第98話 新生活
朝方、乙羽と乙羽の両親が私の家までやって来た。
それから私達に起きた出来事を私と乙羽の両親へ掻い摘んで説明した。
流石に神やら異空間などの非現実なことは伏せておくことにした。それを言ったことで信じることは無いだろうし、不安にさせるだけだと神の3人がそう言ったのだ。
そこで、私と乙羽は何者かにどこか分からない場所へ連れ去られてしまった。同じようにその場所に捕まっていたマヌケとアクシスに出会い、何とか私達は逃げ出して来たということにしておいた。そこでは機械人と言われる人造人間の開発が行われていて、地球の征服を企んでいることが分かったと付け加えた。
それは、この地球でも機械人は目撃されており、それを裏で両親が対処していたことを聞いたからだ。
因みに、さっき初めて知ったけど実は乙羽の両親も地球にいる12人のスパイの一員だったらしい。これは乙羽も知らなかったらしくて、本当にびっくりしていた。
私達が行方を眩ませてから、世界のあちこちを探し回っていた両親たちがばったりと外国で鉢合わせになってしまったようで、そこで初めてお互いがスパイの一員だったということを知ったそうだ。
一応表上でも私達は家族ぐるみで仲が良かったが、お互いの裏を知ったことで更に両親同士も仲が良くなっていた。
乙羽父「しかし2人ともよく無事で戻ってきてくれたよ。ほんどうに……よがっだぁ」
乙羽母「あなた……みんなの前でやめてよ。」
乙羽「お父さん、恥ずかしいから。」
父「まぁまぁ、本当におとちゃんのこと心配していたんだよ。」
母「そういうあなたも、さくちゃんを見つける為にどれだけ世界中のマフィアを潰し回ったかしら?」
父「いっ?! いや~あははは。」
――引くわ~。娘探しの為に潰されたマフィア達が気の毒に思える……。
とりあえず話は落ち着き、乙羽の両親は帰っていったので、私はお母さんにおねだりをしてみることにした。
「お母さん……4万人……宇宙……助けて」
母「ん? 4万人を宇宙空間で匿える場所がほしいの? あるわよ?」
乙羽、マヌケ「「あるの?! ていうか何でそれで分かるの?!」」
母「うふふふ。だてに長いことサクちゃんのお母さんしてないの。」
乙羽「さ、さすがは桜夜のお母さん……まだまだ敵わないなぁ」
マヌケ「うぅ、アタシなんてもっと敵わないよぉ。」
クズ「ふふふ。私はアンブちゃんの心の声が聞こえますから関係ありませんけど……ぶぼへッ?!」
私は余計なことを言っている見た目が小学生のクズ神にアッパーブローをお見舞いした。
『うふふふ。その気色悪い喋り方はやめてほしいですわね、アクシス。笑いが止まりませんことよ。』
《それに関しては同意見ね。ナイス突っ込みよ桜夜ちゃん。》
クズ「べ、別に良いじゃない! 私だって大人な会話出来るんだもん! それよりもアンブちゃん、私の身体は今人間モードにしてあるんだから本当に痛いんだからね?!」
――うるさいわよクズ神。アンタに会ったら絶対一発殴るって決めてたの!
クズ「そ、そんなぁ……アンブちゃん意外と根に持つタイプなのね。」
宇宙空間のある一角に、我ら服部家が所有する民間向けに作っていたスペースコロニーが5つ存在するらしい。そこでは1つのスペースコロニーで約1万人もの人間を収納することが可能なほどのスペースがあり、その内部においても地上の自然を再現しており、太陽と同じ太陽光のもと、海や山や森などで地球と同じように生き物や植物が生きている。
もちろんこれらの存在を知っている者はこの地球上では誰もおらず、アメリカ航空宇宙局であるNASAが知ったら腰を抜かすほどの偉業である。
お母さんのこの冗談のようなマシンガントークを聞き終えると、私も乙羽もマヌケも開いた口が塞がらなかった。それほどまでの技術力を服部家が持っていることを私は初めて知ったのだ。
マヌケ「と、とりあえずこれでインチキさん達の住処は大丈夫っぽいね……」
乙羽「う、うん……いい方向には進んでる感じだね。」
マヌケ「……アタシも……やっぱりそっちに行くべきなのかなぁ……」
マヌケがとても寂しそうな顔でそう呟く。
マヌケ「ッ?! 桜夜?」
私はマヌケに抱き付き、精一杯の怒った顔をしてみる。
乙羽「ふふふ。マヌケ、そんな悲しいこと言うと桜夜も私も怒っちゃうよ? もうずっと一緒にいるって約束したじゃない!」
マヌケ「……うん!」
マヌケはとてもいい笑顔で私をギュッと抱きしめてくれた。
それから、しばらくの間はスペースコロニーの準備が終わるまで、ゆっくり過ごした。
行方不明だった私と乙羽が戻って来たことは表向きにも公表されていたが、服部家の圧力でメディアなどの取材や出待ちなどが起きることも無かった。学校には一応、一週間程度の検査入院をするということで連絡をしており、その間は基本3人で私の家でゴロゴロイチャイチャしてたり、見付からないように気を付けながらマヌケに街中を案内したり、地球での生活というものを説明したりしていた。
そして、私達はどうしても3人で生活をしたくなっていたので、これもお母さんにおねだりをしてみた。すると、この町のすぐ近くに服部家が所有する無人島があるということで、それをもらってしまった。
自分の家からもその島は見える位置なので安心だし、あの無人島には水も電気も通してあるので普通の生活を送ることが出来るのだ。
早速私達はその無人島へ行き、異空間からログハウスを取り出した。その中にインチキ、エドルド、ヨゴレ、ロリババア、なんちゃって勇者、龍魔の5人が一緒に出て来た。
「な、なんだなんだ?! 急に地震が起きたかと思ったらどこだここは?!」
「あ~る~じ~さ~ま~! ごふぅ?!」
「なんなの?! なの?! なのなの?! とりあえずキスしてほしいの!」
「あなた達、大丈夫だったの?! 一体どうなってるのか説明しよぉ! 不安になるじゃないのよ!」
――う、うるせぇ~。
「に、賑やかだねぇ……いつもこんな感じだったの?」
「あはは……乙羽も慣れてね。」
一斉にワチャワチャと喋り出す皆をマヌケが落ち着かせ、全てを説明してくれた。皆の住まいを提供してもらえると聞いて国王達や勇者候補たちは喜んでいた。現在食料は、私が大量に入れ込んでいたカボチャや港町の海で魚などを取って食いつないでいたそうだ。お母さんにおねだりして服部家が地下施設に隠してあった非常食などを全て異空間へ入れ込んだので、それでもう少しだけ耐えてもらう。
「こうしてはいられん、アンブくん、異空間に入れてもらえないかい? 国民達へ報告を行ってくるよ。」
インチキがそういうので国王2人と勇者候補の3人を異空間へ入れてあげた。すると龍魔達はとても神妙な顔をしている。自分たちがどうすればいいのか分からないのだろう。しばらく黙っていたが、意を決したようにデスが口を開く。
「ワレ達は……その……どうしたら」
「……ここ……いれば?」
私がそう言葉を発すると同時に、全員が動きを合わせたように跪いて頭を下げる。
「「「……仰せのままに」」」
全員がそう言ったその後に、クモとコンは泣きながら抱き着いてきた。