餌
⑹
「………」
「………」
少しでも目をそらせば殺られる、そんなピリピリとした空気が机をはさんでにらみ合う少年と少女の間に流れていた。
「愛さん…章さん…」
これから何が始まるのか知らない楓は、章と愛の間であわあわと視線を彷徨わせている。
ガタン!という音に驚いて目を閉じた楓が恐る恐る薄目を開くと、
地に額を擦り付けている章の姿があった。
「すまんかった‼︎」
目の前の男の思いもよらぬ行動に一瞬ひるんだような表情をみせた愛だが、すぐにまた傲岸不遜な態度を取り戻す。
「ついカッとなった俺が悪かった。もうあんな真似はしないと約束するから、どうか許してくれ」
「自覚があるのはいいことなんじゃないかしら。これからは己の行いを悔い改めなさい」
いつもであれば掴みかかるくらいに腑が煮えくり返っているところだが、今日の章は一味違う。
「本当に君の言う通りだ。お詫びと言ってはなんだが、今度ご馳走させてくれないか?」
「何それ、もしかしてナンパ?これだから盛ったオスって嫌なのよ」
容赦の無い言葉で滅多打ちしてくる愛に、章は芝居がかった様子で残念そうな表情を作った。
「それは残念だなあ。せっかく焼肉食い放題」「行くわ」
「…に行こうとおもってたのに」
章が言葉を紡ぎ終えない内に、愛からの肯定の返事が被せられた。
急に態度が豹変した愛に、堅固と楓の目が点になっている。
(計画通り)
章は一人、口の端を吊り上げ邪悪な笑みを浮かべていた。
「せっかくのお誘いだし、参加させていただくわ」
(…肉に釣られたな)
(…肉に釣られたんですね)
章に餌付けされてしまった愛に、納得の表情をみせた堅固と楓であった。




