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クラフトマスター建国記  作者: ウィースキィ
第一部 第三章 新たなる世界 【エルセリア大陸 編】

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第10話 六連の星の煌き


 ついさっきまで確かにそこにあったメラリカの光は、今や空に還っていくかのように、ゆっくりと輝きを失いながら消えていった。愁の目には、その粒子がまるで儚い雪のように見えていた。


 視界の奥で、走馬灯のようにメラリカとの思い出が巡っていく。彼女と出会ってからまだわずか数ヶ月、愁が村を空けることが多かったせいで、一緒に過ごした時間は本当に僅かだった。それでも、初めてギルドで見かけた彼女の姿は鮮烈に記憶に刻まれている。


『なんて綺麗な人なんだろう』


 そう思ったのを覚えている。銀等級のベテラン冒険者でありながら、メラリカには荒々しさの欠片もなく、立ち振る舞いには品位が漂っていた。その笑顔はいつも柔らかく、周囲の誰もが魅了されていた。だが、いつからか愁は気づいていた。その笑顔がどこかぎこちなく、心の奥底から笑っているわけではないことに。彼女もまた、かつての自分と同じように何かを抱えていたのかもしれないと。


 メラリカは村の人気者で、暇さえあれば植物についての知識を惜しみなく教えてくれた。誰に対しても人当たりがよく、村の子どもたちも、彼女の授業にはこぞって集まっていた。そんな彼女が今、消えてしまったのだ──まるで全てが夢であったかのように。


 愁の胸は鋭く締め付けられ、込み上げる感情が全身を駆け巡る。胸の奥で、怒りが煮えたぎり、荒れ狂うように脳内を支配していく。


(あぁ、そうか……俺は怒っているんだ)


 この理不尽な現実に、どうしようもなかった自分に、もっと良い方法があったかもしれないという虚しい妄想に。滾る怒りが溢れ出し、もはや抑える術もなく愁の内側で暴れまわっていた。そして、やがて、渇いた笑いが口からこぼれた。それは自分自身への呆れと悔しさが混じった笑いだった。


「はは……何やってんのかな、俺は。逃げろって言われたのに。生きてって言われたのに、分かってる、分かってるさ……でも、やっぱり逃げるのは無理ですよ、メラリカさん。あなたを奪ったあれを、俺は許すことができませんから」


 統一大精霊が耳をつんざくような咆哮を上げ、言語にできない異様な声を発している。その姿が、愁にはまるで勝利の喜びを表現しているようにすら見えた。化け物が、罪のない命を喰らい、メラリカを喰らって歓喜している──そんなこと、黙って見過ごせるわけがない。


「『逃げろ』だって?そんなことが出来るわけがないだろう!!」


 愁は怒声と共に決意する。統一大精霊を殺すと、メラリカの仇を討つと。たとえその行為に意味がなくても、罪滅ぼしにすらならなくても構わない。ただ、この抑えきれない怒りをぶつける場所が必要だった。


「精霊だか、神だか知らないが……お前は俺が、必ず殺してやる」


 抑えきれない怒りを胸に、愁は駆け出した。まずは小手調べだとばかりに、力を込めて宵闇を抜刀し、縮地と筋力、そして素早さの補正を最大にかけた一撃を叩き込む。統一大精霊まで数メートルに迫ったその瞬間、宵闇の刀身が障壁に阻まれ、進撃は止められた。物理法則を無視したかのように、その障壁は愁の全力の一刀を受けてもびくともせず、逆にその勢いで愁の腕に衝撃が跳ね返る。


「くっ……!」


 握っていた手は肉が裂け、血が噴き出し、腕の骨には激痛が走る。しかし、滾る怒りと脳内の興奮で痛みなど意識の外に押しやられていた。愁は距離を取り、ポーションで応急処置を施す。


 そして、再び立ち上がり、愁が前へと進もうとしたその瞬間、不意に一匹の三毛猫が現れ、道を塞ぐようにして愁の前に立ちはだかった。猫はじっと愁を見つめ、その瞳の奥に何かを伝えようとしているかのようだった。


「オベロさん……退いてください。俺はあれを処理しないといけないんです」


 今の愁は、立っているだけでも苦痛だった。すぐにでも駆け出して、あの化け物を殺してやりたいという衝動が抑えきれない。


「愁、君はあれに勝てると思っているのか?あれは、すでに精霊の心臓を三つも吸収して、五百を越える魂も捕食している。もう、人の手には余る存在なのだぞ?」


 冷静な分析は正論だった。愁もそれは理解していた。この無意味な行動の果てには何もないことも。それでも、正論を叩きつけられると、感情は逆撫でされる。そしてそれは、自分の器の小ささを浮き彫りにしてしまう。その悔しさと恥ずかしさが、結局は怒りに向かってしまうのだ。


「そんなこと……っ!分かっています!分かってますよ!意味がないことも!あれが人の手に余る存在だということも!それでも、許すことなんて……出来ないんです!」


 オベロルストは何も悪くない。むしろ、心配して助言をしてくれているのに、愁はそれが分かっていても怒りの矛先をオベロルストに向けてしまっている。愁も頭では分かっているのだ。オベロルストが言うように、統一大精霊は強大だ。〈鑑定の魔眼〉で確認しても、地下で出会った地底龍と同じで、ほとんどの情報が読み取れず、レベルの概念すらない。


 つまり、この世界の強さを数字や言葉で表してくれる〈鑑定の魔眼〉でも、読み取れないほどに、数値化できないほどに強大な力を持っているということだ。


 でも、だからといって、何だと言うのだ。たったそれだけの理由で、許せるわけがない。諦めて逃げられるわけがない。せめて、仇だけでも取らなくては収まらない。


「退いてください。止めても無駄です。俺は何がなんでもあれを殺します……!」


 怒気を含んだ愁の視線が向けられても、オベロルストは呑気に足で顔をわしゃわしゃとするだけで、退ける素振りは見せない。その態度に嫌気が差した愁が無視して歩きだそうとした時、オベロルストは「そうか……」と一言述べてから話を続けた。


「いや、止めるつもりはないさ。君には無理だなんて言っているつもりはない。ただ、状況を理解しているのかを確かめたかっただけだよ」


「オベロさん……?」


 急な態度の変化に戸惑う愁に対して、オベロルストは背中を押すように言葉を投げかける。


「行ってこい、少年よ。君の行動は無謀ではないぞ。奴が鎖を伸ばしている周りのエルフ達は私に任せておけ。これ以上、被害を出させはしないさ。愁、君は思う存分暴れてくるといい。そして、答えを見つけてこい。後悔をしないようにな」


「……はいっ!ありがとうございます」


 横を駆け抜けていった愁の後ろ姿を眺め、オベロルストは猫なので表情は変わらないが、確かに笑っていた。


 そして、他のエルフと同じく鎖に繋がれてしまったエリルの元に戻ったオベロルストは、彼女が持つオベロルストですら理解不能な不思議な力によって、自らに施された神族から受けた封印を限定的に解除する。かつて天使や神々ですら畏怖させた、オベロルストの身に宿る莫大な魔力を解放して紡ぐのは、〈血界〉を開くための言葉。


「理を越えて現界するは六連の星。その星の煌きは万物を照らし、三千世界を掌握する血界とならん。故に、ここへ新たな世界創造を執り行う。罪なき魂が脅かされることなき、安息の世界の創造を。開き、閉じろ。我が名は神の一柱、神獣オベロルストなり。掌握せよ!血界肆陣六連星けっかいしじんろくれんせい


 オベロルストの言葉に呼応するように、一瞬で取り巻く環境、世界が変わる。前触れもなく、何の前兆もなく。城の中庭にいたはずの愁達は、統一大精霊を含めて見たことのない景色の中にいた。


 夜空に浮かぶ煌く六連の星。眩しく光り輝き、この世界を照らしている。周囲には何もない、ただただ広がる砂漠の地面が、延々と、永遠に続いている世界。これこそがオベロルストが持つ四つの固有世界の一つ、全ての理から隔絶された世界。六連の星が輝く『第壱陣世界』である。


「ようこそ、私の世界に。何もないところだが、楽しんでいってくれたまえ」


 少し得意気にオベロルストがそう言うと、エリルが驚きの声をあげる。


「すごーい!おーちゃん、こんなこと出来るんだっ!」


「すごーい!とか言ってる場合か、エリル?君は今、魂を喰らう鎖に繋がれてるんだぞ?」


言われたエリルは自分の体を確認し、今更ながらに鎖があることに気付く。


「あれ?本当だっ!んー!取ってーっ!拍手できないよーっ!」


「はぁ、君は相変わらずだな……もう少しだけ、じっとしていてくれたまえよ。さて、後は愁、君次第だぞ。見つけられるかな?君の答えを」

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