が一つ咳払いをした。
「ごめんなさい、自己紹介がまだだったわね。私は国立魔法学院の三年生、ミシェルよ。ミシェル・ノーマ。あなたは?」
名乗られたら名乗り返さなくちゃな。
「ユリアン。姓は無いんだ。今年編入で入る一年生だよ。よろしくね、先輩」
二つも歳上とは全然見えないけどな。
俺の失礼な感想には気付かずにミシェルは目を丸くした。
「姓が無いって、あなた平民なの?どこから見ても貴族の子なのに」
「ああ、まぁ貴族では無いかな」
こういうやり取りめんどくせぇな。貴族にあらずば人にあらずってか。日本人の俺の感覚では身分制度自体に反感があると言うか、子供の頃から道徳教育やら人権について教えられて来たから違和感しかない。
アレン達との間にあった壁を壊すのにすら相当時間が掛かったのに、ここでもまた同じ事繰り返すのか。
「へえ!じゃあよっぽど家が金持ちか優秀か。どっちにしろ凄いね」
あー、うん?まあそうなるのかな?ちょっと先輩ぶっちゃけ過ぎじゃないですかね。
「ま、まあそんなとこかな」
「ねえ、もう寮に住んでるんでしょ?せっかくだから一緒に帰ろうよ」
そう言ってミシェルはニコニコしながら俺の腕を取って歩き出した。そして自分の行動を振り返って顔を真っ赤にして慌てて手を離す。
なんだろう、ここまでがワンセットなの?ミシェル面白い子。
とりあえず害は無さそうなので学院の事を色々聞きながら帰る事にした。
「それでね、私の友達もユリアンと同じ歳なんだけど、今年から編入で中等部に入学するんだ!あの子も優秀だから、もしかしたらあなた達同じクラスになるかもね!」
元気だなぁ。ずっとこんな調子で喋りっぱなしだ。
一旦部屋にそれぞれ戻ったがずっと気になっていたらしいミシェルが俺の事を離そうとせず、待ち合わせて食堂で夕食を共にする約束をさせられてしまった。なかなか強引な子だ。先輩だけど。
でもその同級生ってのは気になるな。さっきから脳裏に赤頭がチラついている。
ずっと音沙汰無く、その後どうしているのか分からない。王家の客として遇されているとは風の噂に聞いているが、国都に居るのか他の領地に移されたのかも定かじゃない。今頃どうしているのか。
三年も前に僅かな期間だけ共に過ごした俺の仲間。
「ユリアンとその子って、どことなく似てる気がするのよね。きっといい友達になると思うな!綺麗な赤い髪の美人さんなのよ?ああ、ほら、噂をすれば彼女の登場だわ」
「赤い髪?」
え、まさか本人?あの子がこの学院に?
「何じゃ、ここに居たのか。なぜ私を誘わない?腹を空かせて待っていたのじゃぞ?」
聞き慣れた声。少し引くく大人びたか?尊大な口調は相変わらずだ。何となく振り返るのが怖い。期待外れだったらやばいくらい落ち込みそうだ。
「一緒に居るのは友人か?どことなく見た様な気が……す……」
「シュアン!」
耐え切れなくなって思いっきり振り返ると、そこには少し背が伸びた、イシュタニアの王女が驚いた顔をして固まって居た。
なんだよ、こんな所で会えるならもっと準備しとけば良かった。
再会する時は成長してカッコ良くなった姿を見せてやろうと思ってたのに。そんでちょっとした悪戯を用意してからかってやろうって、笑いながら再会を祝おうって。
「ユリアン!」
間の抜けた冴えない表情で混乱してる俺の懐に、きめの細かい赤くて綺麗な髪が飛び込んで来た。
それだけでもう何でも良くなった。
そばに居るべき者がそばにいる。それだけで何とも言えぬ安心感に包まれた。
たった今、この瞬間から全て始まるという不思議な確信に、自然と笑みが零れた。
何時も読んで頂きありがとうございます。
これでとりあえず一章の終わりです。
二章では学院編を書いていこうと思います。
これからもよろしくお願いします。





