第106話 神気解放
もう少しでAIマネシスを倒せるというところまで追い込んでいたアクシスが急に現れた神聖に黒い槍で磔にされてしまった。
その圧倒的な威圧や魔力により恐怖に陥った私達3人は、全身がガタガタと震え全く動くことが出来なくなっていた。
「3人……とも……逃げて」
アクシスは痛みに耐えながら必死に私達へ思念伝達を飛ばす。
「ここにいる全員殺しますよ? 神の意志を受け継ぎし者がいたのではこちらも困りますからねぇ。」
「そ、そうです我主様! 奴らの始末はこの私が引き受けます! アナタ様は今の内に憎きアクシスの始末を……え? ……ごほっ」
「言ったはずですよ? ここにいる全員は殺すと。あなたももう用済みです。神機マネシスの肉体を持ちし、ただのお人形さん。」
「そん……な……あぁ゛ぁぁぁあぁあああ!」
神聖はAIマネシスの心臓部に手を突き刺し、そこにあった漆黒の花をグシャリと握り潰した。その瞬間に夥しい断末魔を上げてAIマネシスは完全に消滅してしまった。
「……さて、今度は神邪アクシス、あなたですよ。」
「ぐッ?!」
神聖が黒い槍をアクシスの心臓に突き刺そうとした時、私達3人の身体は自分たちの意思とは関係なく勝手に動いていた。
「「「神気解放」」」
――桜夜ちゃん、アクシスを助けたいの! 少しだけあなたの身体を借りるわね!
「雷神稲妻」
――ごめんなさいマヌケさん、私はどうしてもアクシスを守らねばなりません! あなたの身体をお貸しくださいね!
「機神砲撃」
――乙羽ちゃん! あなたの桜夜ちゃんへの気持ちはずっと見ていたよ。私も同じように大事なものを守りたいの! 今だけでいいから少し身体を借りるね!
「光神光陽」
3人の神々はそれぞれ私達の身体を自身の身体と化し、神聖に向けて攻撃をしかけた。
私の姿のウラシスは右手と左の間で超高電圧の稲妻を発動させてそれを閃光の如く放つ。そして、マヌケの姿であるマネシスは、具現化させたライフルから凝縮された超高出力のエネルギー砲を発射した。更に乙羽の姿のツキシスは、両手で輪っかの形を作った後、そこに小さな太陽を作り出して、その光と熱を神聖に向けて一直線に放つ。
3人の攻撃はその気になれば、それぞれが簡単に地球をも破壊してしまうほどの威力を持つ。その攻撃が今まさに神聖へ向けて放たれたのだった。
しかし、神聖は咄嗟に自身が立っている地面に闇を発生させてその中に入り込み、3人の攻撃を簡単に回避した。
3人の攻撃は神聖を通り越してそのまま上空へと上がり、宇宙空間を通り越して消えてしまった。
「なるほど。神気を開放させその人間の身体を借りて、本来のあなた達の力を発揮しているのですか。厄介ですねぇ~まぁそれでも私には勝てませんが。……それに、それも長くは続かないみたいですね。その人間達の身体が力に付いてきていませんよ?」
神聖の言うことは当たっていた。強大すぎる神々の力は人間の身体にはかなり大きな負荷を与えることになっていたのだ。
『本当ならさっきの攻撃で倒せれば一番良かったのですが……』
【分かってはいたけれど……ちょっとしんどいわねぇ】
《……うん。》
『でも……最低限の目標は達成できましたわ。』
神聖はハッとした表情でアクシスを磔にしていた石造に目をやると、そこにいるはずだったアクシスの姿はもう無く、代わりに奇麗に折られた3本の槍だけが残っていた。
「まさか最初からあの槍を破壊する為に攻撃を?! 無駄な抵抗を……ぐはっ?!」
「その無駄な抵抗のおかげで、一槍入れられたわね……」
両手と両足から大量の血を流しながら、アクシスは自身を刺していた黒い槍の先を神聖の背中へ突き刺した。すると、今まで攻撃を受けても全く効いていなかった神聖が初めて苦痛を示したのだ。
「どうやら自分で出したこの黒い槍は効くようね」
そう言ったアクシスを振り向きざまに殴り飛ばした。両腕でガードしたにも関わらず身体ごと吹き飛ばされたが、それをマネシスが受け止めた。
『まだ立てますの?』
「もちろんよ。前みたいに力を合わせましょう、マネシス。」
【こっちもやるよ、ウラシス!】
《うん。》
4人はそれぞれ2人1組で神聖に猛攻撃を仕掛けた。
アクシスとマネシスは魔法と砲撃で遠距離から、ウラシスとツキシスはスピードを生かして至近距離から攻撃を行っている。
しかし、アクシスは重度の怪我により動きが遅くなっており、他の3人に関しても人間の身体で無理をしている状況下では不利になっていく一方だった。
そんな4人に対してどんどん追撃を行っていく神聖。
無数に迫りくるツキシスの光の斬撃を長い黒い槍でガードし、その背後から神聖の目でも見えない程のスピードで攻撃を行おうとしていたウラシスの胴体を、突然背中から生やした巨大な悪魔の手で捕まえて強く握り絞めながら何度も衝撃波を放つ。
《うッ?! ぅぼぉおお?!》
【ウラシス!】
ツキシスは大量の血を吐き出したウラシスに気を取られてしまい、その一瞬に黒い槍で光の剣は薙ぎ払われ、足をかけられて仰向けに倒されると腹部を思いっきり踏み受けられる。
【あぁああ゛】
その衝撃で周りには大きなクレーターが出来てしまった。
『くッ……このッ!』
マネシスが2人を助けようと高出力エネルギー砲を発射した。すると、ウラシスを握っていた悪魔の手がウラシスを地面に叩き付けた後、新たに生やした同じ悪魔の手合計2本の手で、マネシスの攻撃を受け止める。
その隙に黒い槍の反対側でうつ伏せに倒れているウラシスの背中を突いた。全身に稲妻を纏わせて身体を守っていたウラシスだったが、それでも骨の髄までミシミシと音を立てるように圧迫されてしまう。
そして、マネシスの背後より忍ばせた黒い影が具現化し、その陰がマネシスを拘束する。砲撃が止んだその隙に神聖はマネシスのもとへ移動し、自身と2本の腕と2本の悪魔の腕を用いて怒涛の如く殴り付ける。
無情にもマネシスの悲痛な悲鳴だけがこだまする。
一方片膝を付いて動けないでいたアクシスは、マネシスの悲鳴を聞き空間転移だけで移動するという暴挙に出た。マネシスと神聖の間に転移したアクシスは神聖からの猛攻からマネシスを庇うように抱き着いた。
しかし、その変わりに神聖からの猛攻を何発かもらい、背中や肩の骨が砕かれてしまった。
それでも必死に気を失っているマネシス身体に触れようと身体を寄せると、マネシスの唇に自身の唇が触れた。その瞬間マネシスの目が開いたと同時に、そのままマネシスと自身を空間転移で少し離れた場所まで飛ばした。
【そろそろ……みたいだね……】
《……うん》
『なんと情けない……』
ウラシス、ツキシス、マネシス3人がそう呟くと神気が解除され、元の持ち主へ身体を返すことになったのだった。