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異世界管理局  作者: 城河 ゆう
第一章 幽幻界編
4/20

4話

「……どちら様? 死んで幽幻界に来た魂――って感じじゃないけど」

「ここで消える者には、必要の無い情報だ」


 少しでも情報を得ようと、警戒を解かずに声をかけてみるが、相手は表情も変えずに一蹴されてしまった。


「(まぁ、仕方ないか……なら――)」


 相手が話すつもり無いなら、時間を稼ぎながら、スーパーオペレーターに解析してみてもらいましょ。


 私は警戒の構えを取ったまま、右手の親指で、他の指を数回触る。


 これは、視線を共有しているサッちゃんと、あらかじめ決めてあったハンドサインの一つだ。

 親指以外の4本を、どの順番で何回触るかのパターンで、簡単にある程度の意思を伝えられる。



 そして、サッちゃんなら――


『……了解です~』


 ――見逃す心配もない。



 今頼んだのは、エネルギー反応の再確認だ。

 界孔に集中していた私と神埼君は仕方ないとしても、サッちゃんにすらコイツの接近を察知出来なかったのは、なんで?


『――確認できました~。 副長が反応した直前のタイミングで、一瞬だけ強いエネルギー反応がありました~。 なので、どうやら近付いて来たのではなく、副長達が現場に行く時みたいに――』

「――なるほど、転送されて来た可能性が高い、って事か」


 サッちゃんの推察を口にした瞬間。


 それまでは顔色すら変えなかった男が、わずかに眉をひそめた。


「索敵のための人員が他にもいたか――迂闊だった」

「じゃあ、このまま見逃してくれる?」

「……いや――」


 私が、わざとおどけた感じで言うと、男はため息まじりに目を閉じた――次の瞬間。


「――それはできない相談だ」


 ドンっ、と言う音が響いたかと思うと、瞬間移動と見紛う程の速度で、一瞬の内に目前に迫り――



 ――ギィィン!



「――っぐぅ」

「……ほぅ。 ――ふんっ!」

「あっ、がふっ!」

「『副長!!』」


 ――腰の剣による一閃を何とかガントレットで受けるも、流れるような動きで放たれた回し蹴りを食らい、大きく吹き飛ばされてしまった。


「――――くっ――づぅっ!!」


 二度ほど地面と接触しながらも、何とか体勢を整えて滑るように勢いを殺す。


「はぁ、はぁ、はぁ……あ゛ぁ~、痛たたぁ……」

「だ、大丈夫ですか!?」


 慌てた様子で駆け寄って来た神埼君に、息を整えつつ頷く事で無事を伝えながら、少しふらふらする頭を振って再び構え直すと、相手は驚いたように目を見開いていた。


「今のを受けられるとは思っていなかった。 すまなかったな。 女と侮った事を謝罪しよう」

「……なら、さっきも言ったけど、見逃してくれてもいいわよ?」


 正直、汎用のG型で相手をするのはキツイ。


 スピードも、パワーも違いすぎる……。


 局長か、せめて戦闘特化のB型でもあれば――


「冗談だろう? 侮れん相手だと言う事は、ますます野放しにはできん」

「あ~、まぁそうなるよね」


 はぁ……仕方ない……死に戻り(・・・・)も選択肢に入れるか……。


「神埼君、ポイントまでダッシュ! サッちゃん、準備よろしく!」

「え? 副長!?」


 幸い、さっきまでは界孔を背に、転送ポイントとの間にアイツがいたけど、蹴り飛ばされたお陰で、ポイントまでの直線が拓けた。


 あとは、こっちでギリギリまで引き付ける!


「そーっらぁ!」

「――っ!」


 相手に駆け寄りながら、懐から抜いたナイフを一本投げ付け牽制。


 当たり前のように剣でガードされるが、その隙に、一気に剣の間合いの内側に飛び込んだ。


「つっかまえた~」

「ぬぅ……」


 ガントレットが金属製なのを良いことに、そのまま剣身を掴む形で、変則の鍔迫り合いに持ち込む。


『神埼さん~、急いでください~』

「でもっ! ――くっそ!」


 不意に聞こえたサッちゃんの声に、神埼君を横目で窺うと、悔しそうに唇を噛みながらも、転送ポイントに向かって走り出した。


 ――よしよし、これで心配事一つ解消。

 

「さぁて、これで一人逃がしちゃったわけだけど……どうする?」

「…………ならば、先に与えられた仕事をこなすとしよう」


 短い沈黙の後、こちらに鋭い視線を向けながら静かに言うと、わずかに腰を落としながら左手を添え、剣を思い切り振り抜く。


「――っ!? ……おっととっ」


 咄嗟にバックステップで距離を取って躱したが、続く相手の行動に思わず足を止めてしまった。


 地面に剣を突き刺すと、仁王立ちで眼を瞑り、剣の柄の上に手をかざしながら、何やら小声で呟き始めたのだ。


 距離が離れているため、何を言っているのかまでは聞き取る事が出来ないが……

 


 いっそこの隙に撤退しようか、そう思ったのも束の間。



『え? 界孔の周囲にエネルギー反応!?』

「――!? ……くっ!」


 ――サッちゃんが上げた声に、弾かれたように飛び出すが――


「遅いっ! ――秘技……六剣結界(りっけんけっかい)!」


 ――男が高らかに声を上げた瞬間、突き刺された剣からゴウッと衝撃を伴う突風が吹き荒れ、吹き飛ばされまいと踏ん張った事で、私の足はその場に縫い止められる。


 その一瞬の間に、突き刺さった剣からは、空に向かって光の玉が打ち上がり、界孔の真上で六つに分かれたかと思うと、それぞれが剣の形になって地面へと突き刺さり、同時に風も止んだ。


「……いったい、何を――」


 今、結界って言った?


 誰も近付けなくなるだけなら、見張りを立てる必要が無くなって、こっちとしてもありがたいけど……


 わざわざ結界を張って守るって事は、この巨大な界孔を使って、何かしようとしてるって事よね?


 界孔は、世界同士を繋いでしまう穴――うん、正直ロクな事じゃ無さそうなんだけど?


「知る必要はない。 ……とは言え――」


 そう言いながら、男は突き刺していた剣を引き抜き、これまではほぼ右手一本で扱っていた剣の柄を両手で握った。


一端(いっぱし)の戦士が相手となれば、こちらも礼を尽くさねばならん――」


 そのまま切っ先をこちらに向けるように、顔の横で構えを取る。


「俺は、ヴァーチャーズが一柱……アインツ・ヴォルフ。 ――お前は?」

「……霧島 祐子(きりしま ゆうこ)――公務員よ」


 私の言葉に、一瞬だけ「ん?」と言う顔をするアインツだったが、すぐに気を取り直したようだ。


 剣を構えたまま腰を落とし――


「……俺の信じる正義を成すために。 ――推して参る!」


 ――高速の踏み込みから、切り上げるような一閃。

 最初の一撃程の速度はないものの、充分な鋭さを持ったそれは、咄嗟に身体を捻った私の、コートの端を切り裂いて行った。


 慌てて牽制のために蹴りを放つが、その時には既に間合いの外に飛び退かれている。


『副長~、後退出来そうですか~?』

「いやぁ、コレは正直かなり厳しい……」


 後退するにも、戦うにも、G型じゃスピードが違いすぎだ。


 踏み込みの速度が倍近く違うから、背を向けて逃げるなんて、まず不可能。


 かと言って、下がりながら戦おうにも、カウンターでは捉えられない。


 にも拘らず、初撃の速度と比較しても、一撃必殺狙いから、確実に仕留めにかかる詰め将棋みたいな動きに変わった気がする。


 お陰で、今の所なんとかなってるけど……


 これは、やっぱり、死に戻り(・・・・)が一番楽かもしれない状況だ。


 最悪、しっかりとシステム接続が出来てる幽幻界でなら、この身体(ボディ)が破壊されても、精神は元の身体に戻るだけ。


 その度に新しく身体を用意する必要はあるが、極端な話、ゲームのようにゾンビアタックも可能なのだ。


 毎回する羽目になる、臨死体験によるストレスと、身体(ボディ)を壊した事に対する、柳からの説教を許容すれば、ではあるが……


「何をブツブツ言っている? こちらにもあまり時間がないのでな。 次で決めさせてもらう」

「お? 大技? 全力で避けるわよ?」


 私の軽口を気に止めた様子も見せず、先程と同じ様に、顔の横で構えるアインツ。


 私も構えを取り、前後左右どちらにでも回避が出来るよう備えた。


「負担が大きく、あまり使いたくは無かったが、やむを得ん――行くぞ!」

「――くっ!」


 さっきより一段速い――それこそ、最初の一撃に迫る速度の突進からの――刺突。


「(切り払いじゃない! これなら――)」


 身体を回転させ、すり抜けるように躱しつつ、反撃を――


 そう思い、一歩目を踏み出した瞬間だった。



 突き出される切っ先。



 それを身体を捻りながら躱した時に見えたアインツの口元。



 全てがスローモーションに見える世界の中で、ハッキリ聞こえてしまった言葉に――



「……奥義――亜空穿孔(あくうせんこう)……!」



 ――全身が粟立ち、脳が全力で警鐘を鳴らしたが、既に成す術はなく――


「なっ!? しまっ――」


 ――私は、自分の背後に開いた界孔(・・)に吸い込まれてしまう。



 そして。



 上下左右の感覚すらもない、真っ暗な空間に放り出され、身動きも取れないまま――



 ――私の意識は、周囲の闇に溶けてしまうかのように、ゆっくりと薄れて行ったのだった……。

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