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転生したら最強種だけどレベルが最弱でした。  作者: マッティー
第二章 広がる世界

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222/323

第二百二十二話 終焉竜成体

長い時間を掛け、少しずつ積み重ねてきたユウト。


その歩みは、ついに新たな段階へ――。


それでは、第222話をお楽しみください!

「……ついに来たか」


 目の前に浮かぶ文字を見つめながら、ユウトは小さく呟いた。


 つい先ほどまで響いていた訓練場の音が、どこか遠く感じられる。


 いつか訪れるとは思っていた。幼体から幼生体へ進化した時から、次の段階が存在することは分かっていたのだから。


 それでも、実際にその時を迎えてみると、不思議なほど現実味がなかった。


 ◇


《終焉竜・成体への進化が可能です》


《進化を実行しますか?》


 ◇


 補佐機構の表示は、ユウトの返答を待つように静かに浮かび続けていた。


(……進化、か)


 ユウトはゆっくりと息を吐いた。


 迷う理由などなかった。


 地下遺跡で出会った黒翼の男。あの圧倒的な存在を前にした時、自分たちは何もできなかった。


 リトの剣は指二本で止められ、相手は最後まで余裕を崩さなかった。もし本気で戦うことになっていたら、どうなっていたのか想像もつかない。


 今のままでは、あの男には届かない。そのことを、嫌というほど思い知らされたのだ。


 それに、ここまで来るためにも随分と長い時間を掛けてきた。


 幼体から幼生体へ。そして今日まで、何度も戦い、何度も傷付きながら、少しずつ力を身に付けてきた。


 自分の中に眠る膨大な魔力すらまともに扱えず、つい先ほどまで小さな炎一つ作ることができなかった。それでも諦めず、シエルに教わりながら訓練を続けてきたのだ。


 その先に、ようやく次の道が開いた。


「……やる」


 ユウトは静かに頷いた。


「進化してくれ」


 迷いのない返答だった。


 その言葉に応じるように、目の前の表示が切り替わる。


 ◇


《承認》


《終焉竜・幼生体から終焉竜・成体への進化を開始します》


 ◇


 その瞬間だった。


「っ――!?」


 身体の奥から、凄まじい熱が込み上げてきた。


 胸の奥で生まれた熱は腹部から背中へと広がり、瞬く間に全身を駆け巡っていく。


 予想していなかった感覚に、ユウトは思わず身体を強張らせた。


「ユウト!?」


 異変に気付いたシエルが、慌てて駆け寄ろうとする。


 少し離れた場所で訓練していたリトとシアも動きを止め、同時にこちらを振り返った。


「待って……大丈夫だ」


 ユウトは片手を上げ、シエルを制した。


 声は出せるし、意識もはっきりしている。身体の内側から焼かれているのではないかと思うほどの熱を感じているものの、不思議と痛みはなかった。


 それどころか、どこか心地よささえ感じられる。


(……何なんだ、これ)


 ユウトは自分の胸元へ手を当てた。


 全身を駆け巡る熱とともに、身体の奥深くで何かが変わり始めている。


 まるで、長い間自分を縛り付けていた鎖や枷が、一つずつ砕けていくような感覚だった。


 これまで身体の奥底に押し込められていた何かが、ようやく解き放たれようとしている。


「……すげぇ」


 思わず声が漏れた。


 次の瞬間、ユウトの身体から膨大な魔力が溢れ出した。


 ドンッ――!


 目には見えない衝撃が訓練場を駆け抜ける。


 足元の砂埃が円を描くように吹き飛ばされ、周囲の木々が一斉に大きく揺れた。


「うわっ! な、何なんすか、これ!?」


 シアが慌てて腕で顔を庇う。


 普段から膨大な力を持つ黒龍であるシアでさえ、その魔力量には驚きを隠せなかった。


「おいおい、アニキ……どうしちまったんだよ……!」


 リトも思わず一歩後ずさった。


 剣を握ったまま、目の前で起きている光景を呆然と見つめている。


 一方、シエルは何も言わなかった。


 吹き荒れる魔力の中で目を細めながら、ユウトの身体に起きている変化を注意深く観察していた。


「……これ、進化なの……?」


 誰に聞かせるでもなく、小さく呟く。


 やがて、ユウトの身体が淡い光に包まれ始めた。


 足元から腰、胸へと光が広がり、最後には頭の先まで眩い輝きに覆われていく。


「……っ!」


 ユウト自身にも、身体が変わっていくことがはっきりと分かった。


 骨格や筋肉、血の流れから魔力の巡り方に至るまで、身体を構成するあらゆるものが変化している。


 まるで、これまで自分の身体だったものが一度細かく分解され、より適した形へ組み直されているような奇妙な感覚だった。


 腕が軽い。脚にはこれまで以上の力が満ち、呼吸をするだけで全身へ魔力が行き渡っていく。


 しかし、何より大きく変わったのは、自分の内側にある力との距離だった。


 今まで遠くに感じられていた膨大な魔力が、次第に自分自身と馴染んでいく。


 どれほど意識を集中させても、思うように扱うことのできなかった力。それが今は、最初から自分の一部だったかのように自然に感じられるのだ。


(……これが、進化……)


 どれほどの時間が経ったのかは分からない。


 ほんの数秒だったのかもしれないし、もっと長かったのかもしれない。


 ただ、全身を包んでいた熱が次第に落ち着いていき、身体の内側で起きていた変化もゆっくりと収まっていった。


 そして――。


 ◇


《進化完了》


《個体名 ユウト》


《種族 終焉竜・成体》


 ◇


 その表示と同時に、荒れ狂っていた魔力が嘘のように静まった。


 周囲の木々が揺れを止め、舞い上がった砂埃がゆっくりと地面へ落ちていく。


 ユウトを包んでいた光も次第に薄れ、訓練場には再び静寂が戻ってきた。


「…………」


 ユウトはその場に立ったまま、自分の身体を見下ろした。


 手や腕、脚を順番に確認してみる。


 見たところ、極端に身体が大きくなったわけではない。以前と比べても、外見上の変化はそれほど大きくないように思えた。


 だが、明らかに何かが違っている。


「……ん?」


 最初に違和感を覚えたのは、背中だった。


 いつもなら、意識しなくても感じられるものがある。


 自分の身体の一部として、何度も見慣れてきたもの。


 ユウトはゆっくりと背後へ手を伸ばした。


「……尻尾がない」


 思わず呟く。


 いつもならそこにあるはずの尻尾が、綺麗さっぱり消えていた。


「えっ!?」


 シアが慌ててユウトの後ろへ回り込む。


 そして、信じられないものを見るように目を丸くした。


「ほんとっす! 主、尻尾がなくなってるっす!」


「……マジか」


 ユウトは驚きながらも、今度は自分の頭へ手を伸ばした。


 いつもなら、髪の間から伸びる角に指先が触れるはずだった。


 だが、何度確かめても、そこにあるのは髪だけだった。


「……角もない」


 額から頭の左右まで触ってみるが、やはり何もない。


 鏡がないため自分の顔までは確認できないものの、これまで人化しても残っていた終焉竜としての特徴が、完全に消えているようだった。


「……すげぇな」


 ユウトは自分の額を触りながら呟いた。


 角も尻尾もない、完全な人間の姿。


 転生してからというもの、どれほど人間に近い姿になろうとしても、あの二つだけはどうしても消すことができなかった。


 それが、成体へ進化した途端に消えてしまったのだ。


「主……」


 シアが目を丸くしたまま、ユウトを上から下まで眺めている。


「何だよ?」


「……人間みたいっす」


「いや、元々人間だったんだけどな」


 ユウトは苦笑した。


「そう言われると、何か複雑なんだけど」


 そんな二人のやり取りを聞いていたリトも、腕を組みながら何度か頷いた。


「確かにアニキ、見た目だけなら普通の人間だな」


「見た目だけならって何だよ」


「いや、存在感は全然普通じゃねぇから」


「……それ、褒めてるのか?」


「たぶん?」


「たぶんなのかよ!」


 いつもの調子で言い返すと、リトが豪快に笑った。


 シアもつられるように笑い始め、進化の最中に張り詰めていた空気が、ようやく少しだけ和らいでいく。


 しかし、ユウトはすぐに自分の身体へ意識を戻した。


 変わったのは、決して見た目だけではない。


「……何だ、これ」


 ゆっくりと右手を開く。


 すると、身体の中を巡る魔力の流れが、驚くほど鮮明に感じられた。


 これまでの魔力は、例えるなら巨大な水の塊のようなものだった。


 確かにそこに存在しているのに、どこへ流せばいいのか、どれほどの量を使えばいいのかが分からない。


 無理やり掴もうとすれば、指の間からこぼれ落ちてしまう。そんなもどかしさが常につきまとっていた。


 だが、今は違う。


 胸の奥から肩へ、腕を通って指先へ。あるいは脚を伝い、足先へ。


 身体中に張り巡らされた魔力の流れを、はっきりと感じ取ることができる。


 それだけではなかった。


 どこへ、どれだけの量を、どのような速さで流せばいいのか。


 そのすべてが、まるで最初から知っていたかのように直感的に理解できるのだ。


「……ユウト?」


 シエルが声を掛けた。


 しかし、ユウトはすぐには答えなかった。


 何かに気付いたように、静かに右手を持ち上げる。


 そして、手のひらを上へ向けた。


「……まさか」


 シエルも、ユウトが何をしようとしているのか察したらしい。


 ユウトはゆっくりと目を閉じた。


 思い描くのは、昨日まで何度挑戦しても形にならなかったもの。


 赤く揺らめく炎と、その熱。


 ただ、それだけだった。


 これまでのように時間を掛けて魔力を集める必要はなかった。


 まるで指を曲げたり、腕を持ち上げたりする時のように、ただそうしようと考えるだけで、魔力が自然と手のひらへ流れていく。


 そして。


 ボッ――。


「…………え?」


 ユウトはゆっくりと目を開いた。


 手のひらの上で、小さな炎が揺らめいていた。


 紛れもない赤い炎。


 昨日まで何度挑戦しても、一瞬だけ赤く光って消えてしまっていたものが、今は何の苦労もなくそこに存在している。


「……出た」


 ユウトは呆然と炎を見つめた。


「出たぞ……!」


 試しに、もう少しだけ意識を強めてみる。


 すると、炎はその動きに合わせるように一回り大きくなった。


「……おぉ!」


 さらに魔力を流すと、炎が勢いよく燃え上がる。


「ちょ、主! それ以上は危ないっす!」


「あ、悪い!」


 シアの声に、ユウトは慌てて魔力を抑えた。


 すると、先ほどまで勢いよく燃え上がっていた炎が、すぐに小さくなっていく。


 そのまま魔力の供給を完全に止めると、炎は音もなく消えた。


「…………」


 ユウトは何もなくなった右手を、しばらく見つめていた。


 つい先ほどまで、あれほど苦労していた魔力操作。


 それが今では、自分の手足を動かすのと同じくらい自然にできてしまう。


 炎を大きくすることも、小さくすることも、消すことさえも思い通りだった。


「……何なんだよ、これ」


 驚きを隠せないユウトの隣で、シエルも僅かに目を見開いていた。


 つい先ほどまで魔力操作を教えていた本人だからこそ、その変化がどれほど異常なものなのか、よく分かるのだろう。


「……魔力の流れが、まるで別物ね」


「ああ」


 ユウトはゆっくりと頷いた。


「今なら分かる気がする」


 昨日までの自分は、魔力を集めるだけでも神経を使い、そこから形を与えようとすれば、すぐに崩れてしまっていた。


 それは単純に、自分の技術が足りないからだと思っていた。


 もちろん、魔力の扱いが未熟だったことも事実だろう。


 だが、それだけではなかったのだ。


「……今まで魔法が使えなかったんじゃない」


 ユウトは自分の胸へ手を当てた。


「使える身体じゃなかったんだ」


 幼生体の段階では扱うことのできなかった力。


 それが、成体へ進化したことで初めて解放された。


 今なら、そのことが感覚としてはっきりと理解できる。


「……なるほどね」


 シエルも納得したように頷いた。


「だから今まで、あれだけ魔力があるのに形にできなかったのね」


「……たぶんな」


 ユウトは苦笑した。


 それを知らずに何日も練習を続けていたのだから、何とも言えない気分だった。


 しかし、無駄だったとは思わない。


 あの訓練があったからこそ、魔力を扱うことの難しさも、今起きている変化の大きさも理解できるのだろう。


「じゃあ、これからは魔法も使い放題ってことっすか!?」


 シアが目を輝かせた。


「使い放題って言い方はやめろ。絶対ろくなことにならないから」


「主なら大丈夫っす!」


「その根拠のない信頼が怖いんだよ!」


 ユウトが思わずツッコミを入れた、その時だった。


 ◇


《成体への進化に伴い、新たな能力が解放されました》


 ◇


「……ん?」


 ユウトは再び視線を上げた。


「まだあるのか?」


 補佐機構は、その問いに答える代わりに新たな情報を表示した。


《完全人化を獲得》


《竜化を獲得》


《魔力制御能力を獲得》


「……完全人化」


 ユウトは自分の身体へ視線を落とした。


 角と尻尾が消え、完全な人間の姿になった理由は、おそらくこれだろう。


 そして、もう一つ気になる能力があった。


「……竜化?」


 今の自分は、人間と見分けがつかない姿をしている。


 だが、竜化という名前から考えれば、必要に応じて竜の姿にも戻れるということなのかもしれない。


(……なるほど。そういうことか?)


 ユウトは確かめてみたい衝動に駆られたが、今はまだその能力について何も分かっていない。


 どう使うのかも含め、後で確認する必要がありそうだった。


 そんなことを考えていると、補佐機構の表示が再び切り替わった。


 どうやら、能力の解放はまだ終わっていないらしい。


 ◇


《新たな権能を獲得しました》


 ◇


「……権能?」


 ユウトは思わず眉を寄せた。


 能力やスキル、魔法については、これまで何度も耳にしてきた。


 だが、権能という言葉は違う。


 少なくとも、補佐機構がわざわざそう区別して伝えてきたことには、何らかの意味があるはずだった。


(……何だよ、今度は)


 ユウトは表示を見つめたまま、次の言葉を待った。


 シエルたちには補佐機構の文字が見えていない。


 それでも、ユウトの表情が変わったことに気付いたのか、三人とも何も言わずに様子を見守っていた。


 そして、視界の中央に最後の文字が浮かび上がる。


 ◇


《固有権能――【竜王の恩寵】を獲得しました》


 ◇


「……竜王の、恩寵?」


 ユウトは聞き慣れない言葉を、確かめるように口にした。


「……何すか、それ?」


 シアが不思議そうに首を傾げる。


「いや……俺にも分からん」


 ユウトは目の前の表示を見つめたまま答えた。


 成体へ進化したことで、これまで使えなかった魔法が使えるようになった。


 完全な人化も可能になり、竜化という新たな能力まで手に入れている。


 それだけでも、今回の進化によって得たものはあまりにも大きい。


 だが、最後に告げられた固有権能という力には、それらとはどこか違うものを感じていた。


 まだ、その能力が何を意味するのかは分からない。


 どのように使うものなのか、そしてこの先どれほど大きな意味を持つことになるのかも、今のユウトには知る術がなかった。


 ただ、一つだけ確かなことがある。


 終焉竜は今、幼生体という段階を終え、確かに新たな領域へと足を踏み入れたのだ。

第222話を読んでいただきありがとうございます!


ついにユウトが【終焉竜・成体】へと進化しました!


完全な人化、魔力制御、そして新たに獲得した能力の数々。


これまでできなかったことが一気に可能となり、ユウトの戦い方も大きく変わっていくことになります。


そして最後に現れた、新たな固有権能【竜王の恩寵】。


果たして、この力が意味するものとは――。


新たな段階へと進んだユウトの活躍を、次回もぜひお楽しみください!


「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!


それでは、また次回お会いしましょう!

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