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姉と妹

 間違いなく夏目シホからの返信だった。


 寝起きの頭でも、すぐに理解できた。


 慌てて起き上がり全文を読む。



 ―――――――――――――――――――――――


 一度、お話しさせてください。


 文面から察するに、姫川ユリナの関係者の方だと思います。


 こちらの事情を知っているということなので、おそらく近しい人なんでしょうか。


 妹に関わる状況は理解しています。


 妹のことで何か動こうとしてくれているなら、私も話したいことがあります。


 ―――――――――――――――――――――――




 驚くほど早い返信だった。


 早くても一日二日は待つと思っていた。


 そして、わかったこと。


 やはり、夏目シホは姫川ユリナの姉だった。


 関係ない別人に連絡していたら、どうしようとヒヤヒヤしていたが、問題なかったらしい。


 俺は返信を打ち始めた。こういうのは、早い方がいい。


 できる限り、信頼されるために、自分のことも明かしながら説明していく。


 自分は同じ事務所に所属するVtuberであること。姫川ユリナとコラボしたこと。先日、一緒に出掛けたこと。帰り道、蔑称のことで思い悩んでいる話を聞いたこと。そして、あなたならその悩みを解決できるかもしれないこと。


 包み隠さず書いた。


 しばらくして、また返信があった。




 ―――――――――――――――――――――――


 大体わかりました。


 通話で話せませんか。今日の昼、13時はどうでしょうか。


 ―――――――――――――――――――――――




 意外なほど、話が早かった。


 とても協力的だ。ここまで協力的なら、霧島さんが姉に頼らなかった理由が分からない。二人の間に、何かあるのは間違いなさそうだ。


 そんなことを考えながら、昼までの数時間を待った。




 時間になった。ちょうど13時。


 通話のボタンを押す。


 すぐにつながった。


「……こんにちわ」


「こんにちわ」


「あっ、やっぱりベルンさんなんですね」


 声を聴いただけで、素性がバレた。メッセージでは言及していなかったのに。


「わかるんですか」


「わかりますよ。私、ユリナとのコラボ配信みてましたから。声、そのままなんですね」


 あの配信を見られていたらしい。配信でも別に声を作っているわけでもないので、声でわかるのも当然か。

 でも、こうして直接感想を言われると、少し照れくさかった。


「見ていただいてたんですね。恐縮です」


「はい、見ていて、とても楽しい配信でした。そういえば、普段から貴族っぽい話し方じゃないんですね」


 普段から配信みたいな口調だと思われていたのだろうか。そんなわけないだろう。

 日常生活もあんなカッコつけた口調だったら、とんだ変人になる。

 視聴者からの、灰城ベルンに対するイメージが少し心配になった。


 コホン、と気を取り直す。


「あの、それでなんですが」


「はい」


「あなたは霧島凛さんのお姉さんで合っていますか?」


「はい、間違いないです」


「苗字が違うのは?」


「あ、それは芸名なので。私も霧島ですよ」


そうだったのか。再婚したとかそういう複雑な事情かと思っていた。


「霧島志保です。改めてよろしくお願いします」


礼儀正しい人だった。姿は見えていないにもかかわらず、お辞儀をしたくなる。




疑問点もなくなったところで、また質問を始める。


「あなたは姫川ユリナの彼氏疑惑について知っていますか」


「もちろん、知ってます」


 もちろん、知っている。

 ここだ。霧島さんは姉は知らないと言っていた。

 しかし、事前のメッセージからすると、パコ姫の話は知っているはずだった。そこがズレていた。


「妹さんは、姉はこの件を知らないと言っていましたけど」


「……ああ、そうですか」


 短い沈黙があった。


「今、私たち喧嘩中なんです。あんまり姉のことを話したくなかったんじゃないですかね。あの子、嫌なことから逃げるために、しょうもない嘘をつくことがあるので」


 嫌なことから逃げるために、嘘をつく。

 霧島さんのそういう一面を、知り合ってからの期間が短い俺は知らなかった。

 家族で、長年一緒にいた姉だから知っている一面だった。


「喧嘩というのは、この件で?」


「そうです。私のアカウントが原因で、ユリナがちょっと不名誉な名前を付けられちゃって。その件で、ちょっと色々ありまして」


「あの騒動があったのって、半年くらい前ですよね。それからずっと仲直りできていないんですか?」


 俺も紗由とは喧嘩することがあるが、長くても一週間くらいだった。半年も喧嘩し続けるなんて、信じられなかった。


「凛がすぐに一人暮らしを始めてしまって。そのまま、お互いに謝るタイミングをつかめないまま今日に至る感じで」


 喧嘩と同じタイミングで、一人暮らしをし始めた。

 なんと間が悪いことだろう。


「仲直りしたかったので、何度かメッセージ送ってみたんですけど、返事がなくて。もしかしたら、ブロックされちゃってるかもしれないです」


「もともと姉妹仲はどうなんですか?」


「そんなに悪くはないと思うんですけど、仲良し、って感じでもなかったですね」


 シホは一呼吸をおいてから話し始めた。


「私たちの家庭、親が片親で、ほとんど家にいなかったので。凛が大学に入るまで、私が半分くらい親代わりで。高校生の頃なんか、私が過干渉すぎて、すごくウザがられてたと思います」


 そう、明るい調子で言う。


 片親か。複雑な家庭なのかもしれない。

 俺のとこと似たものを感じる。


「お姉さんは、仲直りをしたいんですよね」


「もちろんです。そうじゃないと、怪しいDMに反応なんてしません」


 ふふっ、と笑いを零す。


 確かにそうだ。見知らぬ男からのメッセージにここまで向き合ってくれる理由は、それ以外にない。


「じゃあ、お姉さんにお願いしたいことがあります」


「はい、聞かせてください」


 そこから、考えていた計画を話し始める。


 ユリナの配信に合わせて、自身のアカウントで配信をしてほしいこと。

 出来れば、顔を出して配信してほしいこと。それが出来れば、ユリナの疑惑は晴れる。そう伝えた。


「本当に、それだけでいいんですか」


「はい。それができれば、姫川ユリナは、霧島凛さんは不名誉な名前で呼ばれなくなるはずです」


「………」


 少しの間、沈黙が走る。


「わかりました」


 穏やかで、決意のこもった声だった。


「ぜひ、やらせてください」



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