日律帝國最後の反抗23
mitotayo
文章を絞り出すのが下手くそになっているような気がしますが多分気の所為でしょう。最近は色々なことで何事も初心を思い出すのが大事だと気付かされています。
〈二十七話 誰が為の戦争か 後編〉
「由美子ちゃんのお母さんのこと?」
由美子ちゃんの言葉に俺は一瞬理解が追いつかなかった。
「うん、なんかよく分からないけどそんな気がするの」
「なるほどね……」
さっきの由美子ちゃんの言葉を思い返して状況を整理してみる。
──和重さんは昨夜の空襲の最中、由美子ちゃんの母親を探しに出かけ、見つけた。そして今朝、和重さんは由美子ちゃんの家を訪問し、由美子ちゃんを母親のもとに連れて行こうとている時に俺と綾香がここに来て今に至る。
「改めて考えると和重さん、由美子ちゃんに対して不審者みたいなこと言ってたんだな」
「ん?白石君、今私のことでなにか言ったかい?」
「いいえ、言ってませんが」
和重さんが怪訝そうな顔で俺を見てくる。
「そうかい」
森下家は親子揃って感が鋭いらしい。なんか怖いんですけど。
「由美子ちゃん、君のお母さんは何処か怪我してるんだと思う」
「そうなの?」
母親に会わせるという言い方的に、由美子ちゃんが動く必要があるということ。つまり、由美子ちゃんの母親は何処か怪我をしていると考えるのが普通だろう。大方、由美子ちゃんの母親は蒲島飛行場に併設されている病院に運ばれてると思う。けど、これを由美子ちゃんに言っても理解できるかどうか……。
「由美子ちゃんはそういう事聞いてないの?」
「うん、なんにも聞いてない」
隠し事、と言えるとしたらこれなのかな。
「じゃあ、多分だけど和重さんが由美子のお母さんの事を詳しく言ってくれないから隠し事してると思ったんじゃない?」
「うーん……」
由美子ちゃんは暫く考え込んだ様子を見せた後、口を開いた。
「あのね?」
「うん」
「その……私、変なこと言おうとしてるっていうのは分かってるんだけど」
由美子ちゃんは躊躇いながら言葉を紡いだ。
「お母さん、しんじゃってるんじゃないかなって思うの」
「え……?」
まさかと思ったが否定することもできず、俺はすぐに言葉を発せなかった。
「お母さんが前に言ってたの、くうしゅうの時は穴の中に逃げないとしんじゃうって」
「…………」
それはそうだ。穴、すなわち防空壕に逃げなければ空襲に遭っている街で生き延びるのは困難だ。炎、煙、家屋の倒壊、死因を考えてみればいくらでもある。落ちてきた爆弾が人が居る前で炸裂すれば遺体すら残らないかもしれない。
「和重おじさんね、私のお母さんの事をちゃんと話してくれないの」
「…………」
「とにかく行こう、行けば分かる。みたいなことしか言わない」
「それは……」
何と言ったら良いか分からない。いや、俺が何か言って良いものなのか分からない。
「だから、お母さんが……しんじゃってるんじゃないかって、思うの」
由美子ちゃんは瞳を潤ませて必死に言葉を紡いでいる。何よりもその姿を面と向かって見ているととても痛ましい。
「私、わたしは……っ」
そこまで言って由美子ちゃんは声を上げて泣き出した。まだ小学生になりたての子供なのに、母親が死んでいるかもしれないという不安を抱えているのだから泣くのも仕方がない。
「由美子ちゃん……」
俺は何とか泣き止んでもらおうと言葉を探すが見つからない。これまでほとんど接したことのない幼い子供、尚且つ女の子の慰め方なんて分かるはずがない。
「あの……まだそうと決まったわけじゃないから、ね?」
「でも、でもぉ……」
「大丈夫だよ、大丈夫だから」
違う、こんな気休めを言いたいわけじゃないのに。言葉が思いつかないってだけでこんな無責任な事言いたくない。
「由美子ちゃん」
「……なにぃ?」
由美子ちゃんは溢れる涙を手の甲で拭った。
「俺も由美子ちゃんのお母さんがどういう状態なのかは分からない」
由美子ちゃんは今にも泣きそうなのを懸命に我慢しているようだった。
「でもね、どんな状態だったとしても“会える”んだよ」
「……うん」
「俺は昔の戦争で父さんを亡くした。結局、遺体すら見つからなかった」
「…………」
由美子ちゃんは真剣に話を聞いてくれている。
「だからさ、そう……、会えるんだから」
何だか俺も喋りづらくなってきた。
「きっと生きてると思うし、まだ、泣いちゃだめだよ」
「……うん」
由美子ちゃんはまた涙を手の甲で拭き取った。
「分かった、分かったよ、たけるお兄ちゃん」
このくらいの歳の俺は、由美子ちゃん程強かっただろうか。
「たけるお兄ちゃんは強いね」
「そう、かな」
「だって、お父さんが居なくなってもここまでがんばってきたんでしょ?」
「ああ、そうだね」
由美子ちゃんは小さくため息をついた。
「私、そんなに強く生きれないかも」
「由美子ちゃんは子供なんだしまだそんな事考えなくたっていいさ」
──俺だってそうなんだから。
続けて言おうと思った言葉は心の中でだけ発した。きっと、由美子ちゃんには分からないだろうから。
「和重さん、そろそろ行きませんか?」
「ん?白石くんもついてくるのかい?」
和重さんはきょとんとした顔で聞き返してきた。
「逆に何でついていかないと思ったんですか」
「冗談だよ冗談」
和重さんはそう言って笑い、綾香に何か耳打ちしてから歩いてきた。
「そうだね、じゃあ行こうか」
「うん!」
和重さんの言葉に由美子ちゃんは元気に返事して和重さんについて行く。2人の背中はどことなく哀しみを帯びた雰囲気を出していた。
「あんなに良い子なのに、こんな思いをしないといけないのは可哀想、だよな……」
日律帝國は自国の利益に戦争をしている。それは当然だ。利益の得られない戦争なんてやるだけ無駄なんだから。
「……でも」
でも、それは国民が望んだ戦争なんだろうか。
「俺は……」
俺の頭の中に綾香の言葉が響いた。
──私……戦争なんか大っ嫌い!!
綾香は昔から争いが嫌いだったからそういう感想になるとは思っていた。
──武くんが死んじゃったら私どうやって生きればいいの!?
昨日聞いた綾香のその言葉がやけに俺の鼓動を速める。
「ねぇ」
綾香が声を掛けてきた。
「武くん、私のこと……好き?」
「っ!?」
俺は驚いた。丁度綾香のことを考えていた為に頭の中がが真っ白になった。
「……好き、だよ」
きっと俺の顔は今真っ赤になっているだろう。そう思うくらいに顔が熱い。
「そう……、良かった」
綾香はバツが悪そうに目を背けて呟いた。けれど何となく安堵したような表情をしている。
「ねぇ、武くん」
「なに?」
綾香はひとつ息をついてから口を開いた。
「この戦争は誰の為の戦争?」
俺と綾香の間に、夏らしい暑い風が通り過ぎていった。
「……日律帝國の為の戦争だ」
「建前は要らない、武くん個人の意見を聞かせて」
俺は綾香の目を見れなかった。綾香はただ真っ直ぐ、俺の事を見つめてる。
「……俺は」
俺は迷った。軍人がこんな事を言っていいものか。俺個人の意見だとしても、軍人として俺の考えは間違っている。
「別に私は軍の人じゃないから」
綾香は呆れたようにそう言った。
「恋人の前でくらい正直になったらどうよ?」
俺は恐る恐る綾香と目を合わせた。今の俺には痛いほど刺さる、ただ純粋で真っ直ぐな目線。
「……俺は」
俺は一度息を吸った。
「この戦争に価値はないと思う」
綾香は予想通りといった様子で頷いた。
「そう言うと思った」
綾香が自慢げにそう言ったのを見ながら、俺は言葉を続けた。
「……ただ、価値がなかったとしても」
俺の本音はもっと違うはずだ。だけど、
「俺は、和重さん達が見据えてる未来を信じたい」
「武くん……」
「戦争なんて結局、上の人達の言う事を聞くしか選択肢はないからね」
「そう、だね」
綾香は静かに、けれど重く頷いた。
「ほら、由美子ちゃんと和重さんに追いつこう」
俺と綾香は歩き出した。そして自然に、本当に自然に手を繋いだ。俺はその事に内心驚きながら足を動かす。
──この戦争は誰の為の戦争?
俺は、この戦争が終わるまでにその答えにたどり着けるのだろうか。その問いかけをしてきた綾香はどこか幸せそうな笑顔で俺の隣を歩いている。
──俺はこの笑顔を守る為に戦うとしよう。
俺は静かにそう思った。
あまり重要ではない報告です。章を設定してるのに各エピソードで章の文字を使ってる事に今更ながら違和感を感じました。一応エピソード内の〈〇〇章〉というのは、「〇〇話」という認識で書いてるんですけど分かりづらいですよね。
ということで、これまでのエピソードの〈章〉を〈話〉に書き換えておきました!




