第101話 空気も読めるAI
マヌケは上空にストップし、二丁拳銃を構えている。
「マヌケさん、今敵の位置をレーダーに表示しました。アナタなら打ち貫けるでしょ?」
「このスピードと距離なら……いける! 神機スナイパーモード、ブラスターカノン!」
マヌケの魔動力を十分に溜め込んだ高出力エネルギー砲は目標とする対象を目掛けて一直線へ放たれた。
マヌケのブラスターカノンは最初から魔動力を充填された状態で出力可能となったので、最初の一発目はすぐに発射が可能だ。
しかし、発射した後はまた魔動力を充填する必要があるので、やはり連発は出来ない。
それでも一撃が超強力である為、目標が1体であるならば何も問題は無かった。目標である敵は空中を高速で移動していたにも関わらず、マヌケの狙いを定めたエネルギー砲により打ち貫かれ、一撃で跡形もなく消滅してしまった。
「ふう……。こちらマヌケ、任務完了です。」
「マヌケちゃん、ご苦労様」
乙羽とクモ、ポチは地上に降り立った機械人を始末しようとしていた。乙羽は目標である機械人と対峙している。乙羽にはマヌケみたいな長距離からの攻撃は出来ないが、地面に立っている状態からの踏み込みが光の速度を超える。その速度で斬られたものは、自分が斬られたことすら気付かずに倒れることになる。
「光月一刀流、光桜一閃」
光の速度で斬られた機械人は、キョトンとした表情のまま倒れて動かなくなった。
「一瞬で倒しちゃうなんて凄ぉぉおおい! アタシ全然見えなかったよぉ! 主様もとんでもなく早いけど、乙羽様も凄すぎだしぃ!」
「おい、クモ。その辺にあんまり毒を吐かないでよ。ボク達のいた星とは違うんだからさぁ。」
「ポチ、アンタも動きが早いわよね! まずはアンタがその動きをアタシに教えなさい!」
「嫌だよめんどくさいなぁ~。ほら、乙羽様も困ってるじゃんよ。ごめんね、乙羽様。」
「う、ううん……大丈夫だよ。」
――乙羽の事はともかく、あなた達もその機械人を軽く圧倒している時点で、とんでもなく強いんだけどな。それよりも本当に乙羽の中でまだ眠っているのかなぁ? 神光ツキシスは……。
そんな乙羽たちの様子を遠くから私は見ていた。そして私とデス、インコ、コンは上空で目標が落ちて来る場所で待機していた。
《ん? こちらに気付いたようね。目標は四方に分かれたようだわ。デス、北に5km移動。インコは西に7km移動よ。コンは分身して東に3km、南に5km移動よ。目標を確認次第、殲滅すること。》
「「「はっ!」」」
――相変わらず動きが統一されてるねぇ。関心するわぁ。
《あら? また引くわ~とか言われるかと思っていたけど? 桜夜ちゃんもたまには素直になることもあるのね。》
――まぁそういう時もあるよ。さて……
その場に残った私に向かって一直線に猛スピードでやって来る反応が1つ。この反応は明らかに他の機械人とは違っていた。
私は神成モードを発動し、あの可愛い着物ワンピースへと変身する。
「う~い、ひゃひゃひゃひゃひゃ! うらぁぁああ!」
その者はそのままのスピードで気持ち悪い奇声を上げながら大きく腕を振りかぶり、私に向かって拳を突き出してくる。
「忍殺、龍雷拳」
それに合わせて私も拳を突き出した。すると、拳と拳の衝突により、辺りに衝撃波が広がる。
「うひゃひゃひゃひゃ! おい女ぁああ! パンツ見せろやぁコラぁああ!」
「……は?」
「うひゃひゃひゃひゃ! お前のパンツは……何色だぁあああ!」
訳の分からないことを叫びながらも突進してくる変人。こいつは機械人ではなくて、どうやら天使族のようだ。
アクシスによると、地球での天使族の出現はこいつが初めてらしい。機械人とは明らかに魔動力の量も強さも凌駕している存在。
だけど、今の私は全く負ける気がしない。
「焔遁、砲炎火の……術」
天使族のパンツマンに向けて、両掌から漆黒の炎を閃光の如く発射する。
「うぎゃあああああ?!」
断末魔を上げたパンツマンはその黒炎に焼きつくされて跡形もなく消滅してしまった。周りには誰もいない状態になったので、ボソッと口が滑ってしまった。
「……白……だよ」
「えへへへ、アンブちゃんの今日のおパンツは白なんですねぇ。これはいいことを聞きました。ニヒヒヒ。」
――しまった……。こっちの通信切ってても、こいつには意味が無かったんだった。
「主様、只今戻りました。任務完了です。」
デス、インコ、コンがそれぞれ機械人を倒して帰って来たので、そのままインコの背中に乗り、ログハウスへと戻った。ログハウスの遥か上空で龍魔の3人は人型になり、私は全員を掴むと、異空間転移で家の前に転移する。この地球で魔物姿の龍魔の5人や空を飛んでいる私達が見つかると大騒ぎになってしまうので、普通に飛んで家に帰るわけにはいかないのだ。
そして玄関から家に入ると、そこにはすでに乙羽とマヌケやクモとポチが既に仕事を終えて帰って来ていた。
更に、家の中にはなんと私のお母さんと乙羽のお母さんもソファで座って皆で談笑していたのだ。
「あら、お帰りサクちゃん。お邪魔してるわよ。」
「……」
「私とルリちゃんさっきまでスパイのお仕事で出陣していたんだけど、近くでばったりあってね! 折角この近くだったから、お邪魔してみたの! ウチのボスからも今日は任務言ってこない感じだから。」
「桜夜ちゃんごめんなさいね? 乙羽まで一緒に住ませてもらっちゃって。」
私はブンブンと首を振り、乙羽とマヌケの身体に抱き着く。
「どうやらウチのサクちゃんの方が一緒にいたいみたいね。うふふ、よろしくねオトちゃんにマイちゃん。」
「もちろんです! 桜夜は私とこのマヌケが一生しっかり守りますから!」
「それと、アクちゃんもまだ小さいんだからきちんと面倒見てあげるのよ?」
「私、お姉ちゃんたちといるととっても楽しいのぉ~!」
ニコニコしながらお母さんに抱かれているクズ神を見て、乙羽やマヌケは苦笑いしか出来なかった。なんせ見た目は小さいが、神と崇める存在であり両親達がボスと呼んで慕っているその人であるからだ。
そんなことは全く知らずに、お母さんたちはまるで小さい子を相手にするようにヨシヨシしていたのであった。
「マギ、さっき私達以外に目標を撃破した人たちは同じスパイの人なの? 結構な人数がいたと思ったのだけれど。」
「……はい。同じスパイである12人の仲間であると思われます。」
「凄いわねぇ……一度、会ってみたいものね。」
――すいません。あなた達の目の前にいます。
少し間があったけど、どうやらマギも空気を読んでくれたようだ。