第107話 神の集い
「皆……ごめんね。私達じゃ勝てなかった……」
ウラシスに身体を貸している間は、意識も痛みもある状態で身体だけが勝手に動いていたような感覚だった。当然、ウラシスの受けた痛みもダメージもそのまま残っている。
私は衝撃波による体の内部へのダメージと黒い槍の反対側で受けた背中のダメージが半端ではない状態だ。骨が今にも壊れそうにズキズキとした痛みが走っている。同じように乙羽は神聖に踏まれたお腹を抱えて蹲っており、マヌケは全身を打撲痕のような痣が覆っており、ぐったりとしている。
私は自分の痛みよりも、乙羽とマヌケにこの痛みを与えたこと、更に言えばアクシス、ウラシス、マネシスをこんな目に合わせたことへの怒りで頭がどうにかなりそうだった。
その殺気を感じてか、神聖が瞬時に私の前に移動した。
「その醜い目……あの時のウラシスと同じ目をしていますよ? 私がウラシスとツキシスを惨殺していた時と同じ目……あの時もウラシスは自分が苦しめられている時よりもツキシスの身体を弄んでいた時の方が非常に良い表情をしていました。」
「……」
「だから私はツキシスを長い時間をかけて散々苦しめた挙句、先に殺してあげたのですよ。ツキシスの息の根を止めた瞬間のあのウラシスの顔は忘れられませんねぇ。ふふふふ。」
私の中にいるウラシスが涙を流しているのが何となく分かった。
「さて……あなたも同じ顔をするのですか?」
私がハッとした表情をすると、神聖は嬉しそうにニヤッと笑い、瞬時に乙羽とマヌケのもとに移動し背中の悪魔の手で2人を持ち上げる。
「やめッ……」
私の発した言葉も虚しく、神聖の手は二人の鳩尾を貫き身体の中で臓器を握り潰した。
2人は苦しみの絶叫と共に、大量に血を吐き出した。
その光景を見た瞬間、気が付いた時にはもう身体が勝手に動いていた。怒りのあまり我を忘れて絶叫しながら、自身の白い稲妻の中に何やら赤い稲妻が混じり合っていたが、構わず一瞬で神聖の懐に入り込みそのままの勢いで拳を打ち抜いた。その衝撃は神聖の身体を突き抜けて背後にあった大きな建物ごと破壊してしまうほどだった。
神聖はその攻撃により片膝を付いて項垂れながらも、私の突然の覚醒に驚きを隠せないようだった。私はそのまま追撃を行おうと身体を動かした瞬間、身体全身に鋭い痛みと麻痺したかのような痺れが生じてしまい、追撃を断念した。それでも何とか、倒れている2人の息がまだあることをアイレンズで確認して異空間内へ収納し、瞬時に空間内の時間を止めた。
立ち上がった神聖は背中の悪魔の手と自身の手それぞれに黒い槍を具現化し、私を薙ぎ払った。私は先ほどの攻撃により、身体が痺れて動くことも出来なかったのでガードもせずに直撃を受けて仰向けに倒される。
それでも私は痛みよりも怒りで頭がどうにかなりそうな状態だった。
そんな私に向かって神聖は4本の槍で串刺しにしようとしていたが、突然光の鎖が神聖の身体にがっつりと巻き付き、完全に動きを封じてしまった。
「んなッ?! これは……まさか?!」
一体何が行ったのか私には全く理解できなかったが、神聖はその光る鎖に見覚えがあるようだ。しかし、そんな事よりも怒りが全く収まらない私は、動かない身体を無理やり動かそうとしていたところで、頭の中に直接声が聞こえてきた。
《少し落ち着きなさい。その力の使い方は間違っているわ。》
――え?! スマコ……じゃない。誰?
《ウラシスならじきに回復するので大丈夫です。それにアクシスもあの2人もまだ生きています。とにかく怒りを静めるのです。》
――嫌。アイツだけは絶対に許さない! 私の大事な乙羽とマヌケにあんな酷い事……
《全く……あなたは本当にウラシスと似ていますね。自分の事より友達のことばかりですぐに周りが見えなくなってしまう……》
「それじゃあ身体がいくらあっても足りないわよ。サクちゃん?」
「お……おかぁ……さん?」
私は声がした方に目をやると、そこには私のお母さんが――空に浮かんでいた。
私やアクシスは目を丸くしてその姿を見ていた。
《久しぶりですね、アクシス。》
「その声は……神聖……様? え?! どういうこと?!」
「ボス、ごめんなさいね。実は神聖が私の中にいたから最初から全部知っていたのよ。そして私と同じように彼女も……」
お母さんの視線の先に目をやると、大量の葉っぱが竜巻のように巻き上がり、その中から乙羽のお母さんが現れた。
――乙羽のお母さんまで何でここに?!
「その立ち振る舞いはまさか……モラシスなの?」
アクシスがそう呟くと、乙羽のお母さんはニコリと笑って両手を天に掲げる。すると、地面から木や植物がまるで生きているかのように動き、負傷していた私とアクシスを乗せて乙羽のお母さんのところまで運んだ。
「桜夜ちゃん、異空間から乙羽と舞華ちゃんを出してあげて? それともう時間を止めて無くていいわよ。それはあなたへの負担が大きすぎる……全くあなたも無茶するんだから。そんなところがシズクそっくりね。」
私は言われた通りに2人を異空間から出してあげた。植物の中に横に並んで仰向けに倒れる私達。そんな私達に向かって乙羽のお母さんが手を翳すと、緑の光に包まれて、傷が塞がっていく。その間、シズクこと私のお母さんは不思議な鎖の力で神聖を押さえつけていた。
「それにしても、こんな美少女ばかりが仰向けに倒れていたら……何か目覚めそうね。」
「ちょっとぉ! ウチの娘にまで手は出さないでよね。」
――実の娘たちの前で何ちゅう会話しとんじゃこの人たちは……。
私を含め、重症だった乙羽やマヌケ、アクシスの傷は乙羽のお母さんの不思議な力によって塞がっていき、痛みも和らいでいく。
「やっぱりこの癒しの力は……神森モラシス、あなたなのね?」
アクシスが乙羽のお母さんにそう聞くと、腕に付けていた私達と同じスマートウォッチから大人な雰囲気の綺麗な女性が現れた。
【久しぶりだな! アクシスにマネシス、それにウラシスにツキシス!】
『モラシス、あなたなの?! 一体どういうこと?!』
乙羽の中のツキシスが声を上げる。彼女たちもまた全く状況がつかめていないようだった。
話を整理すると、乙羽のお母さんには「神森モラシス」が、私には「神成ウラシス」、乙羽には「神光ツキシス」、マヌケには「神機マネシス」、クズ神は「神邪アクシス」張本人で、そして私のお母さんには「神聖」が宿っており、話に聞いていた神々全員が集結したことになる。
「アンブちゃんのお母さんに神聖様が宿っていらっしゃるのなら……あれは一体何なの?!」
アクシスが光の鎖に抑えられている神聖を指さして声を上げると、お母さんに宿っている神聖が答えた。
《もう少しの間はこの者を抑えておくことが出来そうなので、その質問には神聖である私自身がお答えしましょうか。》
それから神聖と自ら名乗るその者は話を始めた。