家路
それから、しばらくは愛と章の間に妙な空気が流れていたが、肉がテーブルに運ばれてくると愛はもはやどうでも良くなってしまったらしい。次々に肉を網に投下し、じっと食べるタイミングをはかっている。
「なんでいっつも叩くんだよあいつ…」
目に薄っすら涙を浮かべて愚痴る章。
「そう気を落とすな。俺も最初は事あるごとに叩かれてた」
「いや、そういう問題じゃなくね…?」
章は、懐かしむように微笑をたたえている堅固に半眼を向ける。マゾの気でもあるのだろうか。
「お前が佐伯に叩かれるようなことするとは思えないんだが」
「お前にはバレてしまったから言うが…」
「ん?」
女子二人には聞こえぬように、堅固が身を寄せてきた。
「(俺は愛に何度か告白したことがあるんだ)」
「(マジでか…‼︎)」
男の目からでも随分な男前に見える堅固なだけに、フられた事があるという事が章には意外に思えた。
「まぁその度にビンタで返り討ちにされたけどな」
「お前よくそんな女に惚れるよな」
悪くいえば懲りない男、なのだろうが、よく言えば真っ直ぐな所は堅固らしいのだろう。
「因みに何回ぐらいしたんだ?」
「学年が変わる直前に毎回してたから、三回ということになるか」
「攻略難度高すぎだな」
「愛は色恋には興味ないからな…」
呆れを通り越して、章は堅固に同情を抱き始めた。せっかく高校でも一緒になれたのだから、是非とも報われて欲しいものである。
過去の失恋話に花を咲かせる男どもの対面では、「勉強教えてくださ〜い」とか、「何でも教えてあげるわよ…」などという百合百合しい会話が交わされていた。
「それにしても、」
楽しげな愛の様子をながめながら、堅固がぽつりと呟いた。
「こんなに楽しそうな愛は初めてみたよ。お前のお陰だな、章。感謝するよ」
「んな水くさいこと言うなって。俺がしたのは、この会のお膳立てくらいのもんだよ。でもまぁ…」
章も、わいわいとはしゃいでいる愛の横顔に目をやる。
「もう問題なさそうだな」
「あぁ」
それから四人は気の向くままに雑談をしながら、しばしの時を過ごした。変わったことはと言えば、愛のペースが速すぎて他の三人がグロッキーになったことぐらいのものか。
「じゃあまた学校でな」
「あぁ、また」
「みなさんまたお食事いきましょう!」
「そうね、じゃあまた」
各々、思い思いの別れの挨拶をかわし、帰路につく。
明日のことを考えると、学校に行くのが章は今から楽しみだった。
はじめまして、しばと申します。「日常の章」は僕の処女作です。このような拙い文章をお読み頂いた方、本当にありがとうございます。今後も投稿する機会がありましたら、よろしくお願い申し上げます。




