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第36話:霊能捜査――その三

 あのお妙でさえ、糸川奏の居場所を突き止められなかった。それがなにを意味しているのか? 二郎はすぐに思い当たった。それは常人には理解できないことであり、常人には不可能な犯行でもある。


 糸川奏が生きていることだけは間違いない。しかし、彼女が置かれている状況は恐ろしく特殊で、犯人は特別な存在であろうことが想像できた。そうでなければこんな犯行はできない。


 警察だけでは絶対に太刀打ちできない相手。それは二郎のような存在以外にないのだ。彼と同じ特殊性を有する存在。それが犯人なのだろう。


 けれども、そんな存在がなぜ? という疑問が二郎の頭には渦巻いている。糸川奏の所在を霊的に隠す理由は二郎の能力を警戒してのことだろうか? だったとして、なぜ彼女なのか? 不明な点は多々あるが、今はそんなことを考えている場合ではない。


「由沙、警察に連絡を入れてくれ。それから、方位磁石とできるだけ大きな一枚物の日本地図を持ってきてくれるように頼む」

「分かったわ。方位磁石と一枚物の大きな日本地図ね」


 由沙はスマートフォンを取りだし、電話を掛けはじめた。二郎は父親に向き直り、その眼を直視する。


「そうだ。それから、糸川さん。和紙と墨と筆、浅めの白い小皿と水を用意できないか?」

「分かりましたすぐに用意させます。墨は市販の墨汁でもよろしいでしょうか?」

「ああ、構わん。奏さんの部屋に用意してくれ」



 用意された夕食を掻きこみ終わるころに、警部と刑事がが到着した。刑事の手には丸められた大きな紙が握られている。糸川奏の部屋に移動し、二郎の指示に従って刑事が床に日本地図を広げた。


「方位磁石と地図の方角を合わせてくれ」


 二郎は水の入った小皿に折りたたまれた小さな和紙の紙片を浮かべ、A0サイズの大きな日本地図の上に置いた。和紙の紙片には墨で梵字と糸川奏の名前が書かれていて、部屋で見つけた彼女の髪の毛が折り込まれている。紙片は一方だけが尖っていた。


 二郎は精神を集中し、手印をきって小皿の中央に浮かぶ小さな紙片に念を送った。すると、じわじわと紙片が回転し、一定の方角を指してピタリと止まる。


「ここは東松山だったよな」

「はい、そうですが」


 二郎の問いかけに答えた父親は、期待のこもったかような視線を彼に送った。その視線を受け、彼はポケットから取り出した赤ペンで日本地図に線を引く。


 埼玉県東松山市から南南西の方角。それは小皿に浮かぶ紙片が指し示した方角だった。


「ここから先は海だ。彼女が国内にいるならば、ここから伊豆半島までのどこかに匿われている」

「範囲が広すぎますね」


 そう呟いた父親に、ハッと気がついたように顔を上げた由沙が語り掛けた。彼女は撮影する役回りに徹していたが、いてもたってもいられなかったようだ。


「あと一か所。たとえばココ、御殿場あたりでこの儀式を二郎さんにやってもらえたら、奏ちゃんの居場所が絞りこめそうですよ」

「良く気づいたな、由沙。その方法で大まかな位置が特定可能だ」


 二郎は由沙が指摘したことを、はじめからやるつもりでいた。しかし、それを口にだすようなことはしなかった。そんなことを言ってもなんの役にも立たないし、言うだけ損だからである。


「御殿場ですね。そこには警察署があります。二郎さん、直ぐに向かうんですよね」


 二郎を期待がこもったような瞳で見つめた警部は、顔を上気させている。彼はそれとなく警部から視線を外し、父親に向き直る。


「糸川さん、そこの布団と枕とぬいぐるみを持ち出してもかまわないよな」


 布団や枕には糸川奏の霊子や念が、とくに多く残っている。ぬいぐるみにしても同じだ。この部屋で行う儀式と比べれば精度は落ちるが、おおむねの方角くらいは分かるだろうというのが二郎の予測だ。


 部屋ごと場所を移動できればピンポイントで居場所を突き止められるが、それは無理な相談だろう。ただし、ピンポイントとは言っても精度はそれほど高くない。せいぜい数百メートル四方がこの儀式の限界だ。


 今回の場合は寝具やいつも抱いていたであろうぬいぐるみといった、比較的彼女の霊子が多く残っているものを持ちだせるとはいえ、そのその精度はせいぜい数キロメートル四方になると二郎は予測している。


「もちろんです。あの、私も同行してかまわないでしょうか」

「アンタの気持ちは分かるからな。もちろんかまわん」


 刑事が運転する警察車両に乗り込み、御殿場警察署へと急ぐことになった。その道中、二郎はこの儀式で特定される位置はかなりの範囲になるということを説明していた。それを聞いた父親が、思いつめたように口を開く。


「高時警部、公開捜査というのはできないのでしょうか」


 (わら)にもすがりたい気持ちの現れだろう。器が小さい霊能者ならば、もしくは(いつわり)の霊能者ならば、『俺の能力が信じられないのか』と気分を害するか、『余計なことはするな』と怒りだすかもしれない。


「親御さんが望むのならそのようにいたしますが、リスクも伴いますよ」

「いえ、リスクについては分かっているつもりです。ですが、娘が死ねば二郎さんが直ぐに探しだせるということが分かれば、犯人は発覚を恐れて娘を生かすのではないかと」

「それはそうでしょうね。二郎さんの能力は凄いですから、視聴者以外にもすぐに知れ渡るでしょう。二郎さん、どうですか? 公開捜査にしましょうか?」


 父親の考えは、なるほどと納得のできるものだった。べつに二郎は気分を害したわけでも、面倒なことになったと思ったわけでもないが、あまり乗り気ではなかった。


 たしかに、嬉しそうな警部の反応や、瞳をキラキラというよりもギラギラさせている由沙を見ると、『焚きつけやがって』という諦めに似た感情を抱いたことは確かだったが、それらの理由で嫌だとはさすがに口にできない。


「ああ、それは構わんぞ。いいよな、由沙」

「もちろんです。公開捜査の件、わたしが局に掛け合います。あぁ、こんなことになるならカメラマンを雇うべきでした」


 そう言うなり由沙はスマホを手に取った。しばらくすると早口でまくしたて、かなりエキサイトしている。しかも興奮しすぎてなにを言っているのかよく分からない。その様子を父親はあっけに取られたような顔で見ていた。


「すみません、刑事さん。このあたりで降ろして下さいませんか、電話じゃらちが明きません。局に乗り込みます」

「じゃぁ、あそこの角でいいか? あそこならタクシーも拾いやすいだろう」

「はい。ありがとうございます!」


 十字路の脇で停車するなり、由沙は飛びだすように車外にその身を躍らせた。

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