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白馬のおうじ様誘惑作戦  作者: 宮月
10/10

10.白雪

最終話です。

 はい、その通りです、凰士。

聞こえるはずのない凰士の呟きが耳に届き、同じ気分を味わっているのを感じ取れる。

「トイレなんて言って、抜け出すなんて汚いわよ。」

「それは仕方ないんじゃない?」

「そうそう。邪魔しに来たのは私達だし。」

 三人三様に口を開く。私は無視して、さっさと浴衣を脱ぎ捨てた。

朝早いお風呂には先客はなし。私達の貸切状態だ。

「白雪、鏡を見た?」

「鏡?」

 首を捻りながら、脱衣所の片隅に置かれた姿見の前に立つ。

うわぁ、胸元にキスマークだらけ。もう、凰士ってば。

「さぞや、甘くて楽しい夜を過ごしたのね。」

「羨ましい限りだわ。」

「あら、美人だって、彼氏と頑張っているんでしょう。人の事を羨む必要ないでしょう。」

 この三人を止めるすべを知っているのなら、誰か私に教えて欲しい。

「白雪、喉痛くない?」

「別に。」

 風邪をひいているわけでもないし、カラオケに行ったわけでもないのに、何故?

「あぁ、そう。不思議ね。隣の部屋まで声が聞こえたから、てっきり。」

 うん?

「ちょ、ちょっと、待って。アンタ達、まさか、聞き耳立てていたの?」

「全然。聞き耳を立てる必要もないくらい、丸聞こえよ。こういう観光地のホテルは、壁が薄い場合があるから。」

「そうそう。お蔭で全然酔えなかったわ。」

「ど、どうして、アンタ達が隣の部屋にいるのよ?」

「私達の部屋は隣だと言ったでしょう。そこで飲み直していたのよ。」

 何も隣の部屋で飲み直す必要があるのか?絶対に計画的犯行。

「あぁ、お腹空いちゃったな。早くお風呂から出て、朝ご飯にしよう。」

 煩い三人を放っておいて、さっさと身体を洗い始める。

逃げるに限る。

「あら、白雪。結構、胸があるのね。」

 感心したように隣に座る美姫が覗き込む。

「そんなにじっくり見ないでよ。」

 胸を押え、ちらっと美姫の胸に視線を向ける。

「私と美人は同じくらいね。」

「私はいいのよ。モデルはあまり胸があってはいけないのよ。大切なのは全体のバランス。腰の括れとかね。」

「元、モデルでしょう。」

 沙菜恵と美人の間で火花が散ったが、無視。

「あら、そう言えば美姫。」

「うん?」

「凰士の事、もういいの?」

「あぁ、いいのいいの。だって、私、素敵な恋人が出来たもの。」

「ふぅん。」

「誰なのか、聞きたい?」

 美姫が含み笑いを零し、私の顔を覗き込む。

わかっているけど、聞いてあげようかしら?お優しい白雪様は。

「聞いてあげてもいいわよ。」

「まったく素直じゃないんだから。」

「えっ、何、何?美姫ちゃんの彼氏?」

 顔と口を挟んできたのは、先ほどまで火花を散らしていた二人。

「そうよ。私の素敵な彼氏の話。」

「へぇ、興味あるなぁ。」

「もしかして、美王さん?」

「あっ、わかる?」

 美姫が嬉しそうに微笑む。

美王、やっぱり告白したんだ。上手くいってよかったね。

「私からモーション掛けたの。」

「美姫から?」

「だって、いつまでも煮え切らないんだもん。苛々しちゃって。」

「あぁ、わかる。いつまでも煮え切らないヤツっているよね。」

 沙菜恵が同意している。それって、つまり、道路くんがまだ告白していないって事?きっと昨日の土曜日にでも告白しようと考えていたのが、この騒動でオジャンになったんだろうな。

「あら、沙菜恵さんにも好きな人がいるんですか?煮え切らない人。」

 美人と私がにやけた顔で、沙菜恵に視線を向ける。沙菜恵が横目で睨み付けるが、気にする必要もない。

「実は、ね。」

「どんな方なんですか?」

 美人と私は忍び笑いを零しながら、沙菜恵の出方を楽しんでいる。あぁ、性格悪い。

「あのね、年下でちょっと日本人離れした顔しているんだけど、さり気ない気遣いが出来る人なの。」

「それって、バレバレですよ。道路さんでしょう。それで隠したつもり?」

 一番性格の悪いのは美姫かもしれない。そう思ったのは、私だけじゃない様子。

「美人さんは?」

「彼氏がいるのよ。美容師をしていて、カリスマとか騒がれて、時々テレビにも出ているわ。だから、余計に忙しいみたい。」

「あぁ、ちょっと気障っぽい髪型しているけど、あんまり整った顔立ちと言えない人?それなのに、騙された女性ファンがきゃあきゃあ言っている。」

 美人は怒り出すかと思いきや、口を開けて唖然とするのみ。

「ちょ、ちょっと、美姫。失礼でしょう。」

「ごめんなさぁい。私、正直だから。」

 やっぱり性格悪い。お墨付きを上げるわ。それにしても美王も物好き。

「冷静な見方をしているのね。気に入ったわ。実は私も最近、そんな風に感じ始めていたの。あんまり会えなくなってから。」

 今度、唖然とするのは、私と沙菜恵。

「私もさっさとアイツとケリを付けて、年下の男の子でも見つけようかな?」

「吹雪くんがいいんじゃないですか?」

「吹雪?」

「そうすれば、この八人で行動するのに丁度良いじゃないじゃない。恋人じゃないのは、美人さんと吹雪くんだけだもん。」

 頭が痛くなってきた。のぼせたかな?

「それ、ナイスアイディア。」

「そうね。吹雪くんなら、合格点かな。」

 沙菜恵だけじゃなく、美人まで…。あぁ、本気じゃない事を祈るわ。

「ごめん、私、のぼせてきた。先に出るね。」

「あっ、そう。じゃあ、七時から朝食だから、ラウンジでね。」

 三人に手を振られ、一人、お風呂から出る。

さっさと部屋に戻って、冷たい烏龍茶でも飲もう。


 女湯の暖簾を潜ると、男湯の暖簾から出てきた凰士と鉢合わせ。

「皆は?」

「盛り上がっている。俺はのぼせてきたから、先に出てきた。」

「私も。呆れて逃げ出してきた。」

 二人で肩を竦め、苦笑い。

「部屋に戻ろうか?」

「うん。」

 凰士が右手を握り締め、にっこりと微笑む。少しだけ照れ臭い。

「浴衣も似合うね。」

「バカ。」

 凰士の身体に寄り添うように、身体を近付ける。

石鹸の香りに交じって、凰士の香り。

「まだ七時にもなっていなかったんだね。」

「そう。白雪が起きたのが六時。」

「起きたんじゃなく、起こされたの。」

「はい、はい。」

 甘い空気が漂っているだろう。自分でも感じるくらいだから。

「コーヒー牛乳、飲むだろう?」

「あるの?」

「売店で売っているよ。」

「やった。」

 途中、売店に寄ってから部屋に戻る。冷たいコーヒー牛乳を一気飲みして、ソファーに座り込む。

「白雪。」

 隣の座った凰士が腕を伸ばし、私を包み込んだ。

「本当に浴衣姿の白雪、色っぽい。」

「そうかな?」

「凄く。」

 そう微笑みながら、浴衣の襟の隙間から手を入れてきた。

「ダメよ。すぐに朝食なんだから。」

「少しだけ。」

 甘い声でそんな事を言われて、拒否れる余裕はない。昨夜だけで、それが気持ち良い入り口なのか、知ってしまった。

「着替える、ようなのよ。」

「後でね。」

 唇を塞がれる。これ以上、逃げる口実を言わせないためか?

「うぅん。」

 掠れた吐息が零れ、身体中が熱くなる。

あぁ、流される。流されてもいいかも…。

「ピンポーン。」

 やっぱりナイスタイミングで、邪魔者登場。私達の定めかもね。

「誰だよっ。」

 不機嫌そうに立ち上がる凰士。私は乱れた襟元を直し、大きく息を吐き出した。

「凰士くん、白雪ちゃん。朝食に行きましょう。迎えに来たよ。」

「来なくてもいい。」

「えっ、何か言った?」

 ドアの傍でおかしなやり取り。相手は吹雪だけなのかな?

「まだ浴衣なのかよ。さっさと着替えて、行くぞ。」

「はい、はい。」

 生返事をする凰士がおかしくて、笑ってしまった。

なんて呑気な事をしてないで、さっさと着替えましょう。私まで浴衣でいたら、何を言われる事か。

「へぇ、結構広い部屋だな。」

 隣の寝室に来て、よかったわ。リビング側では吹雪の声が聞こえる。

「あれ?白雪は?」

「寝室の方で着替えているんじゃないかな?多分。」

「じゃあ、凰士もさっさと着替えてこい。」

 吹雪は何を言い出すんだ?一緒に着替えろとでも言うのか?

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。」

 ドア越しに声を上げる。

「今更、照れる必要もないだろう。」

「何よ、今更って。」

 出ていきたくても出ていけない。まだ着替えが終わっていないから。

「甘い夜を過ごしたんだろう。隠す必要なんて、これっぽちもないだろう。」

 あぁ、どうして、私の弟は無神経なのだろう?

確かにその通りかもしれないけど、それ以前の問題でもある。

「あぁ、そっか。白雪の下着姿を見て、凰士に火が点いたらって心配しているのか?大丈夫だろう。理性で今まで抑えていたんだ。少しくらいの誘惑、どうって事ないよ。」

 どういう理屈だ?アホな理論を聞きながら、私の着替えは終わった。

「誰がそんな心配しているのよ。」

 ドアを勢いよく開け、仁王立ち。

「ほら、凰士がもたもたしているから、せっかくのチャンスを逃してしまったじゃないか。白雪の着替え、見たくなかったのか?」

 私って、頭痛持ちだったかしら?それとも視力が落ちた?

「見たかった。」

 口の中で転がすように呟く凰士。本当に溜息が漏れる日々。

「凰士、さっさと着替えてらっしゃい。」

「はぁい。」

 素直で扱い易いんだけど、根本的なバカは治っていないのよね。

「凰士の宣言は、合格点?」

 ソファーに偉そうに座った吹雪を見下ろし、首を捻った。

「宣言?」

「必ず満足させますって。」

 一瞬にして昨夜の事が蘇ってくる。憶えてなくても良いモノは忘れないのね。

「ふ、吹雪には関係ないでしょう。」

「関係あるだろう。だって、両親と俺の前で宣言したんだよ。実行されていないなら、問題が出る。」

 どんな問題だ?突っ込みたいが、言葉が上手く出てこない。

「まぁ、あれだけ喘ぎ声を上げていたんだ。満足しないはずがないだろうな。」

「なっ。」

 本当に悪趣味なヤツ等ばかりだ。

もう嫌だ。いつから私、イジラレキャラになったんだろう?凰士が悪いんだな。

「変態。」

 私がやっと言い返せた言葉だ。

「なぁ、凰士。凰士は白雪で満足できたわけ?もっと他の人を見付けてみようとか思わなかった?」

「思うはずがないだろう。白雪は、やっぱり最高の女性だよ。」

「だってさ。よかったな、白雪。」

 コイツは何が言いたいんだ?何がやりたいんだ?我が弟ながら、謎が多い。

「凰士も着替えが終わったな。皆が待っている。ラウンジに行こう。」

「うん。」

 吹雪がさっさと歩き出し、ドアに手を掛けた状態で振り返る。

「あっ、凰士、白雪。」

「うん?」

 二人同時に頷いた。

「俺があげたので間に合ったか?失敗して、子供作るのはまだ早いぞ。」

「吹雪ぃ。」

 私が大きな声を上げると、吹雪は笑いながら走り出した。逃げ足だけは速いヤツ。

「白雪と俺の子供なら、絶対に可愛いから、心配しなくてもいいよ。」

 と、呑気な呟きをする凰士もいる。

あぁ、これからもこんな疲れる毎日を送るのかな?でも、相思相愛の凰士と楽しい友達。幸せなのかな?なんて、ちょっと思う私。

「行こう。」

 凰士が私の右手を握り、微笑む。

「うん。」

 凰士の顔を見上げ微笑み返した。

うん、やっぱり、私、幸せだ。

次回から、『白馬のおうじ様求婚大騒動』を連載します。

こちらもよろしくお願いします。

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