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クラフトマスター建国記  作者: ウィースキィ
第一部 第四章 新たなる世界 【第二次王国 編】

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第8話 情報交換

「それじゃあ、行ってくるね。留守の間は二人をよろしく」


 時刻は十時を回り、約束の時間が迫っていた。朝早くから準備を済ませていた愁は、屋敷の外で見送りに来たリリーニャに、屋敷を託す。


「うん!任せて!でも、早く帰ってきてね?」


「わかった。できるだけ急いで戻るよ」


 外には愁とリリーニャしかいない。リルアとシャウラは屋敷の中で義足の製作に取り掛かっているため、見送りには来ていないのだ。義足の採寸の際は愁も立ち会ったが、その時に、シャウラから魔力が流れやすく、かつ丈夫な素材が欲しいと頼まれ、愁は以前に作った義足を取り出し、それを手渡していた。その義足は魔力が通らなかったために失敗作となったものの、地下に潜んでいたドラゴンの鱗を分解して作られた極上の素材であり、受け取ったシャウラも驚嘆するほどのものだった。


 シャウラは目を輝かせながら、「こんな素材、見たことがない」と感嘆し、「これなら素晴らしい義足が作れる」と確信を持って言った。そんな背景もあり、愁は義足の製作をシャウラに任せ、留守中の屋敷はリリーニャに託し、帝都の長、皇帝陛下であるノヴァン二世の元へと向かう。今日は彼との情報交換の約束の日で、約束の時間は十一時。実際には、情報を教えてもらう形になるのが大半だろうが、どんな情報も今後のためには貴重な力になる。足元をすくわれぬよう、余計なプライドは捨てるべきと考えている。


 ライトの私邸から帝都の城までは、さほど距離はない。街の喧騒をかき分け、数十分ほど歩いた愁は、やがて荘厳な城の門前へとたどり着く。


「すみません、皇帝陛下へのお取り次ぎをお願いします」


 門番の兵士に声をかけ、ノヴァン二世から受け取った手紙を差し出す。兵士は手紙に目を通すと、即座に中へと案内してくれた。検査こそあったものの、愁の荷物はボックスにしまわれているため、普通の検査はほぼ無意味だった。


「検査はこれで終了です。どうぞ、指定の場所までご案内いたします」


「よろしくお願いします」


 兵士に案内された部屋は、以前にもノヴァン二世と話をした場所だった。形式ばった謁見でなく、ここで再び二人きりで話すことができると察し、愁はほっと胸を撫で下ろす。あの厳かな雰囲気は苦手なのだ。


 部屋に腰を下ろし、しばらく待っていると、扉をノックする音が響いた。


「失礼します」


 凛とした女性の声が部屋に満ちる。扉が開かれると現れたのは、ノヴァン二世の付き人であるユーリアだった。彼女は前回もこの部屋まで案内をしてくれた人物である。彼女の背後からは、ノヴァン二世がゆっくりと現れる。護衛の近衛兵はおらず、ユーリアだけが付き従っていた。愁が立ち上がろうとしたその瞬間、ノヴァン二世は手を上げて静止させた。


「いや、そのままでいい。堅苦しい挨拶は不要だ」


 ノヴァン二世はにこやかな表情を浮かべ、愁の対面に腰を下ろす。ユーリアは部屋には入らず、扉を閉めて静かに退室していった。ノヴァン二世はそのまま愁を見据えながら、柔らかな笑みを浮かべる。


「ここでは、気を抜いて話してくれたらいい。久しぶりだが、元気だったか?」


 ノヴァン二世の瞳は相変わらず鋭く、その視線には何もかも見透かされるような力があった。愁は、この目にいつも圧倒される。


「お久しぶりです、皇帝陛下。今日はありがとうございます。最近では、エルセリア大陸にあるキアナ王国に行っていまして、そこではまあ……いろいろなことがありました」


「ああ、その話は聞いている。エルセリア大陸にも諜報員を送っているからね」


「エルセリア大陸までですか?それは驚きました」


 エルセリア大陸は、ラリアガルド帝国から相当な距離がある。最短ルートでも、大森林を越え、アイラスグリフ王国の港まで行かなければ、エルセリア大陸へはいけないはずだ。


「我が帝国はエルセリア大陸の他にも、デモリアス大陸やシィータビスク連合国、もちろんアイラフグリス王国にも諜報員を派遣している。世界は常に動いている。情報を得るためなら手段を選ばない。それで、今回話すこともそのエルセリア大陸での出来事に関係しているが……少し長くなる。それでも構わないか?」


「はい、もちろんお願いします」


 愁は緊張の面持ちでしっかりと頷き、ノヴァン二世の話に集中した。目の前にいる帝国の象徴が語ろうとする世界の裏側――その一端を聞き出すために、心を落ち着けながら耳を傾ける。


 ノヴァン二世は「それでは」と一度咳払いをしてから、ゆっくりと話し始めた。


「まず最初に、キアナ王国にちょっかいを出していたのはアイラスグリフ王国で間違いないだろう。セルシオ国王がアバルダ国王に接近していたのは、こちらも以前から把握していた。しかし、詳しく調査を進める中で、事件が起こる前に王国の勇者と研究員が派遣されていたことが判明したのだ」


「王国の勇者……ですか?自分は見かけませんでしたが、実際に会ったことはなくて。勇者という存在、どれほどの脅威になるのでしょう?」


 愁は、今までに勇者の話を耳にしたことはあったが、実際に対峙したことは一度もなかった。彼の唯一の勇者に関する知識といえば、リアの友達ユアの師匠が勇者であるということぐらいだ。


「そうだな……まずは勇者について説明しよう。勇者とは、王国に十三人存在する、国王直属の最高位騎士だ。彼らは『正規勇者』と呼ばれ、その下に『準勇者』がいる。準勇者は、いわば見習いのようなものだ。そして、その戦力だが、勇者一人で一騎当千と言われるほどの実力者だ。特に上位三人の勇者は、かなりの手練れだと言われている」


「位があるのですね……」


「そうだ。階位と呼ばれるもので、数字が若いほど位が高い。そして、もう一つ重要なことがある。勇者の上には『神託の勇騎士』という称号を持つ者が存在する。彼は、我が帝国軍の元帥ガラドル・リッチモンドと並び称される『全統五覇』の一人だ。序列は五位で、数字上ではガラドル元帥よりも下だが、その実力は恐るべきものだと言われている。注意が必要な人物だ」


 愁は思い出した。全統五覇の序列二位である精霊王ルゼと会ったときに感じた圧倒的な威圧感。全大陸最強の一角を成す者たちが王国にも存在しているという事実に、改めて緊張を覚える。そして、十三人の正規勇者と大勢の準勇者――その戦力は、圧倒的と言っても過言ではない。今、愁が村にいる戦力だけで対抗するのは無謀だと、彼は直感的に悟った。


「そうなると、かなりの戦力ですよね?もし全面戦争に発展すれば、帝国にとっても厳しい状況ではないでしょうか?」


「そうだ。我が帝国にも秘策はあるが、今の時点での全面戦争となれば、確かに分が悪い。しかし、私が心配しているのは君の方だ」


「え?自分、ですか?」


 突然の指摘に愁は驚き、思わず声を上げた。


「そうだ。君がいる大森林は、アイラスグリフ王国が領有権を主張している地域だ。今までは、森の管理者のおかげで何百年もの間、不可侵とされていた。しかし、王国の戦力が整えば、その状況がどう変わるかはわからない。実際、最近は森に干渉している節がある。このまま状況が悪化し、王国が侵攻を始めれば、亜人たちや害の少ない魔獣たちは行き場を失い、最悪、すべてが駆逐されるだろう」


 広大な大森林――愁自身もその全貌を完全に把握しているわけではない。スフィアなら、ある程度広範囲で森の動向を把握しているが、それでも細かい部分は彼女ですら即座にわかるわけではないと言っていた。森の東側、アイラスグリフ王国寄りの地域は愁もよく知っているが、他の方向、特にシィータビスク連合国やラリアガルド帝国方面に関しては、全くと言っていいほど把握できていない。


 三大国にまたがるこの大森林は、一つの国にも匹敵するほどの広さを誇る。もしアイラスグリフ王国が森への侵略を始めれば、シィータビスク連合国やラリアガルド帝国が黙っているはずがない。三大国間の戦争が勃発する可能性も高い。


「王国の動きは注視しているが、いざという時は、我が帝国に身を寄せてもいい。戦争になれば逃げ場は限られる。こちらとしても、君が力を貸してくれれば助かる……いや、これは少し不公平な頼みかな?」


 ノヴァン二世は、少し冗談めかして笑みを浮かべながらも、その視線は愁を真っ直ぐに捉えていた。裏の意味も透けて見える――有事の際は帝国のために手を貸してほしい、という遠回しな要請だ。


「いえ、そんなことは。自分も、そう簡単に負けるつもりはありませんが……最悪の場合、帝国に逃げ込むかもしれません」


 愁は、戦う覚悟を持ちながらも、心のどこかで退路を確保する必要性を感じていた。戦局がどのように展開するか、誰にも予測できない――その不確実さが、彼の胸中に微かな不安を生んでいたのだ。


「ははは!君は本当に正直だな」


 ノヴァン二世は愉快そうに笑った。


「いずれにせよ、私は君の味方だ。困った時は、お互いに助け合おうじゃないか」


 ノヴァン二世が差し出した手を、愁はしっかりと握り返し、深々と頭を下げた。


「はい!こちらこそ、よろしくお願いします」


 その場が和やかになった矢先、ノヴァン二世は急に真面目な表情になり、少し言いにくそうに口を開いた。


「おっと、これはあまり気にしなくても良い話なんだが……一応伝えておこう。魔族の住むデモリアス大陸にいた『破滅の竜王』が討伐されたという報告が入った」



「破滅の竜王……ですか?」


 愁は眉をひそめた。


「なんだか物騒な名前ですけど、それは一体どんな存在なのでしょうか?」


「世界に八体存在すると言われる竜王の一体で、その中でも上位に位置する存在だ。今回討たれたのはデモリアス大陸とエルセリア大陸の間にある孤島で、全統五覇の序列一位である魔帝――『虹の焔帝』と呼ばれる者が討伐したらしい。これで、残りの竜王は五体となった」


「竜王……そんなものに遭遇したらどうしようもありませんね」


 愁は深くため息をつき、頭の中でその恐ろしい存在を思い描いた。以前、彼自身も竜王と対峙したことがあるため、その凄まじい力は嫌でも思い出されたのだ。アンデッド化していたとはいえ、厄介極まりない相手だったのは記憶に新しい。


「竜王も規格外だが、恐らく魔帝の方がさらに規格外だろう。三大国のどれかひとつを、一人で滅ぼせると言われているほどだからな。あくまで噂だが、君もあまり安易に近づかない方がいい」


 ノヴァン二世は深くうなずきながら言った。


「一人で国を滅ぼす……ですか?それは驚異的ですね。是非一度会ってみたいです」


「君は、本当に怖いもの知らずだな……」


 ノヴァン二世は呆れたように苦笑した。まるで一般の有名人にでも会いたがるような口調で、愁が興味を示したのが滑稽だったのだ。


「いえ、そんなことはないと思いますが……」


 愁は少し戸惑いながら控えめに反論した。変な印象を持たれるのは避けたかったのだ。


「いや、魔帝はどの種族にも属さず、敵対しないことで有名だから、君が会ったとしても危険は少ないはずだ。ただ、その素性はほとんど知られていないから、安易に接触するのは賢明ではない」


 ノヴァン二世はやや真剣な口調で続けた。


「炎の力を操るらしいが、それ以外の情報は不確かなものばかりだ……ん?」


 突然、扉が静かにノックされ、話が中断された。ノヴァン二世が許可を出すと、部屋の扉がゆっくりと開かれ、ユーリアが上品に現れた。


「皇帝陛下、本日はそろそろお時間でございます。次の予定は……」


 ユーリアはいつものように丁寧に予定を告げようとするが、ノヴァン二世は眉を寄せて、少し困ったように返事をする。


「分かっている、次は公爵家との謁見だな。すぐに向かう。ユーリア、先に行ってくれ」


「承知致しました」


 一礼し、ユーリアは静かに部屋を後にした。


 扉が閉まると、ノヴァン二世は再び愁に向き直り、軽くため息をついた。


「すまないね、今日はもう時間のようだ。各国の情勢についてはこちらで注視しておくから、また何かあれば手紙を出してくれ。次回も悪いが、またここまで来てくれないか?」


「もちろんです!本日はお忙しい中、ありがとうございました。こちらも何かあれば手紙を送ります」


「うむ。それでは、また会おう、愁君」


 ノヴァン二世は愁と力強く握手を交わし、部屋を去った。


 残された愁は、迎えに来た兵士と共に城を出る。門前へと到着した時点の時刻は午後を少し過ぎたばかり――思っていたよりも早く用事が済んだので時間が余っていた。


「さて、どうしたものか……」


 せっかく時間があるのだから、帰る前に街で買い出しをしておくのも悪くないと愁は考える。さらに、以前から計画していた帝国周辺の地図作成もという名のマッピング作業も進めたいと考え、愁は足早に街へと向かうことにしたのだった。

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