日常19
一週間後、無事退院し普段の生活にもどった。
まずは、リハビリがてらしばらく宿の仕事を手伝うことにした。
朝の薪割をやろうと思い裏の小屋に向かう。小屋にはいつも通り薪割台のそばに手斧が置かれていた。
手斧は自分が壊してしまったので、こいつはドリーが新しく買ったものだ。代金は請求されなかった。
以前使っていた手斧は自分の部屋に置いてある。古い方はお前にやるとドリーが言ってくれたので、ついに自分の武器を手に入れた。『成り損ない』を倒した褒美だそうだ。ただ、二度と無茶をするなとだけ釘を刺された。
手斧はいまだに柄が折れているので修理に出さなければならないが、防具を買い直すのにお金がないのでしばらくこのままで使うことにした。折れた部分はのこぎりで長さを調整し、やすりで整えた。もう、両手では使えなくなってしまった。完全に片手斧だ。
薪を割りながら体に違和感がないか確認する。振り上げて振り下ろす動作を繰り返す。
最初はあばらを気にしてうまく力を込められなかったが、徐々に力を入れて感覚を取り戻した。
薪を割るだけの動きができていれば、完全回復しているという自信がもてた。
昼は洗濯物を手伝う。
普段はエリーがやっているのだが今は自分の仕事だ。代わりにエリーは接客をしている。普段はアンナが接客をしている。今は会計処理をやっているそうだ。普段はもっと遅い時間にやるそうだが、時間が空いたので今やっているそうだ。バイトは夜しかいないので朝、昼はこの家族だけで回している。もともとこの時間帯はお客が少ない。ドリーもまったりと料理を作っていた。洗濯が終われば昼飯の時間帯だ。そうなると、もう少し忙しくなるが夜ほど延々と料理を作るほどではない。冒険者業に戻るまでは朝、昼、晩の食事を出してくれるそうだ。これは仕事を手伝ってもらう代わりの賄だそうだ。本当にありがたい。実際はアンナがまだ心配しているそうで、ちゃんと栄養をとって元気になってほしいからだとエリーが教えてくれた。
昼飯を終えて皿洗いを手伝った。
皿洗い中は魔力の流れの確認を行った。
入院中は魔力を体に流す行為は行っていなかった。なぜなら魔力を使うことでエネルギーを消費するからだ。解放者は身体回復の魔法を使うが、それは傷の回復を促す効果があるからで、ただ無駄に身体強化を発動してエネルギーを消費していたら傷の治りを促す力が足りなくなってしまい、傷の治りが悪くなり入院期間が延びると医者に止められた。
なので、魔力を流して身体強化を使うのは久しぶりだ。
ゆっくり魔力を体に流していく。
何故か普段より流れがスムーズな気がした。病院でつかった機械の影響だろうか。
微弱に強化しているのだが、いつもはその強化でもわずかにむず痒いような疲労感が徐々に溜まっていくのだが、今はそれがまるでない。いつもは体の中心から心音と合わせるイメージで魔力を流しているが、今の感覚では渦が胸の中心にあって、心音と同じように流れている所は同じだが速さが断然違う。手足の先に行ったと思ったらすぐに中心に戻っていた。体全体に回る速さが段違いだ。これはもう意識しないでもできる感じだ。
皿を洗う手の力は一定に維持できる。普段はもっと注意しながら洗っていたが、完全に気を抜いても力が暴走することがなかった。
いったいどうゆうことだ。
結局わけもわからず昼の皿洗いが終わった。
夜ほど時間は長くないが、これだけの時間、微弱でも全身強化を使ったのに疲労感はなかった。
考えても仕方がないので、これについては置いておくことにする。
昼以降は少し休憩時間を貰えた。この時間の間に防具屋に顔出すことにした。
宿を出てギルドの方へと向かう。ギルド周辺には武器屋や防具の店がたくさんあり、冒険者でにぎわっている。一般人には冒険者通りと言われている。
冒険者通りを歩きながら防具屋を探す。以前自分が買った防具屋を探した。
その店はかなりボロく、主な商売は防具の買い取りだ。不要になった防具を買い取り、ある程度直してそれを売る。いわえる中古屋だ。
店は冒険者通りの端の方にあり、あまり人通りが少なかった。
暖簾をくぐるが店の者は出てこなかった。
この店に好きこのんでくる人間はすくない。命を守る防具を中古で買うのは相当な馬鹿か、金がない馬鹿だ。
店の中はカビと埃の匂いがした。商品は殆どが皮の防具だった。この店に来るのは下級下位を卒業して中位で、ある程度稼いだ後、不要になった皮鎧を売りにくるものが多い。なので必然的に防具は皮がほとんどだ。
並べられた皮鎧を見ながら店の中を回る。できるだけ質のいいもの見つけたい。
防具の大きさは後々店の方で調整をしてもらえる。値段的にはこの調整の方が防具より高いことの方が多い。
慎重に皮を見る。どれだけ傷が少ないか、あまり使われていないかを探す。
使い古されたものはすぐ体に馴染むが劣化が激しい。なので馴染むのには時間がかかるが新しく傷の少ない方がいい。まれにかなり真新しいものが置かれていることがある。それは下位をあっという間に卒業して中位に上がった実力者のものだ。そういったものはかなり傷が少なく、験を担げるので当たりだ。
しばらく物色したが、何とか二つに絞れた。
一つは女用で小さい作りだった。もう一つは男用だが大きかった。
ここにきてやっと店の者を呼んだ。
出てきたのはかなり年老いたお爺さんだった。
「あの、この二つで迷っているのですが、どちらが調整しやすいですか。」
彼は瓶底のようなメガネを一度押し上げてから皮鎧を見る。
そして、こちらに視線を移し上から下まで体を見た。
「お主は、今いくつじゃ。」
「えっと14です。」
お爺さんはしばらく考えるそぶりをしてから答えた。
「なら、成長を考えて少し大きい方がいいな。男用の方を調整してやる。しかし、こんな店に来るぐらいだから相当金がないんじゃろう。その歳では大変じゃろう。少しまけてやろう。」
「ありがとうございます。」
にっこり笑い礼を言った。
どうやらお爺さんは自分のことを覚えていないようだった。
これはありがたい。実は前回も値引きしてもらっている。その時も歳を聞かれしばらく考えてから安くしてもらった。普段からお客が少ないのでいちいち客を覚える必要もないのだろう。
それにしても不思議なのがどうやって生計をたてているのだろか。
買い取りは多いが売るのはどう考えて少ないはずだ。それなのに一年たってもまだ潰れていない。
まったくもって不思議だ。
お金を払い終わり、調整まで時間がかかるので明日また来いと言われた。
店の時計を見るとまだ時間に余裕があった。
せっかくなので武器屋の方にも顔を出すことにする。
武器はスリングショットをもう一度買いなさないといけない。
後、足のポーチも買わなければ。
せっかくお金が浮いたので足のポーチは新調することにした。
元々両足につけていたが片方だけ潰されてしまったせいで腰で固定している部分が壊れかけていた。
一応応急処置はできるがそのうち壊れてしまうだろう。
胸のポーチは幸いヨレヨレだがまだ使える。
そんなことを考えながら防具屋を出ていく途中、ちょうど店に入ってきた人がいた。
身長は自分より高かく、そしてとても細長かった。例えるなら枯れ木が立って歩いているイメージだった。
そいつは何といっても人の目を引きつけていた。
頭には王都の兵隊が被っているようなヘルムを被っている。
しかし、その体は枝のように細い。
そしてここが一番大事なのだが、彼は下着一枚とマント姿だった。




