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冒険者の日常の日々  作者: りゅうけんたろう
第一章 下級下位
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日常27

街に帰ってからは、早速ガロンの肉屋に向かう。

ギルドで依頼を受けていないが、ガロンなら依頼と関係なしに買い取りをしてくれるだろう。

もちろんその場合ギルドの貢献度は加算されない。しかし、代わりに斡旋料や税金を取られることはない。なので、お金を稼ぐならこっちの方が断然いい。だが、野兎程度の獲物の斡旋料や税金などはたかが知れている。それなら、もっとランクを上げて魔物の素材などを高額で取引した方がいい。



事前に、ヘルムにはガロンが熊人族だということを説明しておいた。

見た目が熊で大きいが襲われることはないと。ヘルムはそういう生き物もいるんだという程度の感覚で頷いていた。


肉屋の暖簾をくぐり、店員に声をかける。

案の定、ガロンは店の奥で作業をしているようだった。いつものように店員に奥に入る許可をもらう。

ヘルムは店の中の商品を物珍しそうに見ていた。そうして、少しだけ見て回っていいかと聞かれたの了承した。自分もこの店に並んでいる肉をしっかり見たことはなかった。ほとんどの肉が、魔物で少しだけ動物が混ざっているようだった。ただ、どれを見ても値段が高く、安いものでも麻痺毒一つ分の値段だった。とてもじゃないが買う余裕はなかった。


魔道具に冷やされた肉や吊るされた干し肉を楽しそうに見ていたヘルムは、森で自分が殺した野兎のことを忘れているようだった。実際の動物とここに並んでいる肉は同じなのに、まったくそれについて頭の中で理解できていないようだった。きっと肉は元々こういう形としてとらえているのだろうか。生き物と肉は別物という世界からやってきたのだろうなと改めて認識した。


ヘルムはどうやら、干し肉がかなり気になっているようで値段的にもお手頃だった。

ギルドから生活出来るだけのお金をある程度借りれるので、お金に余裕がある。

もちろん返済をしていかないといけないが、毎月無理のない額を支払えばいいとされている。これはギルドが『迷い人』を手放したくない工夫でもある。ハズレの『迷い人』でも将来的に能力が開花することがあるそうなので、ギルドは彼らを手放すことはない。


店の中を一周し終え、そろそろガロンに会おうと言ってヘルムを促した。

奥のドアを開けて事務所に入る。すると、そこにはガロンが珍しくいて、椅子に座って事務仕事をしていた。乱雑な机は少し整頓されており、書類は無造作にまとめ、重ねてあった。

ガロンは書類に何か書き込んでいた。その大きな手で器用にペンを持ち、スラスラと文字を書いているようだった。鼻の上には、弦のないメガネを掛けていた。

ドアの開く音と人の気配で、その少し尖った耳がこちらにピクリと動き、整った鼻筋の先がピクピクと動いていた。


「なんだ新入り、もう復帰したのか。」


ガロンは、ペンを走らせたまま話してきた。耳と鼻だけで誰だかわかるのだろう。

その感覚はつい最近『成り損ない』で味わったので嫌な思い出が少し蘇った。その経験があってか、獣人の耳と鼻をやたら気にするようになってしまった。


「少し待て、もうすぐこれも終わる。――ん、他にも誰かいるな。」


そう言って顔こちらに向けた。


「あっ、どうも初めまして、ヘルムと言います。」


自分の後ろからヘルムが乗り出して挨拶をする。

ドアを開けたまま止まっていたので、ヘルムはまだ中に入れていなかった。


「てっ、デカい!」


案の定、ヘルムはガロンに驚いたようだったった。

何故か分らないが自分を盾にするように押してくる。せっかくパーティーとして再認識できたのに、これは解散しかないな。


「大丈夫だよ。こんな見た目だけど、とてもいい人なんだよ。」


ヘルムを落ち着かせるために説得してみる。

最初は慌てていたものの、事前に説明していたのですぐに落ち着いてくれたが、まだ警戒しているようだった。


「おい、新入り言う様になったじゃねぇか。こんな見た目ってのはどういう意味だ。」


しまった。


これはまずい。これから物を買い取ってもらうのに機嫌を損ねてしまっては値を下げられかねない。

ここは一刻も早く挽回の一手を繰り出さねば。


「ほら、ガロンさんは奥様方に人気のイケメンフェイスじゃないですか。そんな見た目のナイスガイって言いたかったんですよ。そ、それに今日は仲間を連れてきたんで、紹介がてら寄ってみたところでして。」


苦しい。この一手は失敗だ。


「ふん、まぁいい。それで、そいつがお前の仲間か。」


ガロンは特に気にするでもなく、ヘルムの方に顔を向けた。

ヘルムはガロンに見られて子鼠のように縮んで見えた。


「はい、初めての仲間ですよ。やっと冒険者としてそれなりの仕事がもらえるところまで来ました。」


「そうだな。お前はソロだけの仕事しかもらえてなかったからな。これでもっと大きな獲物も狩ってこれるだろうよ。」


ガロンは考え深そうな顔をして顎を撫でていた。

実際は、まだそういった大きな獲物を狩れるほど仲間の実力がないので、今はもっぱら簡単な依頼しか受けないつもりだ。


「そうだ、ガロンさん。ヘルムの獲った野兎の鑑定お願いしていいですか。」


そう言ってヘルムを前に押し出す。

野兎は街に入る前にヘルムの雑嚢から出した袋に詰めて、ヘルムに持たせてある。せっかく自分が撃ちとったのだから、ちゃんと自分で持った方がいいだろうと。


「そうか、それならこっちにおけ。」


そういって椅子から立ち上がり、作業台の方を指した。

ヘルムは言われた通り作業台の方へ向かい、袋から野兎を出した。

ガロンはひとしきりその野兎を見た。


「ふむ。血抜きは綺麗にできているな。この傷は矢だな、いいところを当てている。中の傷はひどくないだろう。これならいつもより少し高めで買ってやろう。」


「おお!」


ヘルムはガロンの見立てに相当喜んでいるようだった。もう警戒心もないようだ。

初めて獲った獲物が、高値で買い取ってもらえることはそうそうない。

それにこれは、パーティーとしての最初の獲物だ。なんといっても幸先がいい。


「やったね、ヘルム。」


「ああ、やったよリック君。私たちはこれからもやっていけそうな気がするよ。」


お互いに握手をして、今日の功績を喜びあう。

これが仲間というものなんだな。


「何を大げさな。で、お前らこれをどうする。売るのか、それとも干し肉にするか?」


「えっ、干し肉にしてもらえるんですか?」


ヘルムは握手を辞めガロンに聞いた。

自分は振りほどかれた手を呆然と見ていた。


「おう、干し肉にしてやってもいいぞ。そうなれば後日になるが、処理の金はいらんぞ。せっかくパーティー結成の記念にサービスしてやる。」


流石はガロンイケメンである。それに引き換えヘルム、この行き場のない手をどうしてくれる。


「そうれじゃあ、干し肉でお願いします。」


ヘルム貴様何を勝手に決めている。せっかくの高値なんだ、もっと他に使い道だ有るだろう。


「分かった。それじゃあ、一週間後にまた来てくれ、それまでにはできてる。」


口を出していないと、あれよあれよという間に話がまとまっていた。

しょうがない。ヘルムは浮かれているし、元々彼が獲った獲物だ。今回はこれで良しとするか。



「それじゃあ、また来ます。」


「干し肉、楽しみにしています。」


「おう、次回はもっと仲間のことを止められるようになっとけよ。」


ヘルムはきょとんとしていたが、ガロンはどうやら自分の心境に気付いていたようだ。

おのれイケメン目、さっきのことを根に持っていたから、あんなにほいほいと了承したな。


店を出て看板を見上げて鼻を鳴らした。


「ひどい奴だ。」


「確かに、センスがないよねこの看板。」


きょとんとヘルムを見た。彼も看板を見上げていた。

そしてもう一度、看板を見る。

ふふっと笑みがこぼれた。


「そうだね。」


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