第二話 『』とクロワゼ
遅くなっちったから量増やしたぜ
トマトはよ収穫しろ
───冷たい感触が肌を湿らす。風に頬を撫でられながらゆっくりと半身を起こす。
この流れデジャヴ感じる⋯
起きた場所はどうやら小さな洞窟であった。柔らかい土肌に寝かされていたからか体の痛みはない。
やがて二足歩行に移行し、入口であろう方へ向かう。
のれんのような枝垂れた植物をかき分けると、冷涼な大気が歓迎してくれる。
どうやら森のようだ。葉々の隙間から覗く木漏れ日に眼を瞬きながら、歩を進める。
ろくな説明もなくこんなところに放り出すなんてサービス精神に欠けてんなあの和泉神様…
と悪態をつきながら背の高い草をかき分け進む。が、
「わっ!」
「!!!?!?!」
背後からの呼び掛けに驚きを隠せず飛び上がる。
「やぁ、元気そうで何よりだね、夜一少年…んくくくく」
和泉であった。
まずそこら辺にあった手頃な石を拾う。街灯に狙いを定める。そして殺意を込めてフルスイングッ!…した石と拳は空を切り、結果無線電機スタンドの笑いを加速させる痴態を晒すこととなった。
───数分後
「んくくくくかかかかか」
「ゼェハァゼェハァ…フゥ」
コロス…絶対の名において。
数分間の戯れの末、こいつは物理的攻撃が効かないと判っただけでも収穫だよね、うん。
その数分間の間先の痴態を超える醜態を晒してしまうこととなったのは闇に葬り去る。
「痴態ね⋯これが共感性羞恥ってやつかな?」
こんな不良電化製品が神とかこの世界廃れてんのかァ?いや実際には廃れているのだが。
「で?何をしに来たんですかね?」
俺が怒りと涙を含みながら質問する。
「あぁ、これから何すればいいのかわからんと思てな。教えに来てん。」
なるほど、それは感謝の念に堪えませんわねぇ。で?何をすればよろしいのかご教授願います。電化製品様ァ…!
「ここから東…まんま右やね。そこに〈トトラス〉の街がある。そこの宿「白樺」の居酒屋にお前を探している男がいるからそいつを当たれ。」
なんで?
「それが最善やからや」
今までのふざけたような態度とは変わり、しんとした鋭い声色になる。
「君がここに行かんかったら、最悪死ぬ」
空気が、揺れる。
なん⋯だと
「ごめんけど、やってもらうで」
まぁ乗りかかった船か。じゃあ行くぞ?
「死なへんようにな」
当たり前だ
両者が、からからと風車を回すように笑う。先程の神妙な雰囲気はもうないようだ。心のモヤが薄くなったところで、再び歩き出す。もう話すことは無さそうだ。
森を出ると、広大な草原が視界いっぱいに広がる。未来と聞いていたからもっとメカメカしいものを想像していたが、普通の異世界の自然が広がっている。
歩きながら足元の草花を観察するが、もとの時代では視られなかったものがある。
右手にはおそらくトトラスであろう巨城門を確認できる。遠くから見てもその大きさは凄まじい。窮屈なまでに詰められた石が冷徹な雰囲気を醸し出している。
◆
「ついた⋯」
なぜか門番スルーで入国できたが今は放っておこう。
遠目から見ても大きかったのに近づけば近づくだけ遠近感覚が変になっていく。
城門から踊る町並みへと目を向けると、そこは活気に包まれていた。
白樺⋯あっあれか?
看板に〈白樺〉と書かれた店に入る。
中は大勢の客で賑わっていて、扉を開けると凄い熱勢がぶつかってくる。
その中に人同士が叫び争う声も混じっている。
「──はこっちが貰うっつってんだろ!」
「あぁ?渡すわきゃねーだろ下っ端」
ほんとに下っ端そうな男と金髪の少し小柄な男が罵声をかけあっている。金髪の隣にも一人いるが、なにも言葉を発さず静かに佇んでいる。
お互い一歩も譲らず口論はヒートアップしていっている。まったく誰を探してこうなってるんだ?ん⋯?人を探す⋯なんだっけか
「戦争でもするんか!?」
「してもいいけどな!大体ウチが掴んだ情報だろ」
「ふん、関係ないぜ。キヤマヨルイチとやらが稀客ならな」
ん⋯??今なんて?俺?
「木山は稀客だよ〈目録〉にもでてる」
コレでてったほうがいいやつか?
その時無口であったやつが口を開く。
「!迅、あいつだ。奥の方の日本人」
今まで無言を貫いていたフードの男が途端、何かに気づき俺の現在地を示す。
「あいつか」
二者の眼光がこちらへと向けられ、一方は群衆の頭上を高く跳び、一方は先程の下っ端を制圧している。
臨戦するまでもなく男に捕らえられる。
「──2nd】」
「ぇ──」
男の体躯が稲光り、視界が入れ替わるような速度で店の外へと連れ出される。
「酔ったらごめん」
返答を返す前に高速に脳が揺れる。そのまま城壁へと疾走り直立不動の壁に片爪先を着地させる。
と、ほぼ同時に上方への圧力を感じる。つまり今高速で壁を登っている。続く壁がなくなり垂直移動から飛び立つと、今度は何もなき空中を踏みしめ、鋭角での跳躍。
頑張れ俺の三半規管んんん⋯⋯!
男諸共空に放り出された両体は着地直前に急激に失速し、ふわりと先程までの過速がなかったかのように、きれいに着地した。倒れるような滑らかさで左折した男はそのまま緩やかに加速していった。
今の刹那の数秒に、どのくらいの距離を移動したのだろう、なぜ説明もなく誘拐されているのだろう、と浮沈する考えに頭を使いながら酔いを覚ます。
「いやぁ~まさかこんなに近いとは」
「??」
誘拐しておいて説明ないだと?まさか発行体が言ってた「死」ってこれのことか?
すると慌てた様子で説明しだす。
「あぁごめんごめん。別に君をどうしようってわけじゃない。一旦ウチに来てほしくてね。すぐそこだから──」
何かを言いかけたその時、けたたましい電子音が会話に割って入る。端末を取り出しコールに出る。
『迅!至急集合!場所はナビ見て!』
随分と急いだ声色だ。奥から多数の叫び声、爆発音らしきものまで聞こえる。
「迫理か。どうしたそんなに急いで」
『ヴァリアートが戦争仕掛けてきた!クガラが応戦してるけど物量で押し込まれてる』
「了解!すぐ向かう。ごめんけど連れてくよ」
「どこにですぐぁばっ」
質問する暇すら当てられず先刻の超速で連れて行かれる。戦場へと連れて行かれるのだろうか。
てか酒場から誘拐されてそのまま戦争にぶっこむってどうゆこと?悪魔思考すぎないか
しかし戦場に行くというのに涼しげな顔で移動するなこのイケメン。
「着いた⋯が」
そう言いつつ止まった場所は砂漠であった。サボテンはなく、代わりに古びて倒壊した廃ビルがぽつぽつと点在している。丁度、その廃ビルの一本から蒼い火柱が立ち昇る。
『迅付いてるよね?戦場は二分し左方をクガラが、右方を僕が受け持ってる』
「了解、右に入るから両方の援護を頼む」
了解、と通話が切れる。
「夜一は入ってきてもいいけど、死ぬなよ」
「はぁ?はい⋯」
急展開に処理が追いつかないがおそらくこいつらが神の言っていた「最善」なのだろう。それならば、今は自分の身を守るのに徹しよう。敵の動きを見る限りおそらくここでも琉渦天然流は通用する。
「【変速】」
先の店内と同様に迅とやらの身体から白雷が迸る。
「【3rd】」
目の前にいたはずの迅はその場から消え去り、次に見えたのは敵軍へと突撃し、蹴散らしているところであった。俺も遅れて追いつこうとする。
すると、二人のおじさんと形容するのが似合う下っ端がこちらへ向かってくる。
「おいおい、こんなところに目標居んのかよ」
「こりゃあ楽な仕事だな」
二人は指や首の骨を鳴らしながら下品に笑う。
「ボスには最悪死んでもいいとの命令なんでな」
「じゃあ恨むなよッ」
ガタイのいい男が大振りで殴りかかってくる。その腕を掴まえ超近接領域にもぐりこみ、そのまま顎に膝打ちを入れる。男は流れるような動作についていけず、もしくはまさか反撃が飛んでくるとは思っていなかったらしく、目を瞬きながらあっけなく崩れ倒れる。脳震盪だろうか。
「なんっ」
細身の男が怯んだ隙に全力疾走。その加速に乗ったまま先程男の顎に打ち付けられた膝を、今回は細身の男顔面に打ち付けた。男はまだ気絶まではしていなかったらしく、鼻を押さえ悶え転がっている。股間にも一撃入れておいた。
なんだ⋯?この時代に来てから動きやすい。イメージした動きが流れるように現実に反映される。これが和泉の言ってた支配能力ってやつなのか⋯?
「夜一!大丈夫だったか?」
駆け足で近づいてくる迅はおそらく百に迫る数はいたであろう敵群をすでに蹴散らしていた。
「すごいな⋯」
思わず感嘆の息を漏らす。迅の身体には軽傷こそあるものの、大きな傷はなく、余裕といった表情である。おそらくだが、この強さと迅の雰囲気を見ても、戦争または戦闘が日常となっているのだろう。あまりにも戦闘慣れしている。なんて時代に来てしまったんだ⋯と今頃後悔した。その時、
ズン、と大重量のものが鋼鉄にぶつかったような轟音が一帯に鳴り響き、砂煙がごうごうと巻き上がる。
「よォ【韋駄天】⋯」
砂煙の中から野太い、響き渡る男声が発せられる。
「連れを渡してもらおうか!」
みんな俺を所望し過ぎでは。
◆は同日の場面転換、視点変換
◇は別日に変わるとき
───は回想や過去編
「」はセリフ
【】は技、遺物の名前、通り名
〈〉新出の街や建物、構造物
” ”は強調したいけどかっこを使うほどでもないな、ってときとなにかの略語とか
『』は詠唱、遠距離での会話(電話とか)、支配能力名
こんな感じでいこうかな




