日律帝國最後の反抗30
mitotayo
どうも、執筆活動に重宝していたPCを一度失くした阿呆です。結局見つかったんですけど、1ヶ月近く失くしてたせいで全く書く気が起きませんでした本当に申し訳ないです。ここからは遅れを取り戻さなければ……!
〈三十四話 新たなる戦い〉
皇暦2515年8月31日、レイブン皇国の第一機動艦隊がマッツウェーク島から出発して6日目。アウグレットは第一機動艦隊の暫定旗艦になっているコンコルド級戦艦2番艦のレゾリュートに向かっていた。
「戦艦というのはかっこいいものだな」
目の前に見える巨大な船体に目を奪われ、思わずそう呟いた。今乗っている艦隊内移動用のボートからはレゾリュートの全貌がまるで要塞のように大きく感じる。
「ほんと、浪漫の塊ですよねぇ」
隣に居るエンタープラネットの第二航空隊の隊長が感動の声をあげる。
「大きい分鈍足だけどな」
「んな風情の欠片もないような事言わないでくださいよ」
僕の言葉に彼はそう言ってしょぼくれた顔をする。
「普段通りの速度で航行していれば今日にはウォール島についているはずなんだ。戦艦というのはかっこいいが扱いが厄介だな」
「良いじゃないですか。もし地上を攻めることになっても戦艦が居れば私達は対地攻撃から解放されるんですから」
第二航空隊は爆撃機であるLSGで編成されている。確かに戦艦が居れば彼らは対地攻撃の任務から解放されるのは確かだ。
「しかしウィルソンは何故そんなに対地攻撃が嫌なんだい?」
覇気をあまり感じられない第二航空隊の隊長である彼の名前はノーブル・ウィルソン。確か僕とは士官学校の同期だったはずだ。
「例えば大型爆撃機からの絨毯爆撃なら何も問題ないんですよ」
ウィルソンはそう言って一度深呼吸してから口を開いた。
「急降下爆撃は着弾地点がよく見えるんですよ。いや、見えてしまうといった方が正しいかもしれません」
「見えるのは良いことじゃないか。見えた方が命中率が上がるだろう?」
「それはそうなんですがね。私が言ってるのは地表に居る人間のことなんですよ」
「人間……?」
「逃げ惑う人、銃口をこちらに向ける人、地面に伏せる人……。それぞれに共通している点があります」
「……なんだ?」
「私が爆弾を投下すればその人達は死ぬ事になる」
さっきまで軽い調子だったウィルソンの声とは思えないほどその一言は重かった。
「私の手によってそこに居る人達が死ぬ。そういう現場を目の前で見ることになるんです」
「爆弾を投下すれば着弾点に居る人は死ぬし、機銃を掃射すれば射線に居る人は死ぬ。それはどうしようもない事実だろう?」
僕の言葉に、確かにそうなんですがねと言ってウィルソンは頭をガシガシと掻いた。
「現場が見えなければ人殺しの実感や罪悪感が幾分もマシになるんですが、実際にこの目で見てしまうと夢にも出てくるようになるんですよ」
「夢にも……か」
よく観察してみるとウィルソンの目元には隈が深く刻まれていた。はじめから気付いていたことだが、やはりウィルソンからはあまり覇気を感じられない。
「おかげであまり寝つきが良くないんですよ。夢も見れないほど疲れている時はある程度寝れはするんですけどね」
「……そうか」
強烈な記憶が夢に出てくるのは別に変な話ではない。現に最近は僕もそういった夢をたまに見るようになった。
「すみませんね、撃墜王にこんなこと言ったって仕方がないのに」
ウィルソンはそう言ってまた頭を掻いた。
艦艇同士を移動するためのボートを離れ、僕はようやく戦艦レゾリュートに到着した。
「戦艦だからどんなものかと思ってましたけど、廊下やそこらの部屋はエンタープラネットと変わりませんね」
大きな声で私語を話すと3歩ほど前を歩いているマーベライト少佐をはじめとする上官達にお咎めをくらってしまうのでウィルソンは僕に耳打ちするように話しかけてきた。
「効率重視だからな、レイブン皇国は」
ウィルソンは浪漫の欠片も無いとでも言いたげな顔をしてため息を吐いた。
「海の戦いに浪漫を求める時代はとうに終わってしまったということですね……」
ウィルソンが言い終わると同時に、前方を歩く上官達の足が止まった。僕やウィルソン、僕の後ろを歩く尉官達は必然的に肩を震わせる。しかし幸いにも怒声は飛んで来ず、代わりに重いドアが開く音がした。
──尉官まで集めて作戦会議というのは始めてだな。
そう思いながら上官達に続いて会議室に足を踏み入れる。何だか偉くなった気分だが、それと同時に雲の上の存在とも言える将官や参謀がずらりと並んでいるのを見て身体の筋肉が緊張で固くなる。
「全員揃ったな」
准将の階級章を身につけた50代半ばくらいの男がそう言うと同時に、会議室の空気が一瞬にして緊張感に包まれた。
「作戦参謀のジョン・ウェルモット准将だ。これより本作戦の概要についての説明を行う」
准将の男は一度咳払いをしてから口を開いた。
「まず、本作戦は対日律戦線に対して確実かつ大きな打撃を与える為に行う作戦だということを覚えておいて欲しい。」
ウェルモット准将は一度周りを見渡した。
「我々は先のマッツウェーク海戦で日律海軍の主力艦隊のひとつを撃破することに成功した。しかし敵の増援によって完全な殲滅はできず、我々は日律帝国に決定的な打撃を与えるには至っていない」
准将は会議室の中央にある大東海の地図に書かれているひとつの島を指さした。
「そこで、マッツウェーク島からほど近いウォール島へ奇襲攻撃を実行する」
准将が言い終わると同時に会議室が途端にざわついた。この作戦を今知った者も多いようだ。これまでいなかった戦艦が同伴しているのだから、考えれば分かることだろうとは思うが。
「既に知っていると思うが今回の作戦にあたって今乗艦しているレゾリュートを含めて合計3隻の戦艦が第我が第一機動艦隊に編入された。戦艦は主にウォール島に日律帝国軍が建設した飛行場をはじめとする軍事施設を長距離から砲撃を行う為、第一機動艦隊はウォール島攻撃の前に戦艦主体の艦隊と空母主体の艦隊、この2つの艦隊に分ける」
淡々と作戦内容と作戦開始までの行動を地図を交えて説明している准将を見て、ざわついていた面々はすぐに黙って耳を傾け始めた。
「我々の主目的は最初に言った通り日律帝国に大きな打撃を与えて戦意を削ることである。しかし、そのためにウォール島の飛行場を完全に潰すのは勿体ない。そのため、戦艦の砲撃を統制するために観測機を飛ばし、ある程度の効果を得られたら砲撃をやめて爆撃機による精密な攻撃に変更する」
右隣に居たウィルソンの顔が明らかに曇った。対地攻撃がそんなに嫌だったのか。
「途中、敵航空戦力による迎撃を受けることが予想されるため、エンタープラネットとホレステル各戦闘機隊は爆撃機隊と観測機それぞれの護衛についてもらう」
左隣に居たホレステル戦闘機隊の隊長の顔が明らかに曇った。護衛がそんなに嫌だったのか。
「なお、ウォール島攻撃の任務につく爆撃隊は新たに編入された3隻の空母、チェサピーク、ブランディワイン、コンステレーションの各爆撃機中隊から選抜する。エンタープラネット、ホレステルの各爆撃機中隊はウォール島の守備艦隊が出撃してきた場合の予備兵力として待機だ」
右隣を見るとウィルソンは静かにホッと息を吐いて表情が柔らかくなったようだった。
「作戦開始予定時刻は明後日、9月1日午前5時だ。それまでに各々の準備を完璧に済ませておくように。以上、尉官らは速やかに各持ち場に戻るように。佐官はこのまま会議室に残れ」
准将が言い終わると会議室に張り詰めていた空気が柔らかくなり、尉官達は各々会議室のドアを開けて出ていく。僕も近くに居たマーベライト少佐に一言挨拶を入れてから会議室を後にした。
──明後日か……、長いようで短い微妙な期間だな。
そう思いながら歩いていると、廊下の左側に間隔を開けて設置されている顔くらいの大きさの丸窓越しで、境界線も分からなくなるような広大な青い海と蒼い空が見えた。美しいと思いながらも、僕は底知れぬ漠然とした恐怖感を感じた。
〈物語内で登場した国家について(エウレディア地方編)〉
エウレディア地方とは日律帝國の西に位置する大陸、オクデシア大陸の西側地域の名称。 日律帝國では主に「央州地方」「西方諸国」と呼ばれる。ちなみに日律帝國の過去の書物には「欧羅迪亜」の表記が残されている。
ブリタン帝国:オクデシア大陸とは海峡によって分離されている島国だがエウレディア地方にとっては絶対に外せない巨大な帝国。産業革命の発祥国で工業と軍事においては常に一歩先を歩んできた。世界の至る所に植民地を作り、それの影響か海軍が異様に強大である。実のところ本土はひとつの国家ではなく、複数の国家が連邦を成してブリタン帝国という形を作っている。
ドミル帝国:エウレディアと呼ばれる地域の中央辺りに位置している帝国。帝国と言いつつ中身は軍事独裁による恐怖政治になりつつある。ひとつの国家としての歴史は比較的浅く、それまでは軍事国家や帝政の国家が複数ひしめき合っていた。
ラティア王国:オクデシア大陸の巨大な湖とも言われる「メルディア海」という内海のような海に飛び出ている半島に位置する国家。遠い過去に広大な帝国を築いたこともあったが、今は主要国にギリギリ入るかどうかという所まで弱ってしまっている。遺跡や”旧世界”と言われる古代文明の痕跡が数多く残されており、研究家からは「浪漫の塊」と評されている。
マジャール王国:元は勇猛な騎馬民族だったとされているエウレディアの中央地域に位置する国家。隣国のハプス帝国に併合されたり、分離したり、はたまた合併して共同国家を築いたり……。色々と破茶滅茶な歴史を持つ国家である。現時点では既にドミル帝国によって併合されている。
ダキア王国:エウレディアの中では比較的東の方の国家。石油等の天然資源に恵まれ、産業革命以降は工業化が大きく進歩した国家のひとつである。資源に恵まれているがゆえに周囲の国家から領土を狙われる恐れもあるため、第一次世界大戦以前より軍備を増強している。第二次世界大戦ではルーシア社会共和連邦を警戒してドミル帝国と共に戦うことを選択した。また、「イリュレア半島」の根本に位置しているため、イリュレア半島の国家達とまとめて「エウレディアの爆薬庫」とも呼ばれる。
レヒア共和国:ドミル帝国と連接する国家。中世ではドミル帝国の元となる国家?騎士団?のような集団を率いていた時代もあったが、それも過去の栄光となり現在は急速な工業化と軍拡の時代に遅れを取っている中小国。現時点では既に戦争に敗北してドミルとルーシアによって分割併合されている。
ハプス帝国:中世では大帝国を築いた深い歴史を持つ国家。もう他国を支配するような強大な権力は持っていないものの、鉄道や銀行、学校や官僚制度など、旧帝国時代のネットワークは今でも健在。現時点では既にドミル帝国によって併合されている。
フライツ王国:帝政、革命、立憲君主、民主制と常に政治の先頭に立っている国家。ドミル帝国やその前身の国家とも戦争を繰り返してきたため、東部国境の防備が最重要課題となっている。第二次世界大戦直前には社会主義派と現民主政権との内戦の危機にまで発展した不安定な国家でもある。現時点では既にドミル帝国の電撃的な攻勢によって降伏している。
ルーシア社会共和連邦:帝国主義を打ち破って国民主体の平等な国家を目指している何かと危ない国家。世界一領土が広い国家としても知られている。巨大な連邦国家であるため軍も非常に強大であり、「破竹の勢いで領土を拡大しているドミル帝国を止められるのはルーシアだけだ」と連盟国の面々から頼みの綱として扱われている。




