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クラフトマスター建国記  作者: ウィースキィ
第一部 第三章 新たなる世界 【エルセリア大陸 編】

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第11話 掴んだ光のその先に


 突如、眼前の光景が不穏に歪み始めたかと思うと、周囲の空気までが変質し、瞬く間に『別世界』が広がった。見慣れた大地の面影は一切なく、ただ無限に続く広大な砂漠が、目の前に広がっている。


(これは……オベロさんの能力か?)


 異空間を生み出す能力。それはまるで、『WORLD CREATOR』におけるユニークスキル〈固有結界〉に似ている。空間そのものを変容させ、望む環境を作り出す、まさに規格外の技。オベロルストがこれを易々と行っていることには驚かされたが、今はその力に甘えさせてもらうほかない。


 これで邪魔は入らないし、配慮していたエルフたちを危険に晒すこともない。この広大な砂漠が、愁にとっては『暴れ放題の戦場』となったのだ。


「まずは、何が効くのか調べないとな」


 愁は低く呟くと、一気に統一大精霊へと駆け出した。相手の特性は未知数、どの攻撃が通用するかもわからない。愁は距離を詰めながら左手に雷撃の槍〈魔槍ボルガ〉、右手に炎撃の槍〈火尖槍(かせんそう)〉をクラフトする。どちらも高威力の武器であり、さらにクラフトする際に使用回数を一回に絞ることで、その破壊力を極限まで高めた特別製だ。


 駆けることで加速をつけた愁は、〈魔槍ボルガ〉を先に全力で投擲する。放たれた〈魔槍ボルガ〉は稲妻のような輝きを纏い、空を裂いて音速を超えた一筋の閃光となり、統一大精霊を貫くべく真っ直ぐに飛ぶ。


 砂漠に轟く衝撃音と共に、〈魔槍ボルガ〉が大地を震わせる。その直後、燃え上がる〈火尖槍(かせんそう)〉が続けて飛び、宙を切り裂きながら統一大精霊へと迫る。〈火尖槍(かせんそう)〉は灼熱の炎を纏い、砂煙で姿が見えなくなっても、自動追尾能力によって的確に標的を捉え続けた。そしてついに直撃し、統一大精霊を大きな火柱が包み込む。


「どうだ?」


 愁は息を整え、火柱が収まるのを待ちながら、視線を凝らす。やがて砂煙が晴れると、そこに現れたのは、無傷の統一大精霊だった。結界か、見えない障壁か、攻撃はまるで届いていない。


(……厄介だな)


 攻撃が無効化されたのを目の当たりにし、愁が次の手を考えたその時、統一大精霊が動き出した。鋭い敵意を込め、左手を前に突き出し、右手を引く。その瞬間、何も持っていなかった左手に弓が現れ、右手には緑色の閃光を纏った矢が形成される。そして、それは猛烈な勢いで愁に向けて放たれた。


「……っ!」


 愁は即座に反応し、設置型の〈守護者の聖域〉を込めた魔石を五つ素早く作り上げると、矢の進行方向に向けて空中に投げ込み、一気に展開させた。矢はまっすぐに一つ目の〈守護者の聖域〉へ突き進み、結界を容易く粉砕する。続けて二つ目、三つ目──次々に〈守護者の聖域〉が破壊され、五つ目を突破した矢が、ついに愁の元へ届く。


 最後の防御である『特別製』の〈守護者の聖域〉もじりじりと侵食され、矢が迫る。そんな中、愁は腰にある宵闇に手を添え、集中する。この矢を狙い、あえて矢の威力が減衰した『今』こそ、切り落とす一撃を放つ時だ。


 一瞬の静寂が、時の流れを鈍くした。


 そして、守護者の聖域を突破して放たれた矢を見据え、愁は宵闇を抜刀する。その刃は矢を正確に捉え、斬り捨てた。矢の光の破片が散乱し、幾つかが愁の体をかすめ傷つけたが、統一大精霊の攻撃を食い止めることに成功した。


「防御も攻撃も規格外……本当に厄介な相手だ」


 しかし、統一大精霊もまた不満げに地を踏み、まるで人間のように苛立ちを露わにする。その姿はどこか、異様な恐怖を感じさせるものだった。


「なんだ?悔しがってるのか?ずいぶん人間じみた仕草じゃないか……って、嘘だろ!」


 統一大精霊がふと動きを止め、右手を前に差し出すと、無数の円形の魔法陣が背後に浮かび上がる。その数、百を超えるほど。そして、魔法陣の中心に浮かぶのは、先ほどの緑色の閃光を放つ矢。


 それらが一斉に愁へと向けられ、放たれた。


「おいっ!それは、ないだろっ!」


 無数の矢が光の洪水となり、愁を呑み込まんとする。空を覆い尽くすように矢が雨のごとく降り注ぎ、その光景は『絶望の奔流』そのものだ。


 愁は一瞬の隙を突き、次々と矢をかわしていく。しかし、矢の数が多すぎる。全てを避けきることは困難だ。幾度か体を掠める矢が生み出す、切り裂くような風圧と痛みを感じながらも、かろうじて致命傷は避けている。だが、地面に刺さった矢が周囲を抉り、巨大なクレーターを生み出した光景を目の当たりにし、愁は思わず息を呑む。


「さっきのよりは威力が落ちているな」


 愁はその場で冷静に分析する。最初に放たれた一本の矢は、守護者の聖域を六つも貫通する威力だった。しかし、今飛び交う無数の矢は地面に触れても、当初のような威力を見せない。どうやら数を増やしたことで威力が分散したらしい。これが『好機』だと愁は判断する。


(攻撃全てを避けきるのは無理だ。ならば、賭けに出るしかない)


 愁は矢の群れの中で、特に危険と感じる一本を見極め、後方へと跳び避ける。眼前に迫る矢の群れから視界を切り離し、一息に飛び去る。瞬時に意識を集中させ、宵闇を構えると、愁の口から言葉が紡がれる。


「捉えろっ。宵闇!スキル解放!〈碧落の彼方(へきらくのかなた)〉」


 陽炎のように揺らめく刀身が無数の矢を捉え、不可視の刃が駆け抜けた。雨のごとく降り注ぐ矢と、それを放つ魔方陣が瞬時に両断されていく。無限のように思われた攻撃の嵐が消え去り、静寂が戻った。


(読みが当たったか……!)


 愁は内心ほっとしながらも、次の好機に備えて統一大精霊を見据えた。そして、一瞬の揺らぎが彼の視線に映り込む。結界が崩れたわけではないが、微かにひびが入ったような揺らぎがある。


「力の使いすぎか?」


 愁の脳裏に、統一大精霊が限界に近い状態であることがよぎる。高威力の矢の一撃、そして大量の矢の連射。これらの能力行使で力を消耗し、自身の存在を保ち続けることができなくなりつつあるのだろう。今の統一大精霊はオベロルストの固有世界に囚われている。即ち自身の力の源である魂を鎖で繋いでいるエルフ達から吸収することが出来ないはずだ。


 愁は『今しかない』と判断し、秘策を講じることに決めた。


 彼はクラフト系の最上位職『クラフトマスター』の持つ二つの力を活用できる。まず一つ目は『創造の力』。武器やポーション、建物など、あらゆる物を生み出す力だ。これに対になるのが『破壊の力』であり、まるで対のように与えられた力である。破壊の力を得るためには特別な条件を満たす必要があり、習得にはおよそ一年を要したが、今の状況ではそれだけの価値がある。


 この破壊の力には独特の制約があり、それはクラフトによる創造物を除くと、物理属性には効果がなく、魔法などの非物理的なものにしか適用されない。また、使用できるのは一日一回まで。だが、魔法で作られたものならほぼ全てを破壊できる強力な力でもある。


 愁は一度、この破壊の力を統一大精霊の障壁に試そうと考えたが、宵闇での一撃をも耐える障壁にはリスクが高すぎた。また、激しい攻撃が続いている間は、近づくこと自体が危険だったため諦めざるを得なかった。


 しかし、今は攻撃が止み、障壁が揺らいでいる状態だ。この隙に破壊の力を使うことは、愁にとって賭ける価値がある決断だった。


 愁は恐れを振り払うように一気に前に踏み出し、統一大精霊が次の攻撃に移る前に距離を詰めた。連続で縮地を駆使し、一瞬で統一大精霊の目の前にまで迫ると、愁はその障壁に手を置く。


 障壁に触れると、愁の解析の力が自動的に働き出し、複雑な構造とその仕組みを少しずつ読み取っていく。障壁の性質を解析するうちに、愁はそれが魔法というより、クラフトの力で生み出されたものに近いことに気づく。この発見により、愁は破壊の力がさらに有効であると確信できた。


 愁は障壁の基本構成を確認し、障壁を成立させている根本部分、核を探し出すための情報を集め始める。そして、絡み合う構成の糸を一つひとつ丁寧にほどき、時には切断しながら、障壁を障壁たらしめている核の位置を突き止めていった。


「ここか……」


 物の構造や仕組みを理解することに長けた愁の技量が、複雑で強固なこの障壁の解体を可能にしていた。破壊の力を注ぎ込んだ一点が起点となり、障壁は表面から波打つように揺れ始める。ついに、核が破壊されるとともに、障壁全体が崩れ落ち、統一大精霊を包んでいた守りが消え去った。


「通った!」


 その瞬間、強烈な魔力の波動と敵意が愁に直接襲いかかる。


(これで勝負が決まる)


 愁は冷静に呼吸を整え、次なる一手を見据える。目の前には、守りを失い、生身をさらけ出した統一大精霊が立ち尽くしていた。全てを遮るものがなくなった今、荒々しく溢れ出すその圧倒的な力は、愁にとって『直に身を焼く灼熱』そのものだった。まるで全身が押し潰され、魂が掻き消されそうな痛烈な感覚に襲われる。


「くっ!なんて力だ……」


 唸りを上げるような力の奔流に飲み込まれそうになりながらも、愁は必死に前へと歩みを進める。近づけば近づくほど、その力は一層濃く、重く、凶暴に彼を押し返してきた。統一大精霊までの距離は、たった数メートルにもかかわらず、その一歩が無限に遠く、耐えがたい重圧を強いられる。しかし、ここで引き返すわけにはいかなかった。愁の胸にあるのはメラリカへの『贖罪』と『罪悪感』、それが彼の心を突き動かし、崩れそうな身体を支えていた。


「待っててくださいね。今、仇を……」


 激しく荒れ狂う力の渦の中で、愁は感覚を研ぎ澄ませ、常に展開している気配探知に意識を集中させる。僅かで小さな、しかし決して見過ごせない微かな反応──その反応を感じ取った瞬間、愁の心に一筋の光が射し込む。たとえ微かでも、その気配には覚えがあった。決して間違えることはない、間違えてなるものか。彼がかつて失った、そして二度と取り戻せないと諦めていた『小さな希望』が、まさにそこにあったのだから。


 暗闇の中に光が差し込む感覚。愁の心に新たな希望が宿った瞬間だった。


「メラリカさん……?」

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