第95話 似たもの同士
マネシスの言う通り、天上界に向けて空を飛んで来た私とマヌケは絶賛高速飛行移動中だ。
マネシスによれば、天上界の入り口は西の国を囲っている底なし沼だということだったが、まさかそこが入り口だとは誰も思わなかった。正確にはマネシスの直感ではあったのだが、自分がもし住処を作るならそこだという確信はあるようだ。
《さすがマネシスの分身ね。ネチネチ根暗な場所が好きだなんて趣味が悪いところまでピッタリ一緒じゃないの。》
『おほほほ、ブチ殺しますわよ? あなたはやはり喋らない方が見た目通りに可愛げがありましたのにね。』
《おあいにく様。心で思われているだけよりは、まだよろしいのではなくて? ふふふ。》
――イチャイチャするなし! 鬱陶しい!
《ふふふ、やっと私の気持ちが分かってくれたかしら? いつもいつも桜夜ちゃんとマヌケちゃんのイチャイチャを見せられていた私がどんなに羨ましかったことか。》
「えへへへへ。イチャイチャだなんてスマコちゃんってば。」
――そこも喜んでんじゃないの! 全くもう! 緊張感ないなぁ~。
《いいではありませんか。このくらい気が抜けていた方がいいんですよ。》
『ウラシスは桜夜さんと喋っていますの? 私でも声が聞こえませんのに。』
「そうなのよ! アタシもいっぱいお喋りしたいのにさ、桜夜ってば全然喋ってくれないの!」
『そうなんですの? それでは仕方がないので私といっぱいお喋りいたしましょうね。』
「ッ?! ……」
私は高速飛行中ながらも、マヌケの身体に抱き着いて精一杯の怒ったアピールをした。
「ね? 可愛いでしょ? ふふふ。」
『それは認めましょう。まるで昔のウラシスを見ているようで癒されますわ。』
――一緒にするなし!
《一緒にしないで下さい!》
微笑ましいこの流れの中、目的値へと到着する。私は上空からアイレンズを起動し、その沼の状態を確認する。するとその広大な沼のある一部だけが沼ではなく、透明な空洞になっている箇所を発見する。それは地下の方へ繋がっているようだ。
私はマヌケの手を握り、そこ向かって急降下していく。
「ひぃぃいい?!」
マヌケは悲鳴を上げたまま目を瞑っている。
――確かに何も知らないと、ただ沼の中に飛び込もうとしているように思うかもね。
《桜夜ちゃん、その何も言わずに勝手に行動する癖は治した方がいいですよ?》
『ウラシス、あなたがそれを言うんですの?!』
やがて、私達はその空洞へ入り込んだ。
中は暗くてジメジメしていてなんだか気持ちが悪かった。中に行くにつれてどんどん空洞は広がっていく。そして、その空洞の中には様々な罠があったが私はマヌケの首根っこを持ったまま神成の力を使い、稲妻の如く降下していくので罠も全く意味を成してない。
やがて、中核地と思われるその場所まで辿りついた。
「やれやれ……とうとうここまで来てしまいましたのね。」
「AIマネシス! ヘタレはどこなの?!」
「おや? ……そうですか。神機マネシス目覚めたのですねぇ。まぁどうでもいい事ですが。あの子ならそこで死にかけていますが?」
AIマネシスが指さしたところを見てみると、全身を機械の触手に巻き付けられ裸にされていたヘタレの姿があった。私はすぐに駆け寄り、ヘタレの状態をアイレンズで確認する。すると、魔力はもうほぼ空で心臓も呼吸も止まっている状態だった。しかし、幸いにも内臓や脳などの細胞はまだ壊死していないようだった。
これならまだ心臓が動けば助けられるかもしれないと思った私は、気色悪い触手から乙羽を開放して仰向きに寝かせ、胸に手を当てて電撃を与える。そして、口から空気を入れ込み蘇生を試みる。
これは電気ショック式の心臓マッサージと人工呼吸だ。
――乙羽、起きて!
電気ショックの度にビクンと身体は撥ねるが、心臓は自ら動く気配がない。私は乙羽の胸に手を当てたまま、心臓を電磁波で優しく包み込んだ。
そしてゆっくりと電磁波で心臓を鼓動させていく。自らの手でゆっくり優しく揉みほぐすように鼓動させていくと血液がどんどん全身に流れていく。
――戻ってきて……乙羽!
「もうすぐ死ねたというのに、やはり人間は無駄なことをするのですね。くだらない。」
『私の姿でこれ以上悪趣味な悪事を働かないで下さいまし。あなたはアクシスの異空間から出てどうするおつもりですの?』
「私は早くあの方の元へ戻らなければなりません。そしてアクシスを殺し、表を内部から裏側へ侵食してあげますのよ。」
『なるほど、やはり全てを裏側にするのがあなた方の目的だということですね。』
「その通りですわ。その為に私は作られたのですから。ふふふふ。」
『だから私に人間を作らせたのですね。表を滅ぼす為の凶悪な兵隊を作る糧とする為に。』
「それをあの忌々しいアクシスのおかげで台無しになり、更にはそこの人間どものせいでこの星の人間強化作戦も未完成に終わりましたわ。本当ならもっとたくさんの天使族を作る予定でしたのに。まぁそれもここから抜けて地球へ行けばまたやり直せますけどね。」
「それはさせないよ! 神機、ポジトロンモード」
「おっと、そんな巨大な砲撃はやめた方がよろしくてよ? そんなものを打ち込めばここ中核地は崩壊してしまいます。それはこの星の崩壊も意味しますが?」
「っ?! そんな……んあッ?!」
マヌケは地面から生えた機械の触手で拘束されてしまった。
『悔しいですが、AIマネシスの言うことは間違いではありません。ここを破壊すれば折角崩壊を守ったこの星が完全にバラバラになってしまいますわ。』
「うふふふふ。私がどれだけ人間を研究してきたと思っているのです? 人間には弱点が多すぎるのですよ。ここをこうすれば……ほら。」
「んあッ?! ああぁぁぁぁ?! はぁああんッ?!」
マヌケは触手に身体を弄られたかと思ったら、足をガクガクさせて倒れてしまった。そのまま身体をピクピクさせている。
私はまだ目を覚まさない乙羽からすぐにマヌケにもアイレンズを向ける。すると体温がかなり上昇しており、鼓動も早くなっていて全身の力が抜けている状態だった。
――何をされたらあんな状態になるの?! いけない……マヌケも助けに行きたいけど、乙羽の心臓を止めるわけにはいかない。
《桜夜ちゃん、マヌケちゃんなら大丈夫ですよ。あの程度なら桜夜ちゃんの寝相の悪さには到底及びませんから。》
――……へッ?! どういうこと?