幕間1
「え? 副長~!? 応答してください~! 副長~!」
緊急だと連絡を受けて事務所に戻った時、室内は騒然としており、オペレーターの有田が悲鳴かと思う程の声を上げながら、通信用マイクで霧島に呼び掛けていた。
「すまん、遅くなった! 霧島がどうした?」
「――あ……きょ……局長~」
なんだかんだ言って、大阪や福岡の支部を含めても、実力トップクラスの霧島が出た以上、余程の事がなければ対応可能だと思っていたが……
こちらに気付いた有田の泣きそうな顔と、続く言葉に――
「ふ……副長の、反応が……ロ、ロストしました……」
――その“余程”が起きたのだと理解させられた。
「ロスト? とりあえず、落ち着いて話せ、何があった?」
「はい……アラートが鳴って――」
時折、鼻を啜りながらも、記録した映像やログを交えつつ説明してくれる。
巨大な界孔と、謎の人物がモニターに映し出された所で、ふと気になって周囲を見渡した後、部屋の奥に設置された、体換用精神潜行装置に視線を向けた。
そこには、“稼働中”になっている物が二台ある。
「出動したのは二人だったな……神埼はどうした? ……まさか――」
「副長の指示でポイントまで戻って貰った後~、緊急送還したので、今は精神の負担軽減のために体戻処理を少し念入りに行っています~。 でもそろそろ終わる頃かと~」
それを聞いて、「そうか」と、溜め息を一つついたタイミングで、一番端のダイブマシンが開き、神埼が半ば這い擦るように出て来ると、そのまま駆け寄ってきて、掴みかかりそうな勢いで有田に声をかけた。
「有田さん! 副長は!?」
「………………」
有田が泣きそうな顔のまま、無言で神埼を見た後、俺の方へ視線を移す。
そこでやっと、俺の存在に気付いたらしい。
「きょ、局長! すみません、お疲れさまです……」
「構わん。 それより、霧島の反応がロストしたらしい。 現場に居たお前からも話が聞きたい」
「ロスト!?」
俺の言葉を聞いて、ギョッとした顔をする神埼だったが、すぐさま神妙な顔になって、言葉を続けた。
「――って事はあの後、副長は結局アイツにやられて……」
「いや、正直殺された方がマシだったかもしれん。 幽幻界でなら、仮に出動用のボディが消滅しても、ダイブマシンで精神だけサルベージして、戻って来られるからな」
霧島の事だ、神埼だけ逃がして、最悪自分は死に戻りするつもりだった可能性もある。
――だが。
「だったら、反応のロストって言うのは、殺されたって訳じゃないんですか?」
「あぁ。 文字通り、ロストだ。 幽幻界から反応が消え、視界リンクを含めたシステム上の繋がりも、全て途絶えたらしい」
そう言いながら、確認していたログの続きをチェックしていく。
霧島の視界や耳を共有しているせいで、周囲の状況が分かりにくかったが、逆にしっかりと確認出来たこともあった。
まずは、巨大界孔の周囲に張られた結界。
これは、有田に解析して貰ったところ、どうやらかなり丈夫らしく、少なくとも、誰かが誤って界孔にはまる心配は、当面の間無さそうだった。
干渉できない以上、こちらも界孔を閉じられないわけだが、決して悪いばかりの状況では無いと言える。
そしてもう1つが――
「アインツ・ヴォルフ。 そして、ヴァーチャーズ……か」
「何者、なんでしょうか~?」
――謎の人物についてだ。
もっとも、名前はもちろん、組織名とおぼしき名称も、聞き覚えはなかったが……
「Virtue――英雄に勇気を与え、奇跡を司る天使、か……」
「ってことは、アイツが結界を張って守った巨大界孔は、何かしらの“奇跡”を起こすために必要って事ですか?」
まぁ、普通に考えれば、そう言う事なんだろう。
“必要”だから、守ったんだろうしな。
チッ……ロクな予感がしねぇ。
それと、最大の問題は、最後の部分。
「――コレ、もしかして副長、界孔に落ちたんでしょうか?」
「俺達が閉じて回っている界孔と、同じものとは限らんが、恐らくはな……」
そもそも、界孔は開いたら、鍵を使って閉じるまで開きっぱなしが基本だった。
なのに、霧島が落ちたと思われるこの穴は、彼女を吸い込んだ後勝手に閉じたように見える。
なんにせよ、穴が塞がった時点で、霧島との接続が全てがシャットアウトされてしまったため、あの後どうなったかも一切わからなかった。
「どちらにしても、霧島の跳ばされた先が、幽幻界から繋がる異世界のどれかなのは間違いないだろうから、それを特定するのが先だ」
「なら、それは~、柳君と私で、方法を探してみます~」
「……あぁ、業務の負担は増えるが、頼むぞ」
ボディを作った柳と、データ解析が得意な有田が組めば、行き先は遠からず発見できるだろう。
なら、あとは――
「局長、あの――」
「神埼は、俺と一緒に通常業務をこなしながら、シミュレーターのレベルを100以上まで引き上げろ」
――発見した世界の“座標”をシステムに登録して、霧島が使ってるボディとダイブマシンを再接続できれば、たとえ死んでも、精神を引っ張り戻せるようになる。
それまでは――
死ぬなよ……霧島。




