退避
⑸
「本当にすまなかった…!」
章の前で深々と頭を下げる堅固。
いまにも取っ組み合いを始めそうな章と愛は、店中の注目を集めていた。それを見かねた堅固が、章を連れて一時退避を計ったのである。
「顔あげてくれよ」
確かに愛の態度はとても初対面の相手に対するものとは思えなかったが、このまま堅固に頭をさげさせているのは大人気ないと思ったのだ。
「俺あいつになんか怒らせるようなことしたか?俺と話してるときだけまるで別人だぜ」
「愛のああいう性格を知ってて紹介した俺が全面的に悪いんだが…昔から初対面の人間には壁をつくってしまう奴なんだよ」
「でも楓とは特にぎくしゃくはしてなかった気がするぞ?」
「基本的に男性不信なところがあるからなあ。中学三年間同じクラスで過ごしてきたが、まともに口をきいてくれたのは2年も冬という頃だった」
「そいつぁ難儀だな…」
とても人付き合いに向いた性格とは思えない。おそらく堅固と愛の過去には数知れぬ苦労話があるのだろう。
「友達も多くはなかったし、歯に衣着せぬ物言いで周りに敵をつくることもよくあった。高校では、人間関係が一新されるだろう?この機会に周りと上手くやれるようになってほしくて、お前に紹介したんだが…完全に裏目にでてしまったな」
そういった堅固は、寂しそうな表情をしていた。
「よし、始めるとしようぜ、佐伯愛デレ化計画を」
「協力、してくれるのか?」
「俺のときみたいに、喧嘩をとめてくれるやつがいつもいるとは限らねえだろ?何か起こってからじゃ遅いからな」
「ありがとう。恩に着る」
正直な所、章は初め愛をどうにかしてやろうという気持ちではなかった。出会い頭に罵倒してきた人間に気を遣ってやるほど、章は懐が広くない。
だが、堅固がここまで真剣に心配しているのだ。きっと話の通じないヤツじゃない。
「まずは仲直りからだよな」




