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クラフトマスター建国記〜転生により不治の病を克服した少年は異世界で『至高の国』を再建する〜  作者: ウィースキィ
第一部 第二章 新たなる世界 【第一次帝国編】

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第8-1話 ガバレント奪還作戦 前編①


 約一ヶ月に及ぶ訓練が幕を閉じた。遂に決戦の火蓋が切られる。


 今日──ラリアガルド帝国軍は、宿敵、陸傑死団が支配するガバレントの奪還作戦を開始する。


 この戦いの指揮を執るのは、帝国の英雄にして『無敗のガラドル』の異名を持つ帝国軍元帥ガラドル。


 さらに、皇帝と彼を除けば帝国最強と名高い三大将までもが召集された。これはもはや一国を相手取るに等しい戦力であり、帝国の総力を挙げた作戦であることを物語っている。


 陸傑死団は帝国軍と幾度となく戦を交えてきたが、未だにその根絶には至っていない。


 総帥ブレストを筆頭に、六人の死団長が鉄壁のごとく立ちはだかるからだ。


 しかし今、帝国軍にとって最大の好機が訪れている。総帥ブレストの行方は依然として不明。ならば、彼の不在のうちに陸傑死団の力を大幅に削ぎ取るしかない。ゆえに、この作戦には失敗の二文字が許されなかった。


 そして、ラリアガルド帝国軍が集まる場所から少し離れたガバレント近郊の森。その木々に身を潜める三人の影があった。


「……すごい数ですね、ライトさん」


 愁は静かに目を閉じ、〈気配探知〉を発動する。瞬く間に、膨大な気配が彼の意識に流れ込んできた。町の周囲には、約三万の帝国兵が布陣している。その圧倒的な数の前に、思わず息をのむ。


「そうですね。帝国軍の精鋭たちが勢揃いしていますからね。これほどの規模の作戦は、そうそうありません」


 ライトの声音は落ち着いているが、その奥に緊張が滲んでいた。


 愁は再び意識を研ぎ澄ませ、帝国軍の中で突出した四つの存在を探知する。その気配はおそらくガラドル元帥と三大将であると愁は判断する。


 その一方、町の中にも六つの異質な気配があった。


(これが陸傑死団の死団長たちか)


 さらに、ガバレントの町の内部を探知すると、陸傑死団の総兵力は約一万三千ほどであることが判明する。数の上では帝国軍が圧倒している。しかし、死団長たちは単なる数では測れない恐るべき存在であり、数だけの勝負にはならない。


「な、なんか緊張してきたよ……」


 いつも賑やかなリリーニャが、珍しく声を潜める。彼女の可愛らしい猫の尻尾が小刻みに震えているのがわかった。


「大丈夫だよ。落ち着いて、いつも通り動けばいいからね」


 愁は彼女を安心させるように微笑んだ。だが、彼自身も心の内では緊張を拭えずにいた。ここはゲームの世界ではない。これから始まるのは、生きるか死ぬかの戦場。多くの命が、失われる戦いが始まるのだ。


「愁さん!あれを!」


 急にライトが指を差す。その先に、異様な光景が広がっていた。


 ガバレントの上空に、巨大な魔法陣が浮かび上がっている。紫電の奔流が空を裂き、妖しい光が満ちる。その中心から現れたのは──二体のドラゴンだった。


 漆黒に腐敗した鱗を持ち、禍々しい紫のオーラを纏うそれらは、まさに悪夢の具現。体長はおよそ十メートル。眼窩には昏く燃える瘴気の灯火が揺らめいていた。


(……アンデッドドラゴン!?)


 二体のドラゴンはゆっくりと降下し、地を踏みしめる。その口からは、紫色のブレスが噴き出し、地面を焼くように広がっていく。帝国軍の魔術師たちが咄嗟に結界を張り、ブレスを防ぐが──


 突如、その防御陣形を破るように、一人の男が前に出た。


 銀色の重厚な鎧をまとい、二メートルを超える大剣を片手で軽々と携えた男──ガラドル元帥。


 彼はドラゴンへとまっすぐ駆け出し、地を蹴る。次の瞬間、鉄壁の城壁を飛び越えるかのごとく、十メートル以上もの跳躍を見せた。


「うおぉぉぉぉ!!」


 雄叫びと共に、振り下ろされる大剣。その刃はまるで雷光のごとく閃き、ドラゴンの頭頂を直撃する。


 轟音と衝撃波が戦場を駆け抜け、大剣の直撃を受けたドラゴンの頭蓋は一刀のもとに両断され、その巨躯が崩れ落ちた。


「ガラドル元帥閣下がドラゴンを討ち取ったぞー!!」


 血まみれの戦場に、兵士の歓声が響き渡る。その声に呼応するように、帝国軍の兵士たちが一斉に鬨の声を上げた。兵士たちの中央に立つのは、巨躯の男──ガラドル。彼は血濡れた大剣を天へと掲げ、まるで天空をも震わせるかのような咆哮を上げる。


「我らが皇帝陛下に楯突く卑しき賊どもに、帝国の正義の剣は決して折れはせん!開戦だ!!命を懸けて賊を討て!!」


 その雄叫びが戦場に轟いた瞬間、帝国軍の総攻撃が開始された。


 無数の剣閃と魔法が交錯し、戦場は一気に火蓋を切った。烈風のように駆け抜ける騎馬兵。炎をまとう魔術師の詠唱。大地を揺るがす爆裂の轟音──愁はその光景を前に、小さく息を飲む。


「あれが、無敗のガラドル……」


「皇帝陛下と共に帝国を築き上げた英雄ですからね」


 ライトの言葉に、愁は僅かに拳を握る。


 伝説の英雄たちが躍動するこの戦場で、自分は何を成すべきか。しかし、その答えを探す間もなく、戦火はすでに彼らの元へと迫りつつあった。


 ──そして、戦場は混乱の極みに達する。


 帝国軍と賊軍が激突する最中、突如として異様な気配が戦場を包み込んだ。腐臭が風に乗り、肌を刺すような悪寒が背筋を這い上がる。


 その瞬間、愁の〈気配探知〉に異常な数の反応が現れる。


(な、なんだ……!?)


 圧倒的な数の存在──その数、『約二万七千』。信じがたい数の敵意が戦場に広がる。そして、尋常ならざる数を誇る気配の正体はすぐに目の前に現れることとなる。


「まさか……アンデッドか?」


「うえー!何あれ、気持ち悪い」


 眼前に広がるのは、うごめく無数の屍。かつて人であった者たちの骸骨、腐り落ちた肉をまとったゾンビ。さらには、魔獣であったものまでが歪んだ姿でよみがえり、生者の魂を求めて唸りを上げていた。


 すぐに帝国軍が応戦するも、その数に押され、徐々に劣勢へと追いやられていく。


「すごいことになったな。でも、今ならガバレントの中に入れる。行こう」


 混乱の中、愁はライトとリリーニャをかばいながらガバレント内部への潜入に成功する。


 しかし、ガバレントの中に入ったはいいが、目的地である冒険者ギルドへ向かう途中で、大量のアンデッドに包囲されてしまった。


「ど、どうしよう……数が多すぎるよ」


「大丈夫、ここは任せて」


 愁は静かに目を閉じ、雑念を払い、神経を研ぎ澄ます。


 そして、次の瞬間──黄金の光が彼の体から溢れ出した。それは燦然たる輝きを放ち、彼の右手に顕現したのは、一振りの聖剣だった。


「アンデッド相手なら、聖剣ガラティンだ」


 陽光を浴び、神々しい輝きを纏う聖剣。その刃が、まるで神の意志を宿したかのように輝いていた。


 愁は聖剣を掲げて、スキル開放の言葉を紡ぐ。


「聖剣ガラティン、スキル開放──〈断罪の聖光(だんざいのせいこう)〉」!」


 愁の声が轟くと同時に、剣から放たれるのは、太陽の如き浄化の閃光──その瞬間、世界が光に包まれる。瞬きをする間もなく、広がった聖光は周囲のアンデッドを飲み込み、次々と浄化していく。骨も、肉も、呪われた魂すらも塵となって消え去った。


 やがて光が収まり、戦場には静寂が訪れた。


「あれだけのアンデッドを……一撃で……」


 ライトが息を呑み、絶句するが、リリーニャは呑気に「すごーい!」と興奮気味に手を叩いていた。


 愁はゆっくりと息を整え、光の消えた剣を見つめ、周囲の確認を行う。


 そして、一定距離内のアンデッドが殲滅できたことを確認すると、表情を緩めてライトとリリーニャに視線を向けた。


「行きましょうか」


 道は開かれた。彼らの目的地、冒険者ギルドへ向かうための道が。しかし、運命は、更なる試練を用意していた。


 冒険者ギルドへと向かう途中、広場へ足を踏み入れた瞬間──


「……止まってください」


 愁は片手を上げ、ライトとリリーニャを制止する。


「愁さん?どうかしましたか?」


「……何かが来ます。相当な大物ですよ……!」


 愁の〈気配探知〉に映るのは、尋常ならざる威圧感を持つ存在だった。その力の質は、これまでの敵とは異なる。ただのアンデッドでもなければ、上位のアンデッドというわけでもない。


(これは……死団長か)


 愁は警戒を強めながら、視線を巡らせた次の瞬間、町の屋根の上に人影が現れた。


「……上か」


 フードを目深に被ったその影は、笑みを浮かべながら七メートルの高さから、音もなく降り立つ。まるで重力すら無視するかのような軽やかな着地だ。


 口元には、歪んだ笑みを浮かべ、小刻みに体を震わせながら不気味に笑っていた。


「ひひっ!お前、すごいなぁ。あ、アンデッド、あんなに、い、いっぺんに。でもでも。ぼ、僕のコレクションはもっと凄いんだぞ!」


 不気味な口調の男が両手を掲げ、呪文を紡ぐ。


 すると──上空には二つの巨大な魔方陣が浮かび上がる。その魔法陣は、ガバレントの大門前で二体のドラゴンを召喚した魔法陣と同じだった。


 魔法陣の光が激しく瞬き、やがて闇を孕んだ漆黒の巨影がその姿を現す。


 先ほどのドラゴンの二倍はあろうかという巨大な竜だ。その体躯は漆黒に染まり、ギラギラと燃え盛るような真紅の双眸が愁たちを睨みつけている。そして、もう一方の魔方陣から姿を現したのは──


 体長四メートルほどの、首のない異形の存在だった。それはやせ細った体に病的に白い肌、法衣のような衣服を身に纏い、天使を思わせる純白の翼を生やしながら、その身を半透明の結界に包んでいる。


「天使……なのか?それにしてもでっかいな、あのドラゴン」


 愁が呟いた瞬間、周囲に漂っていた死の気配が渦を巻き始める。先ほど聖剣ガラティンのスキルで消え去ったはずのアンデッドたちが、次々と現れ、あっという間に三人を囲んでいく。


「ライトさん、リリー。周りのアンデッドは任せます。俺はあのドラゴンと天使みたいな奴を相手にしますので」


「愁さん!あれはおそらく第一死団長のネルフェですよ!ブレストの次に強いとされる危険な男です!」


 ライトの声が、緊張を帯びる。


(……陸傑死団の幹部で一番の実力者か。しかもあの男……死霊術師か)


 愁は宵闇を構え、ゆっくりと息を吐く。静かに目を細め、周囲の異様な気配を探る。


 目の前の男──ネルフェは狂気に満ちた笑みを浮かべながら、戦場全体に響き渡る甲高い声で叫んだ。


「ひひっ! 僕の最高傑作、見せてあげるよぉ……!」


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