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クラフトマスター建国記  作者: ウィースキィ
第一部 第四章 新たなる世界 【第二次王国 編】

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第5.5話 軋む音


 国王との謁見を終え、アルバートが自宅のある教会裏へ向かおうと城の門を出たその瞬間、彼はよく知る力の反応を敏感に感じ取った。どうやら、相手も同じようにこちらの存在を感じ取ったらしい。足音が早くなり、急いでこちらに向かってきているのがわかる。


「アルバートさんっ!お疲れ様です!お話、終わったんですか?」


 小走りで駆け寄ってきたのは、アルバートと同じく正規勇者であるクミラだった。白い軍服でもある女性用の勇者の制服に、黒い魔術師のローブを羽織った青髪の少女、クミラの明るい笑顔が、いつものように輝いている。


「お疲れ様。たった今終わったところだ。クミラはこれからか?」


「はい、今からお話を聞きに行くところです!」


「そうか。私のときは一人だったが、クミラが行くときは少し人数が多いようだな」


「え?それってどういう……?」


 アルバートの視線の先、クミラの背後に二人の男がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。二人とも、アルバートと同じ男性用の白い勇者の制服を着ているが、見た目は対照的だ。


 クミラもアルバートの視線を追って振り向き、その二人の姿を確認すると、少しだけ表情が曇った。


「あ、ハルアさんとニスレアさんだ……」


 正確には、そのうちの一人を見てだ。向かってくる二人は、どちらも正規勇者。きちんと制服を着こなしているのは、第一位勇者ハルア・アルニトス。赤みがかった茶髪の優男で、容姿端麗。落ち着いた雰囲気を持つ彼は、アルバートの一つ上で十八歳。聖気法力を巧みに操る〈聖気法術〉の使い手で、さらに彼はアイラフグリス王国最強であり、『全統五覇』の序列五位、神託の勇騎士ハーバス・アルニトスの弟でもある。


 そのハルアの隣を歩いているのが、制服を着崩している第三階位勇者ニスレア・エデルストン。容姿は良いが、金色に赤いメッシュを入れた奇妙な色の髪を、わざとぼさぼさにしている。さらに貴族らしからぬ乱れた服装や粗野な言葉遣いにもかかわらず、彼はれっきとしたエデルストン公爵家の嫡男だ。十八歳という年齢もハルアと同じだが、ニスレアの戦術や能力は謎めいており、ほとんどの勇者が彼の実力を知らない。だが、問題児としての評判は高い。特に酒癖や女癖が悪く、気に入った女を力で奪うという噂も絶えない。


 クミラがアルバートの少し後ろに下がったのは、このニスレアの悪い噂が原因なのだ。


「よぉ、アルバートじゃねぇか!久しぶりだなぁ、おい!」


 相変わらず貴族らしからぬ粗野な言葉で話しかけてきたニスレアに、アルバートは軽く会釈した。


「ああ、久しぶりだな。ニスレア」


 その言葉に続いて、ニスレアはアルバートの後ろに隠れているクミラに目を向けた。だが、彼女に向けられる声のトーンはアルバートに対してとは微妙に違っており、妙に甘ったるい口調だ。


「クミラも久しぶりだなぁ?つーか、いつになったら俺の誘いを受けてくれるんだよ?この前、飯行こうって言っただろ?」


「あ、あはは。こんにちは、ニスレアさん……すみません、魔法の研究が忙しくて……」


 クミラは弱々しく笑いながら言い訳をしたが、ニスレアは聞く耳を持たない様子だ。


「魔法の研究だぁ?お前、真面目すぎるんだよ。たまには遊べよなぁ!どうだ?この後、俺の家に来ないか?飯食うだけだからさ、そんなに怯えるなよな!」


 聖気法力の限定解除によって一瞬で距離を詰めたニスレアは、クミラの目の前に移動し、肩を抱き寄せた。あまりの速さに、クミラは反応することすらできなかった。


「あ、あの……今日も私、忙しくて……」


「はぁ!? たまには息抜きしろってんだよ。なぁ、いいだろ?」


 クミラは恐る恐る顔を背けるが、ニスレアは遠慮なく顔を近づけ、さらに強く誘いをかける。


 勇者は国王直属の騎士であり、その中でも階位が高い者ほど権限が強い。クミラは第五階位の勇者で、ニスレアは彼女よりも階位が高い。そのため、彼女はニスレアに逆らうことが難しい。さらに、アルバートやクミラは平民出身であるのに対し、ニスレアは貴族という立場も影響している。


「なぁ?別に変なことはしねぇって、なあ、いいだろ?」


 ニスレアのしつこい誘いにクミラは困惑し、逃げ場を失いかけていた。その様子を見かねたアルバートは、そっと彼女の手を掴み、ニスレアの腕から無理やり引き離した。クミラを自分の方に引き寄せ、彼女の肩に手を回す。


「あぁ?なんだよ、アルバート?邪魔すんなよ」


「悪いな、ニスレア。今日は私がクミラと約束をしているんだ」


 急なアルバートの言葉に、クミラは戸惑いながらも無言で何度も頷いた。それを見たニスレアの表情は、瞬く間に険しく変わり、苛立ちを隠すことなくアルバートを睨みつける。


「なんだよ、お前らそういう関係なのか?てか、アルバート、お前はいつも冷静な顔してんな。そういうところが気に入らねぇ。ムカつくんだよ!」


 ニスレアは激昂し、再び聖気法力を限定解除して、自慢の速度を活かし、拳をアルバートに向けて放った。達人の剣速をも凌ぐその一撃。だが、アルバートは一切の躊躇なく、左手でそれを軽々と受け止める。


 拳の衝撃で風が巻き起こり、アルバートの髪が揺れた。受け止められたニスレアは、苛立ちを露わに舌打ちし、悪態をつく。


「ちっ、つまんねぇ。あーあ!萎えちまったよ。行こうぜ、ハルア!」


 ニスレアは乱暴に吐き捨てるように言うと、軽く肩をすくめてハルアに向かって歩き出す。


「……ああ。アルバート、クミラ、またな」


 ハルアは冷静に二人へ挨拶を交わし、ニスレアの後に続いて歩き去った。


 その場に残ったアルバートは、クミラに向かって問いかける。


「クミラ、大丈夫か?」


 アルバートは優しく彼女の肩から手を離し、心配そうに声をかける。


「あ、はい……その、ありがとうございます。それと……さっきの話、今夜、本当にお邪魔したらダメですか?」


「今夜か?別に構わないが……」


「本当ですか!?じゃあ、お話が終わったら、お家に伺いますね!」


「……ああ、わかった。気を付けて来るんだぞ」


「はい!それでは、行ってきます!」


 クミラは城へ向かう途中で一度振り返り、アルバートに元気よく手を振ってから、軽快な足取りで中へ入っていった。先ほどまでの元気のない姿はどこに行ったのか。


「なんだか、元気だな……」


 彼女の無邪気な様子に、アルバートは軽く微笑みつつ呟くと、再び足を動かし、自宅のある教会裏へと向かった。


 しばらく歩き、自宅に到着したアルバートは、玄関の前で立ち止まる。これからユアに新たな任務のことを伝えなければならないが、それが気が重い。先日のケンカもあり、今回正式に下された『捕縛もしくは討伐』という命令を、どう伝えるべきか悩んでいた。


 立ち止まっていると、玄関の扉がひとりでに開いた。そこに立っていたのはユアだ。


「お師匠さま?お帰りなさい!どうしたんですか、そんなところで立ち止まって?」


「あ、ああ。ただいま、ユア」


 アルバートの気配を感じ取っていたのか、いつものように扉を開けて迎えてくれたユアだが、入ってこない彼を不思議そうに見つめている。


「……?何かあったんですか?」


 ユアは首をかしげ、心配そうにアルバートの表情を覗き込む。


「いや、ちょっとな。新しい任務が言い渡されたんだ」


「任務ですか?」


「ああ。例の黒髪の少年、ユアを助けてくれた八乙女 愁の居場所が特定されたらしい。陛下からは、三日後に捕縛もしくは討伐するよう、全勇者に命令が下された」


「全勇者……?まさか、十三人全員ですか?」


「ああ。それに加えて、準勇者たちも動員されることになるだろう。これは他国との戦争並みの戦力だ」


「そんな……」


 ユアの顔が青ざめ、視線を下げて両拳を強く握り締めた。彼女の中で、愁への感謝と任務内容への不安、そして命令には従わなければならないという葛藤が交錯し、どうしようもない怒りが彼女を包んでいく。


 アルバートはユアの気持ちを理解していた。自分もまた、愁には恩を感じている。しかし、これは国王であるセルシオからの命令だ。王国の勇者である以上は、命令に逆らうことはできない。


「ユア、聞いてくれ」


 アルバートはユアの握り締めた手を優しく取って、包み込むように握った。


「私が一番最初に八乙女 愁を見つける。そして捕縛する。他の勇者なら、躊躇なく討伐しようとするだろうが、私は彼を救いたい。だから、最善を尽くす。……それでは駄目か?」


「お師匠さま……」


 ユアの目には涙が滲み、握り締めた拳がゆっくりと緩んだ。彼女は次の瞬間、アルバートの胸に飛び込んだ。


「私はお師匠さまを信じます!どうか、愁さんを、そして愁さんの仲間たちを助けてください!」


「ああ。任せろ」


「……ありがとうございます!」


 ユアの頭を優しく撫でると、彼女は満足げに微笑んだ。その笑顔を見て、アルバートは心の奥で静かに決意を固めた。ユアの笑顔をいつまでも守れるよう、そして穏やかな日常が続くよう、彼はさらに強くなりたいと願った。


「お師匠さま、そろそろ中に入りましょうか」


「ああ、そうだな。ああ、それと今夜はクミラが来ると言っていた。もう少しすれば到着するだろうから、食事はその時にしようか」


「クミラさんが!?やった!じゃあ、クミラさんが来たら一緒に夜ご飯作りましょうね!」


「そうか、それは楽しみだな」


 ゆっくりと扉が閉まると、アルバートは温かい日常へと戻っていく。しかし、その裏では、歯車が狂い始めていた。ユアやクミラという心温まる存在に支えられていた彼の運命の歯車が、再び軋み始めたのだ。だが、その不気味な音に、誰一人として気付く者はいなかった。

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