お出かけ
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週末の朝。 人混みに流されるように改札を抜けると、章は辺りに目を凝らして見知った顔を二つ見つけた。
「こっちです!」
がたいが良い堅固の隣で元気いっぱいに手をふる楓は、年の離れたお兄ちゃんとお出かけする妹の様で、微笑ましい。
「お前が早く着いてるなんて珍しいな。今日はスコールでも降るんじゃないか」
「そんなことないですっ。今週の授業だって一回も遅れてないじゃないですか」
「まぁ、いっつもあと数秒で遅刻って感じだけどな」
章と楓は同じ一年四組。毎日顔を合わせるので、楓が教室に息を切らして駆け込んでくるのは章にとってお馴染みの光景だ。
堅固と愛は6組で、同じクラスにいる年数の記録が高校でも更新されそうだ、と笑いあっていた。
「残るは一人か。あいつの私服ってどんな感じなんだろうな」
「愛はそういうのに興味ないからな。…っと、どうやら到着したみたいだぞ」
着信を知らせるバイブ音がなり、スマートフォンを操作しながら堅固がそう言った。愛からのメールだろう。
章が注意深く構内になだれ込んでくる利用客を観察していると、先日と少しも違わぬ格好でこちらに歩いてくる愛がいた。
「こんなときまで制服きてくんのか…」
「あなたに見せる私服なんて無いわよ。お早う、堅固、楓ちゃん」
「おはようございますっ。早速ですけど、何処にいきましょうか?」
四人が初めて顔をあわせたあの日、喧嘩に対しての謝罪を込めて章は愛を焼肉食い放題に招待した。それなら私も、と楓が参加の意を示し、結局四人で街へ遊びに行こうということになったのだ。
「そうだ!せっかく街に来たんですから、愛さんのお洋服を見に行きませんか?」
「え?でも私そういう店に入ったことないし…」
「私がついてますから大丈夫です!愛さん可愛いから、絶対お洒落すれば大変身できますよ!」
「そんなこと…ないってばっ」
満更でもない様子の愛。だから何故そこで顔を真っ赤にするのか。
「俺も賛成だ。愛、小宮から色々教えてもらうといい」
「どうしてそうなるのよ…ひゃっ!?」
「さぁさぁ行きますよ愛さん!」
「ちょっ…一回落ち着いて!」
楓に手をひかれて、愛はつんのめりながら歩き出した。




