表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラフトマスター建国記〜転生により不治の病を克服した少年は異世界で『至高の国』を再建する〜  作者: ウィースキィ
第三部 第二章 建国の英雄たち【大魔法国家ルミナス動乱 編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

353/353

第45話 新たな希望


 闇が去った後――広場には、先ほどまでとは明らかに異なる空気が流れていた。


 つい数刻前まで渦巻いていた怒号と混乱は、嘘のように静まり返っている。人々は空を見上げ、あるいは演説台を見つめ、言葉を失っていた。


 そこにあるのは、恐怖ではない。畏れと――微かな希望。


 絶望の化身と呼ばれた存在を打ち破り、なおも笑顔で立ち続ける少女。クオーレ。彼女の存在そのものが、先ほどまで崩れかけていた心の均衡を、再びかろうじて繋ぎ止めていた。


 無論、それがすべてではない。


 人々の胸を締め付けていた負の感情の大半は、あの闇と共に消え去っていた。まるで、誰かが意図的にそれらを引き受け、連れ去ったかのように。


 だが、その事実に気づく者はクオーレ以外にはいない。ただ、結果だけが残る。


 ――静寂。そして、その中で。


「……クロちゃん……」


 クオーレが、小さく呟いた。


 その声は風に溶けるほどか細く、それでも確かに祈りの形をしていた。両手を胸の前で重ね、目を伏せる。今もなお、彼女は国中の空を覆う大規模な結界を維持し続けている。


 空では、絶え間なく飛来する魔物の攻撃が、光の膜に弾かれ、散っていく。だがその輝きは決して盤石ではなく、時折揺らぎを見せて、微細な亀裂が走る。


 それでも、クオーレは止めない。ただ、ルミナスを守るために、絶対にあきらめない。


 そして、その隣に、メイディアが立つ。黄金の髪を風に揺らし、彼女は一歩前へと踏み出した。その瞳には、先ほどまでの迷いはない。あるのは、覚悟だけ。


「……皆さん」


 静まり返った広場に、凛とした声が響く。


「王家は、ここにいます」


 一つ、一つ、言葉を噛みしめるように。


「私たちは逃げません。最後まで、この国と、皆さんを守り抜きます」


 短く、だが強く。


「――必ず、守る。このルミナスを、守り抜きます」


 その宣言は、決して派手なものではなかった——けれど、今度は確かに届いた。人々の胸の奥に、微かな火を灯すように。


 だが――現実は、変わらない。戦況は、むしろ悪化していた。


 王都の外縁。さらにその先。ルミナスの各地で、地上部隊は押し込まれている。


 ケイオス魔道国の軍勢と、無数の魔物たち。それらは全方位から侵攻し、ルミナスを包囲しながら、確実に本土へと迫っていた。防衛線は後退し続けている。このままでは、いずれ――ルミナスは飲み込まれる。


「……っ」


 広場の一角で、リリーニャが唇を噛んだ。


 視線は、遠くの空ではない。自分の手の中にある、小さな魔法石。脳裏に蘇るのは、大好きな人とのある日の会話。


 ――何かあったら、助けを呼んで。


 愁の、穏やかな声だった。


「……っ、そうだ……!」


 決意が宿り、リリーニャはすぐに魔法石を起動させた。


 淡い光が灯り、次の瞬間――映像が結ばれる。そこに映ったのは、黒髪の少年。整った顔立ちに、鋭い黒の瞳の八乙女 愁。リリーニャの憧れの人。大好きな人。


「……璃里?」


 その声は落ち着いていたが、瞬時に違和感を察したのだろう。表情が引き締まる。


「何があったの?」


「愁くん……!」


 リリーニャの声が震える。だが、迷いはない。


「お願い……助けて……!みんなを……ルミナスを、助けて!」


 その一言に、全てが込められていた。


 愁は、僅かに目を細める。その横で、影のように寄り添う存在――シャドーが、愁に何かを耳打ちする。


 それは短い報告。シャドーが率いる諜報部隊『影の旅団』が得た全ての情報を必要な個所に絞り、要約した内容。だが、愁が今のルミナスの状況を理解するには、それで十分だった。


「……なるほどね」


 愁は小さく息を吐くと、再びリリーニャを見る。


「もちろん助けに行くよ。すぐにでもね」


 即答だったが、その次の言葉は、冷静だった。


「でも、国家に介入するなら正式な許可が必要なんだ。手順は間違えちゃいけないからね」


 視線が、わずかに鋭くなる。


「今の状況なら、クオーレさんかメイディアさんから、俺が介入する許可を取れる?」


「……うん!すぐに聞いてくるから待ってて!」


 迷わない。リリーニャは強く頷くと、その場で飛行魔法を使用して飛び上がった。風を切り、一直線に演説台へ向かい、着地と同時に、二人の前へと駆け寄る。


「お願い!」


 息も整えず、叫ぶ。


「クオーレ、メイディアさん!愁くんが助けに来る許可を頂戴!」


 突然の申し出に、メイディアは一瞬、目を見開く。


 愁――メイディアは、その名に覚えがない。だが、彼女はリリーニャの瞳を見た。必死で、真っ直ぐで、揺るがないその光を。そして――


「……分かりました」


 迷いは、消えた。


「ルミナス王家として、魔術王シンに代わり、メイディア・シンが正式に許可します」


 その言葉は、確かな重みを持っていた。


 リリーニャは頷いて、すぐに魔法石へ向き直る。


「愁くん!許可、もらったよ!」


「了解」


 短い返答。


「すぐに行く」


 それだけ言って、魔法石による通信は途切れた。


 だが、その一言で十分だった。リリーニャの胸に、確かな希望の光が灯る。


「……燈璃!」


 リリーニャが振り向くと、そこには、既に覚悟を決めたもう一人の少女がいた。


「ルミナスのために戦うよ!」


 声が響く。


「――あたしも戦う!」


 燈璃が応える。


 二人は目を合わせ、小さく頷く。次の瞬間——燈璃の身体が、光に——いや、紅蓮に輝く炎に包まれた。


 小さな少女の姿は、紅蓮の炎の中で膨張し、歪み、変質する。人の形を捨て、本来の姿――紅蓮の竜王へと。


 紅蓮の巨大な翼が広がる。燃え上がるような鱗が煌めく。天を焦がす炎の気配が顕現する。圧倒的な存在感が、広場を満たした。


 リリーニャは、運命の杖に祈り、その姿をピンク色の魔法少女のような煌びやかな姿へと変身させ、燈璃の背へと軽やかに飛び乗り、高みから、見下ろす。


 突然現れた紅蓮の竜王に驚愕するメイディア、そして、民衆を。しかし、不思議とそこに恐れはなかった。


「愁くんが来るまで――」


 リリーニャの声が、空へと響く。


「私たちが、みんなを守るから!」


 その言葉に、リリーニャ自身が、わずかに驚いていた。


(……私……)


 かつての自分なら、足がすくみ、動けなかったはずだ。恐怖に縛られ、何もできなかったはずだ。


 だが今は違う。クオーレのために。メイディアのために。そして――信じているから。愁が、来てくれると。


 その確信が、彼女を強くしていた。


 紅蓮の翼が、大きく羽ばたき、轟音と共に、巨竜が空へと舞い上がる。その背に立つ少女の姿は――まるで、一人の英雄のように人々の目に映った。


 人々は、見上げる。絶望の中に現れた、新たな光を。


 クオーレが守り。メイディアが導き。そして今、リリーニャと燈璃が戦う。


 希望は、まだ消えていない。その確信が、広場に静かに広がっていく。


 嵐の中心で。物語は、次なる局面へと進もうとしていた。


少しでも『面白い!』『続きが気になる!』と思っていただけたら、ブックマークで応援いただけると嬉しいです。下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価をいただけると、さらにさらに、次回の更新も頑張れます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ