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神様の唄  作者: もと
事件勃発
9/18

第九話:バンド事件と推理

 席について暫くすると、女の子が、


「お待たせしました」


 と一式を持ってきて下さった。

 計千八百円の品々のご到着だ。


 俺はさっそくバーガーに手を出した。

 一方、ビーサンはウーロン茶をすする。


「……で。何だったのよ、あれは」


 俺はタイミングを見計らってそう尋ねた。

 あー…、とビーサンは浮かない顔になる。


「まあ…いきなり会った人に言う話しでも無いんだけどね」


 いきなり会った俺に一緒に探してくれというのとどっちが重罪か、と俺は思うが。


「まあ、ね。結構奥が深い話なわけでさ。ところで君は何してる人?」

「え?俺?」


 突然質問される側になり、俺はおおいに焦った。


「えー…っと、大学生。隣の駅にさ、大学あんの知ってる?」


 ああ、あの医学部が有名な?とビーサンが言う。

 残念ながら俺はそんな頭は無かった。


「違う違う。まあ、その大学もあるんだけどさ。もう一つあるわけよ。国際系のやつ」

「あ、知ってる。私立のやつでしょ」

「そうそう。そこのね、学生よ」


 ふーん、そっかあ、などとビーサンはと呟いている。

 というか、俺としてはお前の方が何やってる奴なのか不明だよ、と思ったものだが、その質問をしようとしたところ先に口を開かれてしまい、俺の野望はピシャリと閉ざされた。


「でさあ、君、音楽とかって聞く? 聞くよね、誰だって。どういうジャンルとか聞く?」


 段々テレクラちっくになってきた質問に、俺はただただ答えてゆく。


「まあ…高校の時から大体ロック系かな。ほら、友達でさ、バンドやってる奴とかいるし」

「あ、ホント。だったら話しやすいかも」

「へ?」


 いやね、バンドの話だからさ、とビーサンは話を続けていく。


「俺もバンドやってたのよ。でまあ…そういう関係でさ、今回の事件とか起こって。だからもし君がラップとか聞く系だったりさ、もっと違って…何ていうの。ほら、ナンパしまくってて音楽っていったらハヤリもの、みたいな奴だったら、分かりにくいと思ったからさ。だから一応聞いてみたんだ」

「へー」


 俺はちょっと意外だった。

 バンドをやっている奴だったなんて。

 というより、やっていた、という方が正しいのだろうか。


 それにしても、ラップ系やらナンパ系なんて初めて言われたので、俺としてはそっちの方が驚いた。そりゃ腹で茶も沸かせるってもんだろう。


「まあ最初っから説明しちゃと…。俺がやってたバンドっていうのがすっごい小さなバンドだったのね。まだライブハウスでもやった事ないって感じのさ。で、俺の友達の…そうだな、例えばA君としよう。Aはウチのバンドのヴォーカルだったわけ。でもそいつ、違うバンドとも凄く…なんというか仲が良かったわけよ。で、その仲が良かったバンドのメンバーを……Bをヴォーカル、Cをギター、Dをベース、Eをドラムとするとね」


「ああ…」


 俺は一生懸命、整理する。


「ある日Bが抜けたわけ。それで、Aはそのバンドにヴォーカルをやらないか、とこう言われたワケね。でも本当はウチのメンバーなんだよ。だからAは迷った。そっちのバンドの方が確かにレベル的にウチより上っていう事もあったしね。でもそんなゴタゴタの中で、取り敢えずウチのバンドの事は隠しながら、並行してやるって事を思いついた。自分のスキルアップの為にはかなり良いっていう点で、Aはそういうふうに考えたんだと思う。バンドの上手いやり方っていうか、話しあって色んなアレンジする点でも、そこから勉強しようって」


「ふむふむ」


「で、その内Aはそこが居心地良くなったんだよね。ライブこそ1、2回しかやってないらしいんだけど、ここのアレンジはこっちの方が良いとかそういう話合いとかも自分の思い通りに出来るようになってきたんだよ。でもそういう状態が、D、Eにとってきつくなってきた。リーダーはドラムのEだったのに、いつの間にかそういう主導権さえあやしくなってきたんだよね。そこで二人は、Aを辞めさせるって事を考えだした」


「昼ドラみたいなドロドロ展開だな……」


「こっからは更に凄いよ。――ある日の練習でドンパチ始まった。でもAは強気だった。俺がいなくなったらやっていけないだろ、って。確かにバンドは歌が無くちゃツラいからね。だからDとEは新しいヴォーカルを見つける必要があったわけだ。本当のメンバーなんて後でどうとでもなる、とにかく今はAを辞めさせる為に嘘でも良いからヴォーカルになり切ってくれる奴を探さなくちゃならない。そこで二人は新しい奴を見つけてきて…勿論、本当のメンバーじゃないよ。とにかく、その新しいやつに歌をやらせるからAは必要無いって事になった。俺は良く分からないけど、Aにとってそのヴォーカルっていうのが、どうやら凄い嫌な奴だったらしいのね。とにかくAはそのバンドに見切りをつけて、俺らのバンドでそのノウハウを使ってやっていこうって言ってきた。元々Aはウチのバンドを辞めるつもりっていうのは無かったから。でも、そこでまた話しがこじれた。例のバンドの……」


「C、だ」


「ビンゴ!」


 ビーサンはニヤリと笑った。


「Cは、元々そのバンドに入ったばかりだったのね。そりゃAよりは古株だけどさ。Cとしては、DとEの結束が固くてやりづらいっていうのがあったらしいの。で、Aに持ちかけた…一緒にやらないか、って。どういうわけかCって奴はそのバンドの客の管理とか金の管理を任されてて、それを自由にできるっていうんだ。Cは作曲したりもしたけど、既存の曲を潰さないようにっていうんでなかなかやらせてもらえない。そういう欝憤も溜まってたんだな。で、Aは、だったらウチのバンドで一緒にやらないかって事を言った。ギターならツインにできるし、Cは結構上手いし、っていうんでね。でもCは、それじゃまた状況が一緒だって言うんだ。確かにまあそうだ。だってまた結束の固い場所で自分だけ浮くんだから。だからCは提案した、ウチのバンドのことは裏切れ、って…。Aは考えたわけだ。そこそこレべルでメンバーを増やすのか、メンバーのいる所でレベルを上げるのか…俺は…Aは裏切らないって思ったよ。でも、あいつは」


「Cとやる事を選んだ」


 ビーサンは声のトーンを落しながら続けた。


「俺は…辛かった。Aは上手いしさ、俺はずっとAとやるって決めてた。信じてたんだ。Aが辞めるって言ってからいろんな奴と出会ったけど、どうもしっくりくる歌い方じゃなくてさ。……まあ、AはCと頑張ってるんだろうなって思ってたんだ。でも」


 氷で薄まりかかったウーロン茶をすすると、ビーサンは遠い目をした。

 俺はいつかの皇を思い出した。


「AとCっていうのは元々同じタイプだったんだな。どうもしっくりこない。話し合いでもしようものなら必ず言い争いになる。そこでCは……例のバンドが連れてきた偽のメンバーがいるだろ? そいつを…Fとしよっか。そう、Fとして、とにかくそいつを連れてきた。それで、こいつとどっちが上手いかって言い出したんだ。どうもCは、AがFの事を毛嫌いしてる理由ってのを知ってたらしいんだ。Aはキレた。お前が決める資格なんて無いだろ、って。で、AはCがバンドから持ち出した金やら客のリストやらを持ち出した。その時、Cが作ってた曲とかも持ち出したらしいんだよね。まあそれが今日に繋がってる、と」


 俺は食べかけのバーガーを置いて、とりあえずジュースをすすった。

 どうやら随分と深い話しらしい。


「で、あの迷彩はそのアルファベットの誰かなわけ?」


 聞くと、


「多分、C、だろうね」


 と答える。

 

 でも俺は納得がいかなかった。

 だってさっきこいつは迷彩と会った事は無いと言ったのだ。


「何で?だったらお前、迷彩と会った事あるってことになるんじゃないか?」


「無い。だって、AがウチにCを入れるって話を持ちだした時だって、俺はCとは会ってないんだもん」


「え?」


「だから。会ってないんだ。知らないんだよ。俺が今の話の中で知ってるのはAだけ。全部Aが話してくれたんだ。Cが追ってきてるから、今は会えないけどって…。CはAの連絡先とか知らないから、とにかくそれを狙ってると思うんだよね」


「でもお前…何か…何か変だぜ?だって…。そうだ。そうだよ!お前、携帯忘れたのは自分じゃないって」


「うん」


 そうなんだよ、そこが難しい、などと唸る。

 俺にとってはその倍くらい難しいぞ、と俺は言いたくなった。


「つまり」


 ビーサンは小さくそう言う。


「俺は、この駅に呼び出されたんだよ。重要な話がしたいって、久々にAから…。で、あの青いベンチに腰掛けたとき公衆着信があったから出たらAだったんだ。そのまま上りの電車に乗ってくれ、って。だから乗って…でも乗ってから携帯が無い事に気づいたんだ。そのとき思い出したんだよ。前にAに言われた事。もしCから俺の事を聞かれても、知らないって言ってくれって。俺はCと面識も無いのに、そんな事あるわけないって言ったんだけど、Aは、あいつなら出来るんだって言ってた。変な話だよなあ」


「それって…」


 俺は考えた。

 考えまくった。


「つまり、盗まれたって…事か?」

「……やっぱり?」


 ビーサンはうなだれた。

 どうやらその可能性を考えていたらしい。


「つまり、ほら。こういう事じゃないか? その上り電車に乗った瞬間に迷彩のやつにスられたとか…」


 俺がそう言うと、


「でもそれは変じゃん? だったら俺だって迷彩の奴を見た事になるじゃん? でもそんな目立つ服装のやつ、いなかったよ。俺が乗った時に降りた人はサラリーマン風の人だけだったし。他に乗る人もいなかったし」


「そっかあ…でも、そうだよな。迷彩は電車から降りてきたって感じじゃなさそうだしなあ。じゃあ……違うドアから出てきたんだ!」


「はあ? 何言ってんの! だったら俺から携帯盗むなんて無理でしょ!」

「だよなあ…。……あれ?ちょっと待てよ…」


 その時、俺はふっとひらめいた。


 そうだ。

 大体、迷彩は最初からこいつから携帯を盗むなんてできないじゃないか。


 だって、もしビーサンから直接盗んだとしたら、そのまま持ち帰る筈だから俺が迷彩と会うなんて事はありえない。

 だったら俺はビーサンが電車に乗り込む場面だって見ていなくてはならない事になる。

 かといって、一度盗んだものを忘れて取りに来るなんていうバカな事はしないはずだ。


 そうだ。

 最初から、迷彩はビーサンから盗む事なんてできなかったんだ。

 迷彩=Cという確証は無いけれど…。


 俺が今思った事を言うと、ビーサンは酷く納得した。


「そうか。そうだよ! じゃあ…」


「つまり。お前から携帯を盗んだ奴は、迷彩とは別人。けど、多分迷彩の事を知っている奴。迷彩に協力してる奴…って事にならないか?」


「つまりは共犯がいるって事か…」


「ああ。でもこれはかなり範囲が絞られるぜ。だって、迷彩とお前は面識が無い。当然、迷彩はお前が今日ここにいる事なんて知らない筈だろ? でも、奴はいた。という事は、だ。今日お前が此処にいるって事を知っていた奴って事にならないか?」


「だね。でも俺、部屋でその連絡受けたんだ。盗聴機でも無い限り無理だ」


「という事は…」


 俺は古畑ポーズをとりながら考えた。


 こいつからは情報が漏れていない。

 ってことは残るは一つだ。


 ”Aから情報が漏れている”。


 迷彩=Cとして、迷彩はAと連絡がつかない。

 という事は、Aが盗聴されたか……

 もしくは、一連のバンド騒動に詳しくAに信頼されている奴が、裏切って迷彩に今日の事を話したか……?


「ウチのバンドの奴は誰一人としてCを知らないよ。Aと一番親しいのは俺だし、あんまりAはあのバンドの話をメンバーにはしたがらなかったし。だからCと面識あるっていったら、あのバンドの奴しか思いつかないよ。Aの事も知ってるしね。でもAは、あのバンドとも縁を切ってるから…。携帯も変えたし。番号知ってるの、俺だけだって言ってたよ。まあ、だから俺の携帯が盗まれたんだろうけど」


「じゃあ、どういう事だよっ」


「わからないって!だから考えてるんだろ?」


 俺とビーサンはお互いイラついてきた。

 どうもまとまらない。

 何かがおかしい。何かが、おかしいんだ。

 しかし、俺はふと変な事に気づいた。


「あれ…? お前さ、今日はだからその…Aと会うんだろ?」


「そうだったんだけど…電車乗れって言われて…でも携帯が無くて連絡取れないからさ。どこで降りろとも言われてないし。もしかしたら今頃連絡してきてて、それをCが取って鉢合わせ……ああーっ、気が重いっ」


「なあ。Aに電話してみれば?」


 何で今迄気づかなかったんだ。その手があったのに。

 しかしビーサンは乾いた笑いを見せた。


「…覚えてないんだよね、これが。しかもメモってもないんだ。メモすんなって言われて」

「もうっ! 駄目じゃんかっ!」


 それにしても変な話だ。

 だって、この駅にいろ、電車に乗れ、って、まるで脅迫電話みたいじゃないか。大体…。


「大体その電話してきたのって…今日会おうって言ってきたのってさ、本当にAなわけ? 公衆着信だったんだろ? あやしくねえか?」


「いや、Aだよ。Aの声だったよ。確かに公衆着信ってあやしいけど、あいつって何か抜けてるみたい。携帯変えた時だってさ、あいつん家の目の前で会って、携帯変えたんだろって言ったら、そうそう、メモリ全部消えたんだって言われてさ、また番号教えたんだぜ。しかもすぐ携帯忘れるんだよ、家に。本当、抜けてるんだよなあ」


「へえ…」


 携帯を換える時って普通ちゃんとメモるだろ!…と俺は呆れた。

 しかし、同時に何だかまたモヤモヤが増えた気がした。


 取敢えず俺は、ドコモに電話しろよ、と親切なアドバイスをしつつ、バーガーの残りを口にぶち込んだ。

 すっかり冷めきったポテトをつまんで口に放り入れたビーサンは、


「そういえばさ、名前まだ聞いてなかったよね」


 と、すっきりした顔で言ってきた。

 ごめんねえ、つきあわせといて、なんて言いながら。

 俺は、本当だよ、と心の中で毒づきながら、


「立泉快登」


 と、自己紹介した。


「俺はね、津凪省弥(つなぎしょうや)。よろしく」


 何がどこがどう「よろしく」なのかと疑問を持ちつつ、俺は取敢えず笑顔で対応する。

 ビーサンこと省弥は、そういえばさあ、なんて目を輝かせた。


「快登、友達がバンドやってるって言ってたじゃん? それって何ていうやつ? もしかして知ってるかも」

「え? ああ。高校の時の友達でさ、相模ってやつなんだけど。なんだっけか? えっと…」


 ふと、昨日の結榎との会話が蘇った。


「ピュアレス、だっけ?」

「PURELESSっっ!?」


 ガッタン―――!

 俺は音にビビり、のけぞった。

 見ると、ポテトを一本持ったまま、省弥が棒立ちになっている。

 何だ何だ何だ、と俺は焦りまくる。


「マジかよっ? まじにあんなバンドとダチなの?」

「……う、うん」


 かなり興奮気味だ。


「そ、そんなに…凄いの?」

「当たり前だよ! もうキレまくってるギターなんて有名だよ? 今結構話題のバンドだよね」

「ギ、ギター」


 俺の脳の中で神様が笑った。ギターを持ちながら。

 俺は、誇らしさと、今迄神様がどのくらい凄い奴だったかを知らなかったという甘さで、ぐっちゃんぐっちゃんになった。

 でも、誇らしさが勝ったせいか、つい、


「俺の友達、ギターやってんの」


 と、笑ってしまった。テヘ。



 

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