第96話 変態の神様
何やらAIマネシスから、いかがわしい攻撃を受けているマヌケ。
「さて、まだまだイキますよ?」
「はぁ、はぁ、これじゃあダメ……。こんなんじゃ宇宙にはイケないよ?」
「……はい? それはどういう……」
「アナタなんか、桜夜の足元にも及ばないって言ってるの!」
「そうですか……それではまずあの方に死んでいただきましょうか。」
「っ?!」
機械の触手の先端が鋭い槍状に変化したものが私に迫る。
私はまだ乙羽の心臓を動かしているのでここから動くわけにはいかない。乙羽を庇うように身体を覆いかぶさる。
すると、突然私に迫るその触手をバラバラに引き裂く光の剣が空中に現れた。
「こ……光月流……光……一閃」
「乙羽?!」
「さ……桜夜……刺激が……強すぎ……だよ」
顔を赤くしながら必死に笑いかける乙羽。
――良かった……今は心臓も自分で動いているし、意識も戻った。
私は安心して乙羽をギュッと抱きしめる。
「おや、生き返ったんですか。なかなか凄い生命力ですね。」
《ヘタレちゃんが戻れば、ここに用はありません! 桜夜ちゃん、マヌケちゃんここは引きますよ!》
「ということで行くよ。」
「うん……よろしくだよ、桜夜。」
私はまだ辛そうな乙羽とマヌケを両脇に抱き抱え、瞬時に空間転移を行った。
「あれは神邪アクシスの空間転移? あの方は……油断なりませんね。とりあえずアクシスを始末した後に考えますかね。」
ログハウスに空間転移した私達。
その2階のベッドに2人を優しく横に寝かせた私は1人で外に出た。
すると外に息を切らした皆が待っていた。
「はぁはぁ、アンブくん、国民達をこの辺り一帯に集めたぞ。」
私はアイレンズを起動し、地下迷宮にいる人間の反応を感知する。すると、ぎゅうぎゅうの状態でこの港町全体の地下に集まってくれているようだった。
《桜夜ちゃん、最後の大仕事ですよ。この辺り一帯をまとめて異空間へ収納してしまいましょう》
「全く簡単に言ってくれちゃって。結構疲れるのよ、あれ。」
《もちろん知ってますよ。でも何だかんだ言っても結局はやるでしょ?》
――まぁやるけどさぁ~。
《ふふふ、桜夜ちゃんのことなら何でもお見通しなんですよ。》
私はスキル空間収納で地下や地上のロゴハウスなどを含めた港町全体を一気に収納した。私を中心にとんでもない大きさのクレーターが出来たようにそこには大きな穴だけが残り、それ以外には何も残っていなかった。
《ありがとう桜夜ちゃん。もうすぐ完全に時空の狭間を抜けて、宇宙空間へ飛び出すわ。そしたら地球へ戻りましょう。あなたの産まれて育った場所へ。》
「うん。」
そして、その後すぐに宇宙空間へこの星は現れた。
青空が広がっていた空は、地球の夜空のように星々の光が届いているだけの状態になり、とても空気が薄くなる。そして、遠くの方へ小さく地球が見えていた。
《今の桜夜ちゃんなら、あそこまで飛べそうですね。行きましょうか。》
地球の自分の育ったあの町をイメージして空間転移する。
そして、ついに私は地球へと戻って来た。
ここは私と乙羽のいつもの場所である、海が見える人気のないベンチ。咄嗟に明確に思い浮かべたのはこの場所だったのだ。今この日本は夜みたいだ。ポケットのスマホを見てみると、きちんと電源も入っており、日付と時刻も表示される。
日付は私達があの星に転移されてから約1年ほど経っていたことになっていた。時刻は夜中の2時4分。
私はここで、異空間にいる乙羽とマヌケを外に出してあげた。まだ2人とも表情は辛そうだが、周りの風景を見た乙羽は表情を変える。
「桜夜、ここは……もしかして」
「うん。」
「帰って……来たんだね」
乙羽は、目に涙を浮かべながら私に抱き着く。
マヌケは当たりをキョロキョロと見渡してキョロキョロしている。
「ここは桜夜とヘタレの星……なの?」
「そうなんだよ。ここもなかなか奇麗でしょ?」
「うん! 本当に奇麗だね!」
《さて、まずは故郷への帰還を喜びたいところなのかもしれませんが、私達の親友のアクシスを助けてはいただけませんか?》
「もちろんなんだよ! どこか心当たりはないの?!」
『先ほどから呼びかけてはいるのですが、全く反応がないんですの』
――……もしかして!
《うん? 桜夜ちゃんは何か心当たりがおありですか?》
私は無言で頷き、2人を優しく抱きかかえるように翼を出現させて空を飛び、私達が消える前に立ち寄ったあのクレープ屋さんへと到着した。この時間なので当然辺りも店の中も真っ暗闇に包まれていた。
私達は迷うことなく、店のドアのカギを解除して店内へと足を運ぶ。
すると、一番端っこの客席のベンチで倒れている小さな女の子の姿を確認した。すぐにかけよって確認すると、その子は呼吸はしており心臓も動いているが、意識が無くてとても衰弱している状態だった。
「この子がアクシス様なの?!」
《そうです。その子は紛れもなくアクシス。そのままでは生命が尽きてしまいます。少しでいいので生命力を分けてあげてはくれませんか?》
「どうやったらいいですか?!」
『それはねマヌケちゃん、接吻ですわ。』
「……はい?」
《マネシス、今はそんな言い方しないのですよ。こちらでの言い方をしますと、ディープキスですよ!》
――……はい? スマコ、あなたも何を言ってんの?
《いや、ですらディープ……》
――ちっがうわよ! なんでそれが生命力に繋がるのかって聞いてるの!
《いや……それは私に言われましても……》
乙羽は突然何かを決意したように、私の肩を抱いて顔を近づけてくる。そして、戸惑っている私の唇に自身の唇を合わせる。すると徐に乙羽の舌が私の口の中に侵入してくる。
――んッ?!?!?!?
マヌケも顔を真っ赤にしながら手で顔を隠しているが、目だけはしっかりとその光景を見ている。
「はぁはぁはぁ。よし、初めてはちゃんと桜夜にあげたからね!」
――な、なにこれ……力が……入らない。
私はヘロヘロと足に力が入らなくなり、ペタンと座り込んでしまった。そして、乙羽はアクシスへ同じように唇を合わせて舌を侵入させた。すると、アクシスの身体がビクンと跳ねる。
しかし、アクシスが目を覚ますよりも先に乙羽が力尽きてしまう。
「も、もう……だめだよ。立ってられない。」
乙羽は四つん這いの状態で倒れてしまった。すると次はマヌケが意を決したように私の唇に口を合わせる。そして乙羽と同じように舌を侵入させた。
――ッ?!?!?!?
マヌケは私の口内を散々弄んだ後に、同じようにアクシスの唇に合わせる。するとまたアクシスの身体はビクンと身体を震わせる。
しかし、アクシスが目を覚まさないうちにマヌケまでも倒れてしまった。
――ちょ、ちょっと! なんで2人とも私を経由すんのよ?!
《やっぱり初めては好きな人に捧げたいでしょ? さぁ、桜夜ちゃん今度はあなたの番よ!》
『はぁはぁ、ヤバいわねこれ……ちょっと目覚めそうですわ……早く続きを見せて下さいな。』
――おい! この変態神ども! 神ってこんなやつしかいないの?!