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クラフトマスター建国記  作者: ウィースキィ
第一部 第四章 新たなる世界 【第二次王国 編】

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第7話 創造の力


 翌朝、シャウラはいつものように早く目を覚ました。まだ空が白み始めたばかりの時間。隣に目を向けると、リルアが幸せそうに眠っている姿が目に入る。その寝顔に自然と微笑みがこぼれた。まさか自分がずっと避けていた人族と同じ部屋で、ましてや隣で眠る日が来るとは想像もしなかったからだ。


 そんなリルアを起こさないようにそっとベッドを抜け出し、顔を洗いに浴場へ向かう。廊下はまだ静寂に包まれ、人影もない。無理もない、今はまだ朝の四時過ぎ。普段ならば誰も起きていない時間帯だ。シャウラはその静けさの中を、ゆっくりと浴場へと足を進めた。


 浴場で顔を洗い終え、部屋へ戻る途中、薄暗い廊下の先にある部屋から、微かに黄金色の光が漏れているのが目に留まる。扉は少しだけ開いており、その隙間から差し込む光は、まるで神聖な輝きのように美しい。


「何だ……?」


 その黄金色の光を見た瞬間、シャウラはふと幼い頃、母親が語ってくれた物語を思い出した。それは、世界が生まれた日のお話だった──


 ここには、何もない広い広い場所がありました。右も左も、上も下も、何一つない静かな場所に、ぽつんと小さな光が生まれました。その光は、黄金色に輝く小さな点。そして、ある日、その光は「何かしてみよう!」と思い立ちます。


 「このままじゃつまらない!」と、まずは自分の体を作ることにしました。物を掴むための手、どこまでも走れるようにする足を作ったのです。そして「せっかくだから、この足で歩いてみよう!」と、光は地面を作りました。平らで長い道を作ったり、急な崖や大きな山を生み出して、どこまでもどこまでも冒険を続けたのです。


 「うん!でも、まだまだやりたいことがある!」そう思った光は、今度は空を作りたくなりました。広くて青い、どこまでも続く大空を生み出し、「この空なら、どこまでも飛んでいける!」と、自由に飛び回ります。


 でも、まだ満足しない光は「泳ぐことも楽しそうだなぁ」と考えます。そして、今度は美しく透き通る海を作りました。海は広くて、光はその中をスイスイ泳ぎました。どこまでも、どこまでも自由に遊んだのです。


 こうして、地面や空や海で思う存分遊んだ光でしたが、ある日気づきました。「ひとりじゃちょっと寂しいな……」と。もっと楽しく遊ぶためには、一緒に喜んでくれる友達が必要だと考えたのです。


 そこで、小さな光は「よし!友達を作ろう!」と決め、自分と似た姿をした友達を作り出しました。そして、その友達と一緒に遊んでみると、やっぱり一人よりも二人で遊んだほうが楽しいことに気が付きました。


 「もっともっと友達がいたら、もっと楽しいに違いない!」と思った小さな光は、自分の力を天と地と海に分け与えました。そして、天には空を飛ぶ友達を、地には歩き回る友達を、海には泳ぐ友達をたくさん作るようにお願いしたのです。


 こうして、世界は様々な生き物たちで溢れ、みんなが楽しく遊び、平和に過ごす温かい場所へと変わっていきました。小さな光は、毎日少しずつ変わっていく世界を眺めては「楽しいなぁ!」と嬉しそうに笑い続けました──


「懐かしいな……」


 シャウラは、かつて母親が話してくれたこの物語が大好きだった。特に、黄金色の光が世界や生命を創造していく姿に憧れていた自分を思い出す。そして、今目の前に広がるこの光景が、あの物語の光とあまりにも似ていたのだ。


 好奇心に駆られたシャウラは、扉の隙間から中を覗き込む。中には黒髪の少年──愁が背を向け、椅子に座って何かをしている。手元からは、まさにその黄金の光が溢れ出ているのが見えた。


(あいつの手から、あの光が……?)


 目を凝らして見ていると、何も置かれていなかった机の上に、次々と服が現れている。最初はそこに隠れていたのだろうと考えたが、そうではなかった。無から服が次々と生み出されているのだ。


(無から服を……?そんなことができるなんて、まるで……)


「エルンストさん?どうかしましたか?」


 突然かけられた声に、シャウラは驚いてしまい、思わず間抜けな声を出してしまった。「はいっ!」と慌てて返事をする。そのまま逃げるわけにもいかず、シャウラは意を決して扉を押し開け、部屋の中へと足を踏み入れた。


「あ、あぅ……す、すまん! 覗いてしまって……」


 シャウラは、作業中を覗き見てしまったことに申し訳なさを感じ、すぐに頭を下げて謝った。自分も職人として、作業を覗かれたら不快に思うだろうという考えが過ったからだ。それに、普段あまり人と接しないシャウラにとって、この突然の状況は動揺を誘った。


「え?いえいえ、全然気にしないでください。大丈夫ですよ」


 意外にも気にしていない様子の愁の言葉に、シャウラはほっと胸を撫で下ろし、顔を上げた。


「そ、そうか……」


「はい。それより、エルンストさん、随分と早起きなんですね?」


「あ、ああ……普段から早起きしてるんだ。お前も早いんだな?」


「ええ、昨日は疲れて寝てしまったので、今は作っていた服を仕上げていました」


 愁はそう言うと、出来上がった服を手に取り、シャウラに広げて見せた。それは昨日までシャウラが着ていた服と同じデザインで、耐久性を重視した作業用の衣装だ。短めのパンツに、お腹と胸を覆う袖のない上着、そして厚手の皮手袋とブーツ──それはまさに、シャウラのために作られたものだった。


「こ、これを作ったのか?あんなにボロボロだったのに、一体どうやって?」


 驚きと感動が入り混じった表情を浮かべながら、シャウラは愁に尋ねた。目の前の服は、まるで魔法のように完璧に蘇っていたのだ。


「クラフトしたんですよ。預かった服を解析して、同じものを複製したんです」


「く、くらふと?それは一体何だ?」


「あー、えっと……少し見ててください」


 愁はそう言うと、両手をシャウラに見せるように前にかざす。かざされた手には、最初は何もない。しかし、数秒もしないうちに黄金色の光が静かに溢れだし、その光が収まった瞬間、愁の手には一振りの剣が握られていた。目の前で起こったこの不思議な光景に、シャウラの目は見開かれ、驚きが隠せない。


「その剣……見てもいいか?」


「はい、どうぞ」


 愁から剣を手渡されると、シャウラはじっくりと剣の全体を眺めた。その眼差しは職人としての鋭さを放ち、一寸の狂いもないように見つめる。剣の質感や細かな造り、重量感を確かめたシャウラは、感心したように軽く頷いた。


「とても綺麗な造りだな……切れ味も良さそうだ。見たところ、鉄に何かあたしの知らないものが混じってるようだが、これは何だ?」


「凄いですね、エルンストさん。見ただけで分かるなんて。それは壊輝石といって、鉄に混ぜ込むことで強度が増す鉱石です」


「壊輝石……そんな鉱石が存在するのか……」


 シャウラは剣を机にそっと置き、腕を組んで考え込んだ。その目は何かを思案しているかのように真剣だ。ぶつぶつと鍛冶の専門用語を口にしては、自分なりの解釈をまとめている様子だった。だが、彼女の思考はすぐに別のことに向いた。


「いや、それよりも……その力は一体何なんだ?無から剣や服を作り出すなんて、まるで創造主様の力みたいだ」


「確かに創造を司る力と言えますが、完全に無から作り出しているわけじゃないんですよ。素材を消費して作っているんです。無からはさすがに作れません」


「そうか、それでも凄いことに変わりないな……いや、待てよ……空も飛べるし、本当にあんたはただの人族なのか?それにしても、その割には義足は作れないみたいだな?何故なんだ?」


 シャウラは愁に視線を向け、立て続けに疑問をぶつけた。愁は少し困った顔をしながら、苦笑して答える。


「はい。普通の義足なら作れるんですけど、魔力を流して自分の足のように動かせる義足は、どうしても作り方がわからなくて……」


 愁も何も試みなかったわけではない。何度も義足を作ってみたが、魔力は流れど、それを自在に操ることができるものにはならなかった。その技術はまだ愁には難解すぎるのだ。


「そうか……まあ、義足はあたしが作ってやるよ。心配するな」


「え?作ってくれるんですか?」


 愁の目が輝き、彼女の目を見つめる。その驚きと感謝の入り混じった表情に、シャウラは少し照れくさそうに目をそらした。


「ま、まあな。昨日は助けてもらったし、服も直してもらったから、そのお礼だよ……あ、ありがとな」


 シャウラは少し顔を背けつつ、控えめに愁へお礼を述べた。その姿は普段の彼女らしくない。硬い印象だった彼女が、どこかもじもじしている。まるで、心を開いていく様子が伝わるようだった。


「いえいえ、こちらこそ助かります!材料とか必要なものがあれば言ってくださいね。すぐに用意しますから」


「ああ、分かった。それと……ひとつお願いがあるんだが」


 シャウラは、ここで言葉を切った。彼女は少しだけ躊躇いを見せている。これから話すことは、彼女にとって少し言いにくいことだからだ。


「その……な。義足が完成するまで、ここに滞在してもいいか?多分、一週間くらいで仕上がると思うんだが……」


 愁は一瞬だけ身構えたが、特に問題はなかったので、すぐに笑顔で返事をした。


「もちろんです!リルアも喜びますし、俺もエルンストさんの技術を見てみたいです」


「そ、そうか?それは助かるよ……それと、シャウラでいい。エルンストは誇りある姓だが、あたしは母がつけてくれた『シャウラ』という名の方が好きだからな」


 シャウラは腰に手を当てて、胸を張って堂々と言い切った。言い終えた後に、どこか照れ隠しのような仕草で視線を泳がせる。だが、愁の視線はシャウラが照れ隠しに張った胸元に吸い寄せられていた。なぜなら、昨日よりも大きく、そしてその綺麗な形がくっきりとパジャマ越しに浮き出ているからだ。


 シャウラは昨晩、入浴する際に、普段であれば作業の邪魔になる大きな胸を抑えるために巻いている布を取っていた。なので、愁が今まで接していた時のシャウラとは胸の大きさが異なる。しかし、凝視するのは失礼なので、バレる前に自然に愁は視線を流す。


「わかりました、シャウラさん。それでは、俺のことも愁と呼んでください」


「了解した。それじゃあ愁、リルアが起きたら採寸をするから、その時に声をかけるよ。またな」


「はい!また後で!」


 シャウラは手を振りながら部屋を出て行った。彼女が部屋を出た後も、愁はしばらく扉の方を見つめていた。彼女の去り際の姿が、昨日とは違って柔らかい印象を残す。


「シャウラさんは……今の璃理といい勝負だな……」


 ふと口に出した愁は、自分の思考に気づいて慌てて首を振った。煩悩に苛まれる自分を戒めようとしたが、どうにもその衝動は簡単に消えそうにない。


(あの身長とあの顔で実は隠れ巨乳……しかも褐色肌、属性てんこ盛りか……?)


 椅子に座り直し、愁は思わず頭を抱えた。


「うーん……着せ替えたいな……」


 ついに欲望に忠実になってしまった愁は、シャウラの滞在中に、彼女に似合う服を作り、着てもらうことを密かに企んでいた。彼の想像はどこまでも膨らみ続け、ついにはリリーニャと並んで魔法少女のような衣装を着ているところまで思い描き始める。


「やっぱり、魔法少女か……リリーニャと並んだら、かなり良い感じになるかもなぁ。捗る……捗るぞ……」


 愁の心の中には、明らかに新たな計画が芽生えていた。それは、シャウラとリリーニャの二人に、自分が作った特別な衣装を着せるという、愁にとって至高の願望だった。


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