日常20
ヘルムを被った男は堂々と店に入っていった。
呆然とその男を見送った。一瞬、思考が停止したが、ふと武器屋に行くことを思い出してそのまま後にする。
前回スリングショットを買った武器屋に向かう。
この店はガロンに勧められた店だ。値段が安く、下級冒険者に良心的で、質のいいものを取り揃えている。
ただ、種類が少ない。人気の商品はナイフと剣、あとは槍ぐらいしか置いていない。その他はあまり使われない武器が置かれている。スリングショットもその一つだ。ガロン曰く、店長の趣味が濃い店で自分が気に入った武器しかあまり置かないそうだ。一応それだけでは生活できないので一般の武器もある程度置いている。それを安く売ることで何とか店を保っているそうだ。
店の中に入ると、ちらほら人がいた。ほとんどの人が皮鎧を着ていた。
案の定、下級冒険者が多い。一人の若い冒険者が剣を取り店員と何か話した後、店の奥へと消えていた。
武器屋の店の裏には武器を実際使える場所がある。そこで試し斬りや、弓矢の試し撃ちなどができる人形や的が置かれている。そばには店員がつきその武器の特性や癖などを説明してくれる。
下級が多いことから、こういった手ほどきのサービスがついているのも、店が潰れない理由の一つだ。
飛び道具系の武器が置かれている場所でスリングショットを探す。
この場所にはあまり人気がなく人はまばらだ。
この辺りで武器を選んでいる人はなぜか皆、黒く地味な格好の者が多い。どの人も気配が薄い。
飛び道具の中で人気なのはやはり投げナイフだ。
どのお客も投げナイフを吟味した後それをもって裏に行く。ここの人間は店員に声をかけられない。
投げナイフなどの武器を買いにくるお客はランクが高いことが多い。投げナイフは獲物に当たっても逃げられたりした場合そのまま持って行かれてしまうので消費が激しい。あるいは敵にはじかれどこかに飛んで行ってしまうことがある。そうなった場合、探すのは困難だ。
しばらく迷ったが、結局前回買ったスリングショットと同じものを選ぶ。
種類は色々あるが、やはり使い慣れた武器が一番いい。スリングショットを持って店の奥に行く。
奥には受付がいて、武器の試射を頼む。武器を見せてその種類にあった的の場所を教えてもらう。
受付は机の機械に何か打ち込むと番号を教えてくれた。
言われた番号が書かれている扉の前へやってきた。扉を開けると個室の様なカウンターの先に人型の的が数メートル離れて置かれていた。この場所の空間は魔道具で作られた架空の場所で的を自由自在に動かすことができる。手元のプレートに機械の操作方法が書いてあり、設定を打ち込むと的がその通り動いてくれる。
魔道具で作られた空間なので的の距離はどこまでも遠くに設置もできる。
カウンターのあちら側だけが空間をいじられているので、カウンターの向こうが側へ行くことができない。
無理に行こうとすると警報がなって魔道具が緊急停止する。そういったマナー違反を行うとすべての武器屋で試し斬りの部屋を使えなくなる。
的を数メートル離す。野兎がこちらに気付かないぎりぎりの距離を作る。
カウンターには鉛の球が置かれており、それをゴム紐で挟み、腕を固定してじっくり的を狙い、手を放し放つ。
軽く強化することで、通常より太いゴムでも容易に引くことができた。
玉は目にも止まら速さで的に当たる。その後、二度三度打ち込み的を手前に寄せる。
的の真ん中付近をうまく当てられていた。これならば次回野兎を狩る時はもっとうまくできそうだ。
機械の退出する有無を知らせるボタンを押して試射室を出る。
受付に行き購入の意思を伝える。
受付に認識票を出しお金を振り込んだ。
その後に店の中にある雑貨コーナーに行く。
カバンや背嚢、ポーチなど色々置かれている。そこで、足のポーチを吟味する。
ポーチの形は大体決まっており、質によって価格が変わる。
もちろん選ぶのは一番安いやつだ。安い中でもいい形のものはよく売れてしまっている。
だが、自分は見た目は気にしない。機能性を重視している。物が多く入り、区切りがしっかりしたものを選ぶ。後、しっかり腰に固定できるかのチェックも怠らない。まれに粗悪品が混じっていて、すぐ留め金が壊れる物もある。この一年でそういったことを経験しながら買い物をしてきた。
足のポーチを持ち留め金などをじっくり観察していると隣に人がやってきた。
カバンやポーチの隣のコーナーは鈍器を扱う場所だ。
槌系の武器がたくさん置かれている。こういった武器は不人気で普通の店ではあまり置かれていない。
この店は店長の趣味で何故か多く置かれていた。
物好きな人がいるなと思い隣に顔向けると先ほど防具屋ですれ違ったヘルムの人だった。
思わず体が固まってしまった。
いまだに下着一枚のマントという目につく恰好をしていた。
その下着はよく見ると、ふんどしの様な形をしていてる。それがより彼の個性を引き立てていた。
ヘルムを被っているので表情をうかがい知ることはできなかった。
男はメイスを吟味していた。なかなか渋い趣味をしているようだ。首には認識票が付いていた。この店にいるということは彼も冒険者なのだろうか。
店員は男の姿に怯えているのか遠目で見ているだけだった。たしかに、このような格好をした人間に話しかけるのは勇気がいるだろう。自分もできればすぐここを離れたいが、ポーチをしっかり選びたいので離れるわけにはいかない。しばらく隣り合わせのまま無言でお互い品物を吟味していた。
「あのー、ちょっといいですか?」
ポーチ選びに集中して気を紛らわしていたら、その謎の男に声をかけられた。
「えっ、はい、何ですか?」
少し声が裏返ってしまったがなんとか返事を返せた。
「このメイスなんですけど、どうやって使えばいいですかね。」
男の声は籠っているのに、何故か聞き取りやすかった。
「えーと、そういったことは店員さんに聞くといいですよ。あそこにいる人に聞いて店の奥で試し振りさせてもらえると思うので。」
「そうなんですか。ありがとうございます。」
この変な格好をした人は思いのほか礼儀が正しかった。
こちらに頭を軽く下げ店員の方へと向かっていった。店員はぎょっとした顔をしたが、そこはプロだすぐに笑顔になり、男の質問に答えていた。しばらくすると男と店員は店の奥へと消えていった。
気を取り直してポーチを吟味し、やっと気に入ったのを見つけたころには休憩時間ぎりぎりだった。
急いでポーチを買い宿に戻った。
昼から夕方にかけてこの宿は暇だ。
この時間帯は殆どの仕事を終えて店番しかやることがない。ドリーは商店街に向かい消耗品などの買い足しに向かっている。食料品はアンナが買いに行っている。店に行きアンナが食材品質を確認したのちに大量に買い込み、店に送り届けてもらっている。エリーはいつもはこの時間店番だが、今は自分がいるのでアンナと一緒に出掛けている。
この時間帯は宿に泊まるお客の受付すること多い。今日も何人か泊りの人を向かい入れた。
それからはほとんど人が来なかった。
あくびをしながら、ぼんやりと受付に座っていた。
後、必要なのは毒薬系だ。明日にでもスイーツの森に行こうかな。
夕方には防具もできているだろう。ここ数週間宿の仕事も楽しかったが、そろそろ冒険者稼業再開かな。
そんなことを考えていると暖簾がひらりとめくれ人が入ってきた。
そいつはヘルムを被り下着一枚とマント姿。そして腰にベルトを巻いてメイスをつるしていた。
また、あの男と出会ってしまった。
「すみません。宿泊したいのですが。」
男はどうやらここに泊まるつもりらしい。
何故だが、やたら縁がある。




