幕間 地底世界での正月 -混沌を歩む魔童-
――――月陸歴1522年1月1日 0:00
「新年明けましておめでとうございます」
「おめでとうなのだ」
「おめで、とう。きあら、らきあ」
外光の届かない地底世界。魔力の灯火が揺れる拠点で、彼女らは新年を祝っていた。
ここにいるのは双子妖精族姉妹の不遜妹妖……、
「誰が不遜なのだ!?」
「いきなり何ですか? 新年早々いきなり叫んで」
…………………………メタ視点で何故か無粋なツッコミを入れる不そ……、
「誰がブスですか? 燃やしますよ?」
「姉上こそ何なのだ?」
「……いや、何なのでしょうか? 貴女の病気が移ったのでしょう」
「話が進まないのだ」
アークがいれば、今日のお前が言うなス……、
「よお、新年早々賑やかだな。ここが『今日のお前が言うなスレ』の会場か?」
アークじゃなくても言う奴がいた。後から彼女らの拠点に入って来た者だ。二人が漫才をしている間に銀髪の四歳児が招き入れていた。
「……あぁ、アーク以上の鬼畜タケルですか?」
「おぉ、シンゲンではないか。餅はあるのか?」
「治以上とか酷いな、キアラちゃん。シンゲンって俺は武田ではなく武だぞ? というか、ラキアちゃんが何で武将を知っている?」
「なんとなくなのだ」
苦笑いを浮かべる武にどこ吹く風のラキア。
それにしても本当に話が進まない。それなのに一人増えてしまう。
では、改めて……双子妖精族の丁寧口調の毒舌妖精こと姉キアラとドMの不遜妖精こと妹ラキアだ。この二人はアークの仲間で、とある依頼で地底世界に潜っていた。
キアラは赤いラインのセーラー服に水色のロンパースを着ている。ラキアは青いラインのセーラー服に桃色のロンパースを着ていた。
後から来たのは黒髪黒目の渡内 武。アークに黒白の小刀、エーコに鉄槌、ナターシャにマントをくれたあの異世界漂流者の武だ。破壊者にして救世主にして超越者という訳の分からない肩書を持つが底の知れない気配を纏っている。
そしてもう一人……、
「たける、あけまして、おめでとう」
銀髪の四歳児が小さく頭を下げる。ただ褐色肌に異形の角がおでこから生えていたり翼や尻尾があるが。
彼は、3000年前の魔王アガースラと【付与月姫】ノルン=スルーズの血を引く異形の魔童スクルド=スルーズだ。肩甲骨まで届く銀髪は月光のように輝き、瞳は幼さの奥に黄金の透明さを湛えていた。
「おう、おめでとう」
武は快活に笑いスクルドの頭を撫でる。
「貴方がいるだけで『おめでたさ』が霧散します。消えてください」
仏頂面で毒を吐くキアラ。
「酷いな、キアラちゃん」
そう言った武はキアラがいる方向とは別の方へ歩き、手を伸ばす。
「だから気色悪いので気軽に触らないでください」
そこにキアラが現れ、頭に置かれた武の手を振り払う。先程までいたキアラが霞の如く消えた。
実は幻魔法で幻の自分を作り、本物は姿を消していたのだ。何故そんな事をするかと言えばスクルドに慣れ親しませる為である。
「つれないねぇ。……で、魔法の修行は順調か?」
そう言ってラキアの頭を撫でた。
「四歳児に概念から教えるのは骨が折れるのだ。それと主様以外が触れるとか不快でしかないのだ」
「二人が俺に冷たい件について」
不快感を隠す事のないラキアだが、キアラのように振り払う事はしない。
「主様の旧友なら、少しは手伝ったらどうなのだ?」
「そもそも『ちゃん』とか吐き気しかしません」
キアラは武にちゃん付けを呼ばれる……いや名前を呼ばれるだけで気分は最悪だった。まぁラキアはその辺大らかなのだが。
「ごめん、ね。ぼくがおぼえ、わるく、て」
「スクルドは、頑張っていますよ。このニンゲンが苦労が分からい無能なのです」
「酷いなぁ」
苦笑を浮かべる武。
スクルドには人間社会で生きて行く為に魔王闘気を教えてくれとノルンに依頼された。闘気は同じ動きをすればその動きだけ流れ易い。沢山流し自分自身でその流れを感じ取りそれを制御する。
そうすれば魔王闘気を使いこなせる。よってナターシャはゼロ歳から育てながら、まず自分の真似をさせ、それをひたすらやらせた。その結果四歳になる手前で魔王闘気を使いこなせるようになったのだ。
しかし、それだけでは人間社会では暮らして行けない。何故なら魔族の血が入ってると見た目で分かってしまうからだ。よって次に幻魔法を教える事にした。
キアラとラキアは幻魔法を使えるので、覚える才があるかどうかは分からないが教える事は可能……だが、問題は言葉の拙く字も書けない子供に教えるのは難しいという事だ。
魔法は初歩の初歩魔法の詠唱をひたすら口にするか、紙に書く事で習得するというものだから。
人間社会で暮らせるようになるまで、地底世界に隠れ潜んでるという訳だ。
「それにニンゲンって悪意しか感じない」
「事実悪意しかありません」
「そうかい。スクルド、まだ成長途中で物覚えの良し悪しは、今の段階で分からないから安心しろ」
「そこは悪くないと励ますとこなのだ。主様の旧友にしてはガッカリなのだ」
「これだから愚鈍なタケルは」
二人に武がイジられる。
普段は唯我独尊って感じの武だが、二人にかかると言いたい放題言われる始末だ。
「そうかいそうかい。ならお前らにはこれ無しだ。スクルド、これ食べようぜ」
「わーい。ごちそうだ」
武は広げたのは、この世界では珍しい彩り豊かな重箱――御節料理だった。
「せっかく用意したのだ、食べてやるから感謝するのだ」
「ニンゲンの汚れた菌が、ありそうですが仕方ありませんね」
そうして正月を祝う四人。
やがてスクルドがこくりこくりしだす。
「スクルドは、お眠のようだ」
「ベッドに入りますよ」
ラキアが気付きキアラがベッドに優しく入れる……毒舌ばかりなのに子供に甘い。
「じゃあ俺はお暇するよ」
「そうしてください。男がいるってだけで、いつ襲われるか気が気ではありません」
「キアラちゃん、俺の守備範囲場外も良いとこ」
「我も主様以外許さないのだ」
「こんなラキアちゃんじゃ、治も嫌がるだろうな」
嘆息する武。
「それで、貴方は今何をしてるのですか?」
「調べ物」
「それは分かるのだ。何か面白い事はあったのか?」
キアラに続けてラキアが問う。
「嫌な気の流れを感じる。何かよこしまな感じの」
「何故分かるのですか?」
「気の応用」
「姉上、愚問なのだ」
全くその通りだ。武のでたらめ事は全部気の応用で通す。
「ともかく俺はそれを追うよ。地底世界はただの世捨て人の暮らす場所ってだけじゃない……たぶんだけどそう思う」
そう言って、武はひらひらと手を振り、闇の中へと消えていった。 これから長い時間をかけて彼が何を追うのか、この時の彼女らはまだ知る由もなかった。
地底世界には再び、スクルドの穏やかな寝息と、双子の毒舌まじりの談笑が戻る。 新しい一年が、静かに始まっていた。
一応言っておきますが、これ18章とは全く関係ありません。
18章ですが、まだまだ構成から色々考えております。
2月までにはアップ開始したいなーと思っています。




