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異世界管理局  作者: 城河 ゆう
第二章 機心界編

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5話

「――ぐぅ……痛たた……ここは?」


 ふわりとした浮遊感の後、ドサッと腰から地面に倒れ込んだ私は、痛みの走る腰をさすりながら立ち上がると、周囲に視線を巡らせる。


 未だに少し朦朧とする意識の中、開いた目に写ったのは、見知らぬ場所だった。


 360度、まさに荒野と言った感じの場所で、まばらに生えた草木にも、あまり生気は感じられなかった。


「……サッちゃん、聞こえる~?」


 微かな望みを込めて、ボディの無線機能に使い声をかけてみるが、応答は無し。



 これは、本格的に“遭難”したかもしれない。



 せめてシステム的に繋がってさえいてくれれば、ボディを破棄して元の身体に精神を戻せば良いんだけど……。


 サッちゃんとの接続も切れてるって事は、ここは恐らく、元の世界どころか幽幻界ですらない、私達がまだ知らない異世界の可能性が高い。


「って事は……暫くは安全第一にしないとね」


 システムとこの身体のリンクが完全に途切れてるなら、万が一このまま死んだ時、私の精神は帰り道が分からず、迷子になった挙げ句、この世界で消滅してしまうだろう。


 そうなれば、もはや元の身体は“ただ生きているだけ”の抜け殻状態。


 是が非でも、そんな状況は避けたいところだ。


 ……となると、今まずするべきなのは――


「――装備のチェックと、状況の確認……っと」


 周囲を警戒しつつ、左腕のガントレットや服やコートのポケットに入っている道具類を確認していく。


「(装備の方に問題は無さそうね)」


 こうなって来ると、汎用のG型で出てたのは、ある意味正解だったかもしれない。


 後は、ここがどんな世界なのかが分かれば良いんだけど……ちょっと移動しながら、住民探してみようか――


そう結論出して、移動を開始しようとした、直後。


 ドッ、ドッ、ドッとお腹に響くような、大きな音が響いかと思うと、激しい土埃を上げながら“何か”が接近して来た。


「――っ!?」


 咄嗟に身構えて、近付いてくる“何か”を注視し――


「――はぁ?? 恐竜!?」


 ――見えてきたその姿は、映画なんかでもお馴染みのティラノサウルス。

 違いがあるとすれば、その全身が金属で形作られている、と言う事だろうか。


 とは言え、ロボットにありがちな動輪駆動ではなく、二本脚で走っているためか、そこまで非常識な速度ではないようだ。


 現実の身体じゃないし、あれならギリギリ逃げ切れるかもしれないけど……


「……一応、安全マージンは高めに確保しときますか……。 まんま機械な見た目してんだから、ちゃんと効果出てよ~? そぉ~れ、っと」


 腰ベルトに取り付けてあった手榴弾を手に取り、ピンを抜いて投げ付けた。


 そして、放物線を描いて飛んで行った“ソレ”が、接近して来ていたメカティラノの手前で炸裂する。


 Gyaooooo!!?


 構わず突進して来ようとしたメカティラノだったが、手榴弾が巻き上げた粉塵に触れた辺りで、戸惑うような咆哮を上げながら脚を止めた。


「よっし! 効果アリ! 今のうちに――」


 想定よりしっかりと効果が出た事に、小さくガッツポーズをしながら、即座に身を翻してメカティラノから離れるために走り出す。


 その直後――


 ブォーンと言う重低音を響かせながら、一台の屋根無しジープが走って来て、私の進路を塞ぐように急停車した。


「――――っ!」

「徒歩で逃げ切るのは無理だよ! 乗って!」


 乗っていたのは男女の二人組。


 その助手席に座る女性が、乗り出すようにしながら、こちらに声をかけてきたのだ。


 どうするか悩んだのは一瞬。


 少なくとも、あのメカティラノよりは話が通じそうだ、くらいの軽い気持ちで、停車しているジープの後部座席に飛び乗った。


「全速で逃げるぞ。 しっかり掴まってろ」


 言うが早いか、運転手の男性は言葉通りにアクセルを思いっきり踏み込んで、ジープを急発進させる。


 それとほぼ同時に、後方から大きな咆哮が聞こえ、再びドッ、ドッ、ドッと足音が響き始めた。


「町のそばに近付けるわけにはいかないし、適当に流して撒いちゃおう」

「……わかってる」


 半ば吹き飛ぶような速度で爆走するジープ上で、当たり前のように話す二人を見て、きっと彼等にとって、今みたいな状況は日常茶飯事なのだと感じる。


 今の私みたいに、耳がスピーカーになってるような、作り物の身体じゃない筈なのに、これだけビュンビュンと風の音がしている中で、平然と会話が出来ているのは、やはり慣れて(・・・)いるからなのだろう。




 それから暫くして――



「縄張りからも離れてるし、もう大丈夫かな。 あなたも怪我――は、無さそうだね」


 巡航速度まで減速したジープの助手席から、女性が後ろを振り返りつつ声をかけてきた。


「えぇ、おかげさまで。 助かりました」

「いいのいいの、お互い様って事で。 ……こっちとしても、ちょっと聞きたい事があったし、ね」


 そう言いながら、女性は目を細め、ジッとこちらを見つめてくる。


「ここには来たばかりだから、分かる範囲でなら答えるわ」

「なら早速……何故あの場所にいたの?」


 いきなり、答えにくい質問だった。

 そもそも私は、来たくて来たわけですらないのだ。


 とは言え、別に隠すような事でもないし……まぁ、ある程度なら言っちゃってもいいか。


「――信じるかどうかは任せるけど、“敵”との戦闘中に転移させられて、気付いたらあの場所にいたわ」

「なるほど。 って事は、やっぱりこの辺の――いや……この世界の人間じゃなかったって事か……」


 そう言って、女性は「ふむ……」と考え込むような仕草をする。


「……自分で言うのもアレなんだけど、信じるの?」

「ん~……まぁね。 嘘言ってるようには感じなかったし、ある程度予想はしてたから」


 そう前置きして語られた内容に、私もなるほど、と納得させられた。


 曰く、この辺りに住む人間で、さっきのメカティラノの縄張りを把握できてない人がまずいないと言うこと。


 これは、近寄って下手に刺激した後、下手に逃げて町を襲われると困るため、近隣の町では必ず、あの辺りに近付かないようにする事と、万一遭遇した時、完全に撒いてから町に戻るか、大人しく食い殺されろ、と言う“教育”がされるらしい。


 つまり、最初に遭遇した時の慌てた反応を見ていて、メカティラノの情報が全く無い場所から来た可能性が高い、と思っていたのだとか。


「じゃあ、最初から見てたってこと?」

「私達はたまたま通りがかっただけだけどね~。 事情を知っててわざわざ来た自殺志願者なら放置一択。 万が一そうじゃなかったなら、助け出して話を聞こうと思ってね、少し待ってたってワケ」


 見てたんなら初めから助けて欲しかったものだが、話を聞く限りは“これ”が普通の世界らしい。



 無条件で他人を助けられる程の余裕も、義理もない、って事なんだろう。



「あとは、あなたが着ている服。 世界中がくまなく滅ぼされかけているはずなのに、そんな、日々の食事にすら困るような場所で生きてる人間にしては、あまりにも服が綺麗すぎる。 だからいっその事、“別の世界”から来たって言われた方が、まだ納得できると思ったってワケよ」

「……なるほど。 今の話を聞いて、私もある程度は現状が把握できた。 ありがとう」


 とりあえず、ここが全く知らない“異世界”である事が確定した。

 

 そしてこの世界は、何らかの理由で滅びかけているらしい。



 ただ――元々“そう言う世界”だと言う可能性もあるけど……



「それにしても、別の世界から転移して来て、最初に遭遇したのがGレックスって……ツイて無さすぎだね」


 得られた情報を頭の中で整理していると、努めて明るい雰囲気で、そう声をかけられる。


「Gレックス?」


 名前の感じからしても、たぶんさっきのメカティラノの事なんだろうけど……

 それならTレックスとか、いっそメカなんだから、M(メカ)レックスとかの方が――


「さっきのアイツの名前よ。 ジェノサイドレックス――それが、アイツに付けられた個体名称なの」

「ジェ……ジェノサイド……?」


 ――めちゃくちゃ、物騒な名前だった。


「そう。 数年前に起こった、とある事件を切っ掛けに、全人類の抹殺を掲げ、世界中に対して反乱を起こした、“クイーン”の手駒の一つ」

「全人類の抹殺!?」


 さっきの“滅ぼされかけてる”ってそう言う意味だったの!?


 これは、どう考えても“こう言う世界”ってわけじゃなさそうだ。


 って事は、この世界は何らかの“イレギュラー”によって、本来の姿が歪められてしまった世界の可能性もあるって事か……



 って……ちょっと待って――



 さっきのGレックスみたいなのが手駒?



 じゃあ、反乱を起こした“クイーン”って、まさか――


「ほとんどの物がAIによってオートメーション化されていた世界で、人類に対し『汚し、奪い、消費し、壊すだけの、世界の害悪(ゴミ)』として抹殺を宣言したのが――当時世界中で稼動していた全てのAIを統括管理していたスーパーAI――“クイーン”なのよ」

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