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『』が全てを支配する  作者: 猫かぶった猫/冬の夕暮れ
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第六話 『』と狂暴走

長月の十八日は月姫が美しく酒に寄りかかりたくなる。八千代に想いを馳せながら、詠おうか。


()()()には理解る

決意したと言っても、そんな意志だけで乗り越えられるような相手ではないことは既に学習している。


どうやらクガラにはもう意識が無いようで、未だに猛威を奮い夜一を削っている荼枳尼天(だきにてん)は上半身までしか形成されておらず、下半身は尻尾のように一本に収束している。クガラはとぐろを巻いた尻尾ようなものに静立し、細身はふらふらと揺れ、眼は虚ろに黒く光る。おそらく今は荼枳尼天に意識を奪われているのだろう。明らかに自制が効いていない。


「ちっ!こんのっ!あぶっねぇ!」


先程からの猛攻を防戦一方で耐え抜いて結構な時間が経っただろう。未だに迅達からの救援も連絡もない。和泉(いずみ)からもらった服はところどころが黒く焼け落ちている。侵蝕とでもいうべきか、その圧倒の力は留まることを知らずただ猛進し襲いかかってくる。


「せいっ!」


少々格好つかない掛け声だが刀に力は籠もっている。いくら対面したばかりの人間(?)だとしても傷つけることは躊躇われる。


こんな状況でもなければな!存分に痛み苦しめやぁ!


俺は下卑た笑いを心へと送り返し、刀を振り切る。が、腕には一線の縦線がはしっただけで、血もなにも──そもそもあるのかすら怪しい──出てこず、代わりに体に纏う黒いモヤを傷口へと集中する。


修復⋯してんのか⋯?このままだとジリ貧だ⋯クソ、こんなことならここからの出方を聞いておくべきだった⋯


後悔を口に滲ませ、敵へと向き直る。


さて、どうする


依然、状況は劣勢も劣勢。今は支配能力(のうりょく)の補助でなんとか逃げ延びているだけだ。今はもうさっきのような声をあげないと避けきれない。またはここで一度敗北(仮死)してみようかと考えたがそれはプライドが許可を降ろさなかった。ので、死線舞踏(デスダンス)を頑張っていきたい、が


「ぐうっ!」


遂に荼枳尼天の黒腕が俺の脇腹を捉える。常人の拳三個分は抉られた。強烈な痛みに頭を打たれながら滴る血を残る服の布地で受け止める。


痛ってぇ!なんでこんなリアルに痛み再現してんだよ!ここ仮想現実だよなぁ!


しかし腹から流れる血は黒く染まり、怒りの感情とともに苦言を呈しながら吐き溢れる。黒い血液から花が咲き乱れ、そこから放出される霧のようなものが視界を黒く染め上げるが今は気にしていられない。


ギリ内臓は生きてるよな⋯⋯クソッタレ⋯!こうなりゃ一か八かだ⋯ミスったら今以上の痛みだが⋯このままでもどうせ死ぬだろう


そう痛みで鈍る頭を巡らせ、全神経に呼びかける。非常の世界に既に馴染んだ身体へと。




──いままでできなかったことを、急にやろうとしてできるものではない。

翼が在るからといって、今までなかった人間にそれが操れるだろうか。子鹿が産後直ぐに走り駆け回れるだろうか。

通常では知覚もできない支配魔力(マギエナ)を世界に来た一日目に感じ、習得し、己の血脈として馴染ませた。それより高位の支配能力も同様である。本人は知る由もないが、彼の戦闘センスは平和そのものの日本で生まれたにしては特出して異常だ。そのセンスを振り絞りこの能力の理解を深める。


しかし、普段慣れぬ脳部の使用、しかも更に脳に負担のかかる仮想現実内での継戦。使い始めの能力の運用、それによる極度の集中。侵蝕時の脳へのダメージ。それら重複により、


彼、木山(きやま)夜一(よるいち)はこの世界(かそうげんじつ)で死亡した場合、脳は焼き蝕まれ、現実での生存はほぼ不可能な状態になる──!


───イメージだ、イメージを具現化させろ。『動』の解釈を深めろ⋯!見えない手で物を掴んで⋯それじゃ遅い。なにかで引っ張る、いや先導⋯⋯矢印!物体に仮想の矢印を突き刺し、移動させる。いや、それを自分自身に突き刺したらどうだ。迅の動きさえも模倣できるのではないか。なんなら三次元的──大空さえも⋯!魂に刻まれた能力に呼びかけろ!


敵前ではあり得ない停滞。しかし荼枳尼天は動かない。それは驚愕故ではなく、夜一が無意識のうちにその黒い身体に支配の魔杭を打ち、相手の身体に置ける全行動権を奪ったからである。黒いモヤを増して噴き出す。


「Guvaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」


荼枳尼天はその不快と苛立ちに今まで閉ざしていた口を開口する。

それを合図にしたかのように、二者が立つ砂漠にカシャーンという乾いた音が鳴り響く。その音の発生源は極度の集中にある俺でも、魔杭を剥がそうともがく荼枳尼天でもない

それは天から飛来する影。黒刀を携え降りしその男は──


「クライニス!」


「呼び捨てにすんな!助けに来たのに!」


そう軽口を落ちてくる影、落下の衝撃はどうするつもりなのかと一応の矢印を顕現させる。

が、杞憂だったようで、握る黒刀を落下点に垂直に立て、それが砂のひと粒に触れた瞬間、落下で生じたエネルギーは嘘のように消え失せ、クライニスはなんの抵抗もなく地へ降り立ち、こちらを向く。


「今のがあんたの支配能力(のうりょく)⋯なのか?」


「あぁ、俺は嘘つかないんでね」


あんな剣術(けん)を使っといてよく言うよ⋯と心の中でツッコミ、危うく外れかかっていた荼枳尼天の拘束を強める。


「状況は?」


「今現実の方でニコたちが装置の復旧してるよ。俺はたまたまこれた」


ニコ、という単語が誰を指しているのがニコラス・スフィナ・ロルガートという男だと理解するのは数秒かかり、会話に戻る。


「復旧⋯って荼枳尼天のせいか?」


「そ。こいつはもともと過去の《終焉と呪宴(ラグナロク)》で暴れ狂った神の()()()なんだ。なんで仮想から現実に干渉できるのかは知らないけどな〜」


「んな軽く⋯」


そう呆れる俺を無視し話を続ける。


「荼枳尼天の特性は”侵蝕”と”進撃”。死ぬまで他の存在を侵し蝕み進み続ける、正真正銘のバケモンだ」


荼枳尼天の固有特性


"侵蝕"と"進撃”は、物質として存在するもの全てを蝕み、進む。その漆黒の炎雷は留まらず、速やかに生命を侵し潰す、終戦が生んだ全存在の大敵(てき)


「⋯なんであいつジタバタしてんだ?」


やっと荼枳尼天に目を向けその行動の不可解さに気づいたようだ。


「俺の能力で特定部位の行動を制限してる」


「あぁ!?俺のときはそんなんなかったよなぁ!」


まだ言ってんのか⋯と魔杭を打ちたしなめる。


「で、俺達はどうすればここから出れる?」


「迅たちの復旧を待つか──」


クライニスは悪戯っ子のようなにまぁーっとした笑みを滲ませ、刀を構える。


「今その復旧を邪魔してんのはあいつの侵蝕だ。なら、その大元を殺せばここから出れるだろう⋯?それなら──」


ぎらりと輝く双眸を黒い破壊者に向け、うれしそうに舌なめずりする。


「これは大義ある行為だ!誅殺じゃああああああ」


このテンションでやっていけるのだろうか──

苦樂之(くらの)荼枳尼天(だきにてん)全情報総記、目録へ収録


本当はここで書こうとしたんだけど長くなっちゃって

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