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第37話:霊能捜査――その四

 御殿場警察署に到着し、糸川奏の私物が会議室に運び込まれた。刑事の指示でテーブルが片付けられ、ブルーシートが広げられる。その上に布団が敷かれ、枕とぬいぐるみが置かれた。刑事によって日本地図が広げられ、方角が調整される。


 会議室に、カメラを構える由沙の姿は無い。


「これでいいか?」

「ああ、上出来だ」


 二郎は布団の上にそっと小皿を置き、急須で水を張って紙片を浮かべた。警部や刑事、糸川奏の父親らが見守る中で彼が集中しはじめる。しばらくして彼は手印を切り、紙片が動きだした。


 ゆっくりと水の上で紙片が回転し、南南東の方角を指し示す。二郎が赤ペンで警察署から南南東に線を引く。二本の赤線が有名な温泉街で交わった。彼は経験から導きだしたおおまかな範囲を、交点を中心に丸く囲む。


「熱海ですか……」


 地図の赤い円に、深刻そうな眼差しを送っていた警部が呟いた。


「そうだな。なにかマズいことでもあるのか?」

「いや、熱海には廃ホテルが沢山あったなと思いまして」

「だが最近は盛り返していると聞いているが?」

「それでもです。まだまだ沢山ありますよ」


 なぜ警部が廃墟にこだわるのか? 二郎には分からなかった。たしかに、めったに人が入り込まない廃墟になら監禁するのは楽だろうし、とある方法を使えば浮浪者とかの不法侵入者をシャットアウトもできる。


 けれども、自分の住居に監禁している可能性もあるし、なんならマンションの一室を借りて監禁していることも考えられた。そんな疑問をぶつけてみようかとも考えた二郎だったが、急ぐ必要がある今は、話を進めようと合わせることにした。


「仕方あるまい。廃墟だろうがマンションだろうが捜し出すだけだ」

「なにか考えがあるのですね」


 自信をもって答えた二郎に、警部が期待がこもったかのような顔で問いかけてきた。


「ああ、俺にしかできない方法だがな」

「具体的には?」


 廃屋で不法侵入者をシャットアウトする方法。それは、お妙の目から糸川奏の身を隠す方法でもあった。


「霊的な結界が施された場所を探す。結界に囲まれた場所はだな、視えていても常人には認識できない。中にいる人物も同じだ」

「なぜ結界だと断言を?」


 霊的な強い力を持つ者だけが使える結界術。それが糸川奏を隠しているカラクリだ。状況的にそれ以外は考えられなかった。


「相棒の霊体にも探せなかったからだ。霊的結界はだな、俺みたいな霊能者か、力のある霊体にしか張れない。結界は認識を阻害したうえで霊子も霊波も念ですら遮断するからな」

「そうなると、被害者の生死は……」

「それは安心していい。たとえ結界内に殺害現場があったとしてもだな、死ねば大量の霊子が振り撒かれる。たとえ結界があろうと幽世から相棒が探せば見つけられるはずだ。それが見つからなかったんだ。糸川奏は生きている」


 お妙ならば、生きている人間から漏れる僅かな霊子でも捜しだすことができる。しかしそれは対象者が結界の外にいる場合だけだ。


 結界内部で人間が死亡した場合、大量にあふれる霊子を完全に遮断することはできない。結界から漏れたわずかな霊子を、お妙なら感知できる。彼女の能力と実績が、二郎にそれだけの信頼をもたらしていた。


 そんなお妙が捜しだせなかった。答えはおのずと一つに絞られる。


「分かりました。人海戦術は意味をなさないのですね」

「ああ、俺にしかできないことだ」


 さすがに警察キャリアだけのことはある。頭の回転が速い。性格は置いておくとして、警部が学歴だけで今の地位にいるのではないのだなと、このとき二郎は思った。


「ところで、結界はどうやって探すんですか? なにか儀式をするとか?」

「そんな儀式はない。直接視て探す以外にないんだ」


 そんな儀式があれば苦労はしない。結界とは隠すための術である。知られている儀式のことなど、対策されていて当たり前だろう。しかし、二郎には結界を直接視界に収めることができれば、そこに結界があると確実に看破できる自信があった。


「早速はじめるぞ。熱海に移動だ」

「分かりました。渕上巡査長、熱海近辺の地図を。それから、廃ホテルや廃屋の所在を調べてくれ。地権者への連絡も怠るな」


 二郎に見せつけるかのようにテキパキと指示していく警部の姿は、自信に満ちあふれているようだった。なぜそれほどに確信めいているのか? 疑問に思った二郎は、ついつい問いかけてしまう。


「監禁場所が廃墟とは限らんだろ?」

「たしかにおっしゃる通りです。ですが、可能性が高い場所を重点的に探したほうが圧倒的に効率的なんです。この範囲をすべて見て回るのは効率が悪すぎます。先ほども申し上げたとおり、可能性が高い場所から探していきましょう」


 なるほどそんな考えは無かった。自動車に乗り、範囲内すべての道路を巡って車内から視て回れば、時間も節約できると思っていたが、よくよく考えてみれば、車が入り込めない路地もあるだろうし、マンションや廃ホテルの中までは外から全てを視とおせるわけではない。


 二郎の能力だと、一戸建て程度ならばその内部まで霊的な視界を得ることができる。けれども、大きな建物の内部を完全に視とおすことはできない。


 ましてや、犯人に霊的な能力と知識があるのならば、外から視とおせる場所に結界を張らないだろうとも考えられた。警部がそこまで理解しているとは思えないが、警察には警察なりのデータの蓄積や考え方があるのだろう。


「まぁ、餅屋は餅屋だな。そこらへんはお前に任せる」

「はい!」


 嬉しそうに前を向き、警部は率先して会議室を後にした。二郎と父親がそれに続き、車両の後部座席へと乗り込む。刑事はすでに別車両へと乗り込んでいて、その手には無線が握られていた。警部は刑事のところへ走り、なにやら指示をしている。


「斉藤さん、なにか私にできることはないでしょうか」


 いてもたってもいられないのだろう、父親はすがるような目で二郎を見た。その気持ちは彼にも痛いほど分かる。素人が焦って動いても碌なことにはならない。


「気持ちは分かる。だが、奏さんを助けたいと思うなら、今は俺たちに任せておけ」

「分かりました。大人しく待つことにします」


 そんなことを話しているうちに警部が戻ってきた。運転席に乗り込み、キーを回す。エンジン音が鳴り響き、警部が振り向いた。


「では参りましょう。渕上巡査長が先導します」

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