第109話 総動員
乙羽のお母さんが神森モラシスの力を使い、身体の傷を完全に塞いでくれた。そのおかげで、今は全身に感じていた酷い痛みが無くなっており、身体も動くようになっていた。
「はぁ~ん、癒されるぅ~。さすがモラシスだねぇ。」
アクシスがそう呟くと乙羽のお母さんのスマートウォッチから現れたモラシスが母性溢れる表情で口を開く。
【全くお前らはいつも無茶ばかりして怪我しやがるんだから……いつまで経っても変わりゃしないな。だが気を付けろ、この癒しの力を使えるのは今回限りだ。これ以上はハズキの身体が持たねぇからな。この子供たちとは違ってハズキとシズクは生身の人間のままだ。】
「分かったわモリシス。ハズキ、無理させてごめんさないね。」
「良いんですよボス。本当は桜夜ちゃんの身体を治す為だけに力を溜めていたので……桜夜ちゃんの身体を治してくれたあなたにはご恩がありますの……で。」
「お母さん?!」
私達の身体の傷を完全に治した後、乙羽のお母さんは木に寄り掛かって座り込んでしまった。心配する乙羽や私達に向かって、ニコリと笑顔を向けて「守れて良かったよ」と言った。
「ごめんなさい、私もそろそろ限界みたいです。ボス、後は頼みます。」
優しい想いを持った方の神聖の力を使い、邪悪な想いを持った方の悪神聖を光の鎖でガチガチに拘束していたお母さんの力が弱まり出した。
「神聖様を宿しているあなたにボスって言われるのも何だか変な感じだけど……助かったわ! 後は任せなさい、シズク。」
アクシスがそう言うと、お母さんが放っていた光の鎖がパリンと消滅した。
「うがあぁ゛おのれぇ、忌々しい奴よ! まだくたばっていなかったのか……どこまでも邪魔をしてくれるわね!」
鎖から解放された悪神聖は、雄叫びを上げると共に禍々しいオーラを解き放ちながらお母さんへ向けて一直線に黒い槍を突き付ける。
それを身体が完全に回復したアクシスが空間転移でお母さんの前に現れ、氷の障壁を展開して受け止める。
「これで私も本気が出せるわね。神気解放」
今まで異空間内の時を止め続け、更にマネシスが作り出した地球を守る為にスキル感知をかけ続けたことによる魔力の消耗と、身体を酷使し続けたアクシスは、先ほど神森モラシスの力により完全に回復したのだ。
よって、神邪アクシス本来の力が今開放されたことになる。神々の中でも異質な力の持ち主であったアクシス。神邪とは神の中でも邪悪な暗黒の黒炎と氷の力を操り、はたまた時空を操る者。
闇と共に生き、闇の中で光を放ち、悪魔でもあり、女神でもあり、心優しい1人の少女でもある。
「黒皇龍炎」
アクシスが、パンと両手を叩き身体の前で掌を合わせると、漆黒の黒炎がアクシスの全身を覆うように纏っていき、それが龍の顔の形になっていく。
そして、その漆黒の龍が口を開くとそこからとんでもない熱量を持った黒炎の閃光が放たれる。
丁度、黒龍の口先にいた悪神聖はその閃光の勢いにより後方へ押しやられていく。しかし、それでも途中で踏ん張りを見せて押し戻そうとしていた。
「くっ、これほどの力とは……それでも私は倒せませんよ? サモンデビル!」
悪神聖はアクシスの攻撃を受け止めたまま、自身の周りにドロドロとした黒い沼を発生させた。すると、その沼が複数の人型に羽根が生えたような悪魔の姿へと成形されて動き出し、アクシスに向けて攻撃を仕掛けて来た。
尚、それは留まること無く無限に成形され続けていたのだが、それをチラリと見るだけで、アクシスは神聖に向き直る。
「そうでしょうね……でもそれは、私1人ならの話ね。」
アクシスがそう言った時には私と乙羽と舞華はすでに攻撃を行っていた。
闇分身含めた10人の私で氷遁、氷手裏剣の術で次々に泥悪魔を切り刻んでいく。乙羽は腰に携えた剣を抜き、光の速度で踏み込んで複数の敵を一気にバラバラにし、舞華は2丁拳銃を巧みに扱い、目にも止まらぬ早撃ちを行っている。
私達3人の猛攻により、数十体いた泥の悪魔は一瞬でバラバラに砕け散ることになったが、その泥悪魔は地面で集まり、再度人型を形成して数を増やしていく。
「焔遁、砲炎火の術」
このままではラチが明かないと思った私は、泥悪魔に向けて掌から凝縮した黒炎の閃光を放ち完全に消滅させた。すると、その泥悪魔は二度と復活することは無かった。
それを見ていた乙羽と舞華は目で頷き合い、私に合わせて攻撃の方法を変えた。
「太陽の熱で燃え尽きなさい、ツキシス流、光神光陽」
乙羽はツキシスがやっていたように両手で輪を作り、その中に小さな太陽を出現させた。そしてそのとんでもない光熱を泥悪魔に向けて放ち、消滅させる。
しかし、気が付けば泥悪魔の数が数十倍にまで膨れ上がっており、四方八方に向かってバラバラに散らばり出していた。
そのことに私と乙羽は少し焦りを感じていたが、あちこちに散らばっている泥悪魔その全てをロックオンして完全武装している最強起動要塞モードの舞華の姿を確認すると、私と乙羽は安心するのだった。
「神機フル装備モード、バーストブレイカー!」
舞華から一斉に放射されたレーザー砲やミサイルなどが次々と泥悪魔達を消滅させていった。
「桜夜、一緒に言う?」
「「……引くわ~」」
私と乙羽が同時に同じことを言うと、舞華はプク~と頬を膨らませてこちらを睨み、「そこ2人だけでシンクロしてるのズルい!」と怒っていた。怒るポイントそこなんだぁとは思わったけど、もちろん口には出さなかった。
「おのれ~! 人間風情が……我らの食料でしかない分際でぇ!」
怒りを露わにする悪神聖は、更に数百体という泥悪魔を一気に成形する。
それを見たマヌケが再度バーストブレイカーを放つ体制に入っていたところを、私は遮るように目の前に空間転移してそれを停止させ、天使族との戦いを終えて待機させていた5人の龍魔を呼び出した。
「空遁、空間転移の術……龍魔」
私が5人がいた空間とこちらの空間を繋いた瞬間、まず龍魔の中で最速をほこるポチが現れ、一瞬で数十匹の泥人形を引き裂いた。そして瞬時にバラバラとなった泥悪魔を凍らせてしまう。そこへクモが現れて特大の毒のプールを作り出し、そこへポチが凍らせた泥人形全てを巧みな糸捌きで集め、細かく刻みながら毒のプールへと落としていき消滅させていく。
次に現れたインコやデスは瞬時に空に飛び出し、自身の翼で風の渦を発生させて複数の敵を一箇所に集め、そこへデスが破壊光線を放って消滅させている。
最後に現れたコンは空と地上にそれぞれ分身し、4人の補助や回復を担当している。非の打ち所がない見事なまでの連係プレイだった。それに私達の闘いも見ていたようなので、戦い方も工夫してある。
泥人形は龍魔の5人に任せても大丈夫だと思った私達は、尚もアクシスの攻撃を受け続けて身動きができない悪神聖に攻撃を仕掛けようとしていた。