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アサシンズ・トランジション ~引き篭りが異世界を渡り歩く事になりました~  作者: ユウキ
第十七章 次元の歪み (第三部 開始)
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幕間 年末大掃除 -side 伯爵当主-

大晦日と元旦は二話連続短編をアップします。

 ――――月陸歴1521年8月2日



 カーマイン伯爵領。

 真夏の陽射しが照りつけ、領都の通りには熱気と喧騒が満ちていた。わたくしが正式な当主になり、はや三ヶ月。

 わたくしは、朝の視察に出ていた。かつて荒れていた領地は、たった三ヶ月で見違えるほど整い出す。


「アンネルジュ様、おはようございます!」


 市場の女主人が笑顔で頭を下げる。


「おはようございます。商売の調子は如何ですか?」

「えぇ、お陰様で。最近は仕立て屋に注文が増えて、布の売れ行きも良くてねぇ」

「それは良いことですわ。この領地は織物が命ですもの。皆様の努力が実を結んで、わたくしも嬉しいですわ」


 わたくしは笑みを見せ、次の店へと歩く。

 仕立て屋の前では、若い職人が新しいドレスの刺繍をしていた。


「アンネルジュ様、見てください! 王都の流行を取り入れた新作です!」

「まぁ、素敵ですわね。色使いも繊細で……これなら王都の貴族にも負けませんわ」


 職人は誇らしげに胸を張る。


「ありがとうございます! 最近は旅人も増えて、服を見に来る人が多いんですよ。“王都より静かで落ち着いて選べる”って評判で」


 わたくは、一瞬だけ目を細めた。

 ……王都は今、戦前で騒がしい。攻めろ攻めろとせっつく貴族も多いから。













 頭が筋肉で出来てるゴミばかりですわ。それも自らは戦場に出ないからタチが悪い。













 静かに買い物したい方なら、カーマイン領を選ぶのも当然ですわね。

 アーク様も、もしかしたら……。


「良い流れですわね。この調子で、領地の名をもっと広めて行きましょう」

「はいっ!」


 軽く頷き、領主館へ戻る。


 昼過ぎ、執務室でアンネルジュは書類の山と向き合っていた。

 税収の報告、領地の復興計画、商人ギルドとの交渉書類。


 そして──机の端には、地図。


 赤い印が三つ。そのうち一つに、指先がそっと触れる。


「……やはり、此処ですわね」


 家令のジャックが静かに入室して来ました。


「アンネルジュ様。例の件、どうなさいますか? 国に上申するには、まだ証拠が……」

「えぇ、分かっていますわ」


 紅茶を口に運び、静かに言う。


「どうしても“伯爵領内の揉め事”として処理されてしまうもの」


 ジャックは眉を寄せる。


「では、どう動かれますか?」


 窓の外を見た。夏風がカーテンを軽く揺らしていた。


「準備をしておきなさい。アーク様が来られた際に、即ご案内出来るように」


 ジャックは首を傾げる。


「……来られますか?」

「来られるとは限りませんけれど……来られた際に動けないのは愚策ですわ。勿論、来られなかった際の事も考えております」

「承知致しました」

「年内に全て処理したいですわ。言わばこれは気が早い“年末大掃除“ですもの」


 だって言うでしょう? ゴミはゴミ箱へ――――、













 害虫はブタ箱へって。













 わたくしは机に置かれた手紙に視線を落とす。差出人は──デリダルク侯爵である叔父様。



 親愛なる姪アンネルジュへ。


 まずは、カーマイン伯爵家の再建、ご苦労だった。

 領地の立て直しは容易ではないが、よくやっている。

 お前の働きは王都でも評判だ。

 若いのに立派なものだと、私も誇らしく思っている。


 カーマイン領は古くから織物で名を馳せてきた。

 織物産業はこの領地の強みだ。伸ばせ。

 商人ギルドとの関係は大切にしろ。

 彼らを味方につければ、領地はさらに豊かになる。


 ところで三ヶ月前に協力してくれたアーク君。

 彼は礼儀正しく、聡明な青年だっただろう?

 困った時は彼のような者に相談しても良い。

 例え平民でも力を借りるのは恥ではない。

 むしろ領主として当然の判断だ。


 季節の変わり目で体調を崩しやすい頃だ。

 無理をしすぎるな。

 お前はまだ若いが、領地はお前が倒れては立ち行かぬ。

 何かあれば、遠慮なく私を頼れ。


             ――叔父 バリストンより



 本当に出しゃばりな叔父ですわ。わたくしが何歳から、この領の泥水を啜って支えて来たと思っていらして? まぁ商人ギルドとの関係というのは、有難いアドバイスとして受け取りますわ。


 黄昏の帳が落ちた領主館の庭で、わたくしは軽くストレッチをしていた。日課の運動です。

 庭師が声を掛けて来ました。


「アンネルジュ様、今日もお元気で」

「えぇ。領主が倒れては、領地が困りますもの」

「ははっ、まったくその通りで」


 わたくしは軽く汗を拭きながら、ふと空を見上げた。

 アーク様……以前、こちらの服飾文化を褒めていらしたわね。

 王都に行けば、アーク様を知る貴族たちに囲まれて攻めろ攻めろとせっつかれるでしょう。

 静かに買い物したい方なら──こちらを選ぶ可能性は、十分ありますわ。


 翌日の正午、執務室で書類に目を通していると、ジャックが慌てた様子で駆け込んで来ました。


「アンネルジュ様! アーク様が領内に入られたとの報告が!」


 わたくしは思わず微笑む。


「……まぁ。なんて都合の良い偶然でしょう」


 天もわたくしの掃除を応援してくださっているようですわね。


「直ぐにお迎えの準備を。最高級の茶葉と、見取図(ほうき)を用意なさい」

「はい、アンネルジュ様!」


 立ち上がり、ドレスの裾を整えた。


「では──始めましょうか」













 年末大掃除の序を――――。

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