乾杯
「え〜…では今日という一日に?乾杯!」
「「「かんぱ〜い」」」
乾杯の音頭を主催者である章がとることになったのだが、どう言えばよいか知らなかったのでおかしなフレーズになってしまった。四人はグラスを突き合わせているが、もちろん中身はノンアルコール飲料だ。
「今日は愛が主役と呼ぶにふさわしい一日だったな」
堅固が開口一番に話題にしたのは、焼肉屋に着くまでの一連の騒動だった。
「全くだぜ。どんだけ注目集めてたとおもってんだ」
「それをアンタに言われる筋合いは無いわ」
「まぁまぁお二人とも、今はお食事を楽しみましょう」
「楓ちゃんの言う通りよ」
「お前ホントに楓には甘々だよな」
「知らなかったの?可愛ければ許されるのよ」
早くも火花を散らしはじめる二人をおいて、楓と堅固は店員に最初の注文をしている。
「つっても、お前は可愛くても許せねえがな」
「…は?」
「どうした?…あっ」
「章…」
「章さん…」
三人いっせいに生温かい目線を向けられて、章はようやく自分が素で恥ずかしいことを言ってしまったことに気がついた。
「クソ、口がすべった!今のはナシだ!」
「アンタって奴は懲りもせずそういう恥ずかしいことを…!」
パァン‼︎という小気味良い音と共に章の頬に紅葉が描かれた。




