第99話 猫被る
私達が住む予定にしている無人島には、周りから全く見えない位置にログハウスとマヌケが作ったお風呂だけを置いておいた。するとお母さんの計らいで、家の中には電気と水が通り、ログハウスは増築されて大きくなり、思い出の家具などはそのままに、キッチンやトイレは全て最新式でお洒落になり、家の周りも舗装されて完全な一軒家へと姿を変えていたのだ。
それを目の当たりにした私達はもちろん目が点になっていた。これをたったの1日でやってしまうあたり……自分が思っていた以上に私の家系はヤバいようだ。
室内に入るとマヌケと乙羽大はしゃぎである。
「見て見て! これめっちゃおしゃれなんだけど! これも可愛い!」
「このデンシレンジ? どうやって使うの?! 料理が楽しみだなぁ! ふふふ。」
「なかなかいいセンスね。ここは私の部屋でいいかしら?」
――ん?! クズ神、アンタもここに住むの?
「え゛?! まさか私だけ除け者扱いなの?! 私も住まわせてよぉ~」
――あんたキャラ代わり過ぎだから。
《うふふふ。アクシスはただ寂しいだけですよ。私達とも離れたくない可哀想な子なので置いてあげて下さいな。》
『おほほほ。いつまで経ってもお子ちゃまなんですから。まぁこの子がいた方が向こうの動きも掴みやすいですからね。お願いしますよマヌケさん。』
「桜夜とヘタレがいいならアタシは全然いいけど。」
「私も全然いいんだよぉ! だってこの子のおかげで私生きてるんだしねぇ!」
そう。アクシスが乙羽の力に対抗していたら間違いなく乙羽は死んでいた。それをしなかったのは乙羽の中にいるであろう神光ツキシスの為なんだろうけど、乙羽を助けたのは間違いないしね。
そして、私達が一緒に無人島で生活を初めてから3日が過ぎた。
今日から学校へ登校することになっているので、私と乙羽は同じ制服に身を包み、手を繋ぎながらルンルンと街中を歩いている。私達は約1年間も行方不明になっていたことになっているので、気付けばもう2年生だ。もちろん出席日数とか足りているわけではないが、服部家の裏の圧力により、2年生に押し上げてもらってしまった。クラスメイトも1年生の時と全く変わらないので、友達関係も困ることはない。
「こうやって一緒に登校するのも久しぶりだね!」
「うん。」
「皆にいろいろ聞かれるだろうねぇ~大変だぁ」
「うん。」
「桜夜、私のこと好き?」
「うん……ん?」
いきなり変な質問をしてきた乙羽を振り向くと、振り向きざまにチュッとキスされてしまった。
「早く行こう!」
その眩しい笑顔とほのかに甘い匂いに癒されて、私達は校内へと入っていく。
「あぁ! ヘタレとアンブが来たぁ~!」
「大丈夫だったの?! どこに行ってたの?!」
予想していた通り、私達は一気に取り囲まれて皆からの質問責めにあっている。それを眩しい笑顔で華麗に裁いていく乙羽。
――うん……好き。
《お1人で何を言ってるんですか、あなたは。》
程なくしてチャイムが鳴ると、先生が入ってくる。
「光月と服部、よく無事に戻って来た。二人が無事で本当に良かったぞ。」
この担任の先生も1年から持ち上がりとなったので同じだ。私達がいなくなってからずっと夜中まで探し回ってくれていたとお母さんから聞いていた。いつもは無頓着な適当人間と思っていたけど、本当はいい先生なのだ。
「そして、皆には喜ばしいことがもう1つある。転校生だ、入っていいぞ~」
クラスメイト全員からごくりと喉を鳴らす音が聞こえた。そして、す~っと教室の中へ入ってきたのは、奇麗な碧色の髪を靡かせた絶世の超絶美少女マヌケさん。
し~んとクラスが静まりかえる中、緊張している様子のマヌケが自己紹介を始める。
「は、始めまして……あの、神機舞華? と申します。よ、よろしく……お願いします」
「か、か……可愛いいい!」
もはや絶叫に近いくらいの大歓声に包まれる教室内。
「神機さん、どこから来たの?! マジ可愛い!」
「神機さん、なんで自分の名前に疑問形?! 天然ちゃんマジ可愛い!」
「神機さんの髪の毛の色は自毛なの?! それ超可愛い!」
「神機さんのスタイルいい! マジ神!」
「神機さん後で連絡先交換しようよ!」
「あ、アタシも!」
「お、俺も俺も!」
――うわ~、乙羽の想像通りだったよ。メチャメチャ大人気だ。
皆の反応にオドオドしているマヌケの様子を見て乙羽がニヤニヤと笑っている。
「ほら、神機も困ってるだろ。そういうのは後にしろ。神機の席は……後ろの服部の横だ。」
「はいッ!」
先生からそう言われたマヌケは、私と乙羽の姿を見つけると、とても嬉しそうな笑顔を見せて近づいてくる。マヌケが通った後の残り香を、ニヤニヤしながら嗅いでいるキモイ男子どもには目もくれず、全力で私に抱き着いた。
「桜夜~! 会いたかったよぉ!」
「ちょっと、マヌケ! 今日朝からいっぱいイチャイチャしてから今度は私なんだだよぉ! ずるいよぉ!」
「乙羽ってば、さっき学校来る時にいっぱいイチャイチャしてたじゃん! ちゃんと見てたんだからね! 今度はアタシだも~ん!」
そんな私らにとってはいつものこの様子を見たクラスメイトの皆の表情が変わった。
何故なら、私の横には学校一のアイドル的美少女の乙羽と、いきなり現れた絶世の美少女マヌケ。その美少女に無口な不愛想人間が挟まれたかと思ったら、そいつの腕を掴み引っ張り合いを初めてしまったのだ。これには皆も唖然とするしかない。これでまた学校の七不思議が増えてしまうのだろう。
――皆の視線が痛いよぉ……なんでお前がまたモテてんのって顔してるじゃん。美女に挟まれるだけでも拷問なのに、これじゃ私いつか刺されるんじゃないの?
《私には何かとても高貴な物を見るような目に見えますが……》
――スマコ、腕が鈍ってんじゃないの? あれはどう見ても疑いの目よ……。
私への異様な視線は放課後まで続いた。学校の人気者だった乙羽のもとには、休み時間の度に他のクラスからも、他の学年からもたくさんの友達が囲ってきていた。マヌケもその和の中に入り込んで、すぐに皆と仲良くなっていく。
私は人が多いのは苦手なので、寝たふりなどをしながら、話かけるなオーラを全開に出す。視線を長く感じる時には、一応顔を向けるんだけどすぐに目を逸らされる。大体そういうのは男子って決まっており、私のことが分かっている女子はほっぺをツンツンしてきたり、頭を撫でてきたり、顎の下をごにょごにょしたりしてまるで小動物を扱うように勝手にお喋りしていくのだ。私も喋らなくてもいいのでとてもこのキャラは楽でいい。
学校の帰りに3人で新しくオープンしたという猫カフェに寄っていくことにした。これは乙羽とマヌケが友達から聞いたようで、マヌケが行ってみたいと目をキラキラしていたので帰りに寄ることにしたのだ。
噂のそのお店に来た私達は、ソファーに座っていると人に猫たちが寄って来た。その猫達は不愛想な顔をしたまま私達の膝の上で丸くなったり、腕にスリスリしてきたりとてもマイペースだ。私に寄って来た奴なんか私の頭の上で寛いでやがる。
そんな猫達をとろけるような顔で可愛がっている美女二人。すると、ハっとした表情でマヌケが私を見つめたまま言葉を発した。
「なんでこんなに可愛いく思えるのか分かった! 不愛想なのに、甘えん坊なところが桜夜に似てるからだぁ!」
「あははは! 確かにねぇ~!」
――おいおい……。