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クラフトマスター建国記〜転生により不治の病を克服した少年は異世界で『至高の国』を再建する〜  作者: ウィースキィ
第一部 第三章 新たなる世界 【エルセリア大陸 編】

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第14-2話 残るのは後悔だけ


「メラリカさん!?待ってください、今、鎖を……」


 愁が慌てて手を伸ばした瞬間、メラリカは苦悶の表情を浮かべながらも、必死に愁の動きを制止する。


「駄目です!この鎖に触れては……この鎖は、我々の始祖たる統一大精霊がエルフ族を縛る鎖。エルフ族は精霊から生まれた種族です。『種を縛る鎖』によって拘束された今、統一大精霊には逆らえません」


「でも……じゃあどうすればっ!」


 愁の心は焦燥と混乱に揺れ動いていた。


 視界の先で統一大精霊は、ただ静かに佇んでいるようにも見えるが、その実、底知れぬ力を蓄え、今にも解き放とうとしているのだ。


 そしてメラリカを縛り上げる鎖は、統一大精霊にも無数に絡みついている。まるでエルフ族全てを束縛し、その生命の精気を容赦なく吸い上げているかのように。


 だが、愁の焦りとは対照的に、メラリカは静かな微笑みを浮かべていた。その顔には、何かを悟ったかのような穏やかさが宿り、凛とした美しささえ漂っている。


「愁さん。もう、いいんです」


「え?」


「私のことはもう諦めて逃げてください。統一大精霊が現界してしまった今、私一人ではどうにもなりません。せめて愁さんだけでも……愁さんなら、逃げきれます」


 メラリカは表情を崩さず、精一杯の笑顔を浮かべていた。その微笑みは無理に作られたものだったが、『諦めて』と告げるその言葉だけは、痛々しいほどの真実の重みを帯びている。


(なぜ、メラリカさんがそんな顔をしなければならないんだ?こんなこと、許されていいわけがない……!)


 愁の胸の奥で、怒りが燃え上がった。


「そんなこと、できるわけがない!俺がメラリカさんを見捨てて逃げるだって?ありえませんね。元凶があの精霊だというのなら、倒してしまうだけです」


「そんなっ!どうしてっ!? 私は愁さんを騙していたんですよ!?」


 メラリカの笑顔が消え、絶望がにじむ。その視線が揺らめき、抑えきれない感情がほとばしる。


「身分を偽り、心細いからと愁さんを巻き込んだんです。兄からの手紙がいつもと違うことは最初から分かっていました。ひとりで行けば良くない事に巻き込まれると予感していたんです……それでも愁さんを、護衛として利用したんですよ」


「メラリカさん……それでも、俺は……」


 メラリカの瞳から、溢れ出した涙が頬を伝い、何度も地面を濡らしていく。その痛みは愁の心に刻まれ、深く、重くのしかかった。


「そうです、愁さんはそういう人です。分かっていました。だから、利用したんです。私は卑しい女です。一緒に来てもらえれば守ってもらえる。そんな自分勝手なことを考えて、あなたを巻き込んでしまった……」


 後悔の涙が、言葉を遮る。


「愁さんにはこれから、救うべき多くの命があるのでしょう?私なんかのために、その尊い命を無駄にしないでください……」


 メラリカの声が震え、怒りと後悔に押しつぶされそうな自分を、自嘲するかのようにさえ見えた。


(……こんな、こんなメラリカさんを放っておけるものか)


 言葉が見つからないまま、愁は彼女を見つめた。


 だが、今のままでは彼女の後悔は癒えないだろう。彼女が自らを許せるように、どうすればいいのか。愁の心が決まる。


「メラリカさん、俺は──」


「愁!! あれを!」


 不意に響いたオベロルストの叫びに、愁は視線を向ける。


 すると、統一大精霊が、今まさに動き始めようとしていた。


「おお、おお!何故だ!何故この身にも鎖をっ!? その力は私のものだ!ええい!シュルド!私を助けろ!」


 アバルダが息子の名を叫ぶ。だが、その返事はない。


 自らの欲望のために手にかけた息子から、もう応えは返ってこないのだ。


「おい!シュルド!シュルドーっ!私を、このアバルダを!助けろっ!……何故だ!何故誰も来ない!護衛はどうした!兵士は!マルシー?マルビス?どこにいる!?」


 統一大精霊は、じわりと口を開き、鋭く張り巡らされた糸を引きちぎりながら、黒い液体を垂らし始めた。その暗い雫は雨のように降り注ぎ、狂乱するアバルダの上に滴り落ちる。深淵を思わせる闇の口腔が徐々に迫り、今まさに死がその手を伸ばそうとしていた。


 その瞬間、アバルダの脳裏に、失われていたはずの『記憶』が次々と甦る──


 二番目に強い精霊の心臓を持つ息子シュルドの身体を使い、現界の儀式を強行したこと。現界した際には、城内の魂、そして愛する家族さえも生け贄として捧げたこと。さらに、自らが守るべき民までも、計画のために犠牲にしようとしていたこと。


 暗闇が視界を覆い尽くす寸前、過去の出来事が鮮明に浮かび上がる。


「アバルダ、君には勇者の力を得られる可能性がある。どうだ、施術を受けてみないか?」


「勇者の力を私が?そうだな、それで民や家族を守れるのならば……良いかもしれぬな。私で成功すれば、シュルドにも希望が繋がる。次代の王として、きっと国を立派に導いてくれるだろう」


「そうだな。君は立派な国王だよ。国のため、民のために尽力する──それを少しでも助けられるならば、私にとっても光栄だ」


「ありがとう、セルシオ。君の厚意に感謝するよ」


 そうだ、あの日からだ──民のため、国のためだと信じ、施術を受けたあの日から、アバルダの心には『何か』が入り込み、思考がねじ曲げられていった。気づいたときには、自分は大切な家族も、愛すべき民も手にかけてしまっていたのだ。


「セルシオめ……謀ったな……」


 最後の理性を取り戻したアバルダは、絶望と後悔の中で統一大精霊に飲み込まれ、その肉体も魂も、贄として吸収されていった。


 かつての王の姿が跡形もなく消え去り、新たに力を得た統一大精霊は異形の叫びを上げながら、更なる贄を求めて、今度はメラリカに目を向ける。


 その視線を受けた瞬間、メラリカの身体を縛る鎖が不気味な紫色に発光し、メラリカの口から苦痛の叫びがこぼれた。


「メラリカさん!大丈夫ですか、メラリカさん!」


 光が強く輝き、メラリカの体は次第に透き通っていく。その力は物理的なものではなく、存在そのものを奪い取るかのように鎖がメラリカを侵食していく。


 後ろの景色が透けて見えるほどに存在が希薄となったメラリカは、最後の力を振り絞って愁に手を伸ばした。


 愁はその手をしっかりと掴んだ。その手にはまだ温かさが宿っている。


「メラリカさん……俺はどうすれば、どうすればあなたを助けられるんですか!教えてください!」


 愁の叫びが届いたのかどうか──メラリカの姿は次第に薄れ、かつての温もりが消え去っていく。


 そして、愁の手の中には、もはや何も感じられなくなっていた。そんな中、最後にメラリカが見せた表情は、これまで見たこともないほど明るく、美しい笑顔だった。


 その唇が静かに動き、ある一言を告げる。


「生きて──」


 そのひとことだけを残し、メラリカの姿は、この世界から消え去った。


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