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第41話:霊能捜査――その八

「波留さんはここで警察を待っていてくれ、お妙、どのあたりか分かるか?」

『えっとね、あっち。奥のたてものだよ』

「波留さん、由沙はあの方角の奥の建屋だ。俺は先に行くが、警察を連れてきてくれ」

「了解しました。お気をつけて」

「ああ、頼んだ。お妙、行くぞ」

『うん、由沙お姉ちゃん助けようね』


 そんな言葉を残してお妙は廃墟のなかへと消えていった。当然二郎もその後に続く。しかしお妙は、壁をすり抜け、最短距離を一直線に進んでいる。当然彼はその後を真っすぐ追うことができない。


 けれども、二郎にはお妙がどこにいるのか直感的に理解できた。真っ暗な廊下を疾走し、光無き階段を全力で駆け上がった。常人には絶対できないことを平然とこなしながらも、考えていることは由沙の無事だけだ。


 一棟目を抜け、二棟目に突入した二郎は、ここにきてようやく違和感を覚えた。今走っている廊下の突き当り。その上階にぽっかりと空いた虚無。それは霊的結界がそこにあることを如実に示している。お妙の存在も、その近くに感じ取れた。


 階段を駆け上がると、廊下の突き当りにお妙が浮いている。廊下の先。その空間だけが切り取られ、なにも感じることができない暗闇に浮かぶ虚無の塊になっている。結界だ。あの中に由沙がいる。


「お妙、下がってろ!」


 二郎は駆けながら右手に霊力を練り上げ、結界に向けて放った。スゥっと横に避けたお妙の脇を、霊子の波動が突き抜ける。


 パリンと霊的音響が館内に響き、廊下の先が現れた。二郎はその先、海側のドアを開け、内部になだれ込む。


 目の前には一枚の障子。その先から、由沙の気配を感じ取り、安堵する。死んではいない。生きている。


「由沙!」


 二郎は破壊するような勢いで障子あけ放ち、踏みとどまることなく部屋に入った。畳敷きの和室。その奥に街灯りを薄っすらと透かす障子。誰もいない。彼は視線を横の部屋に向ける。


 そこには三人の影があった。奥の布団に女が寝かされている。一部はだけた掛布団の下から縛られた女の裸体が見えた。その横。部屋の中央に、畳の上で由沙に馬乗りになり、服を引き裂こうとしている男がいる。


 見えるか見えないかギリギリの暗さの中でも、二郎にははっきりとその状況が把握できた。


「退け!」


 遠慮なく蹴り上げられた左足のつま先が男の脇腹にめり込み、あばらが折れる感覚が伝わってくる。男はそのまま由沙の上から吹き飛ばされ、襖を破壊して動かなくなった。二郎はその男に目もくれず、意識がない由沙の体を優しく抱きおこす。


 死んではいない。再度確認して安堵の吐息を二郎は漏らした。優しく彼女の額に掌をあてがい、霊力を流して活力を送り込む。同時に、まとわりつく呪を吹き飛ばした。


「うっ」

「もう安心しろ」


 由沙の瞼まぶたが上がり、その瞳に陰りは無かった。状況がつかめないのか、彼女は瞳を動かして辺りを確認しているようだ。その瞳が二郎の目に定まり、固定される。


「じ、二郎さん?」


 由沙の意識はまだ完全には覚醒していないようだった。まさに寝起きで、気だるい感じの声だ。いつもの張りがない。


「体に違和感はないか?」

「えっ? ちょっ、ちょーっと待ってください。ここはどこ!? わたしはなにを? って、二郎さん、なにしてるんですか!?」


 自分が置かれている状況が理解できないのだろう。由沙は慌てふためき、取り乱した。彼女を抱く二郎の両腕にも、彼女の心拍が早まり、体温が上昇しているのが伝わってくる。


 慌てふためく由沙を落ちつかせるように、二郎は優しく、諭すように問いかけた。


「お前は操られたんだ。悪霊にな。どこまで覚えてる? 車を飛び出した後だ」


 言葉の意味を理解したのだろうか、由沙は言われるでもなくすーはーと深呼吸し、気を落ちつかせているようだ。


「えっと――」


 あれからすぐにタクシーでテレビ-KTに乗り込んだ由沙は、制作局に突撃して新井プロデューサーを捕まえ、公開捜査の件を話した。それはすぐに受け入れられて報道部に案内された。報道部に詳細を説明し、その後彼女は新井を再度捕まえてこの件を特番にしようと粘りに粘ったらしい。しかしその途中でなぜか言いくるめられ、局をでたところまで覚えていた。


「――というわけで、気づいたら二郎さんに」

「分かった。お前は新井と話しているうちに操られたということだな。だが……」


 由沙が話した状況は、二郎が考えていたこととおおよそ合致していた。悪霊に憑かれた新井に煙たがられ、操られたことにも納得がいった。


 うめき声をあげながらうずくまっている男を見る。常人には判別できないほどに部屋は暗い。それでも二郎にははっきりと状況が視えている。その男はひょろっとした痩せ型で、年齢は四十代後半。眼鏡をかけていて、苦しみに歪むその顔は新井のものではない。だがそんなことはもうどうでもよかった。


 裸で縛られ、布団に寝かされている女を二郎は視た。生きてはいるがかなり衰弱している。しかも彼女から漏れる霊子には覚えがあった。


「由沙、動けるか?」

「えっ、大丈夫だけど」

「なら頼む。彼女を介抱してくれないか? 糸川奏だ」

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